最小多項式と固有多項式|割り切れる関係と対角化の判定
次の 2 つは、固有多項式がどちらも です。片方は対角行列、もう片方は対角化できません[1]。
固有多項式では区別が付かない。最小多項式なら と に分かれます。
同じ固有値を持つ行列の中で、何が違うのかを測る道具。それが最小多項式です。
固有多項式
次正方行列 に対して、 を固有多項式と呼びます。 の 次式で、最高次の係数は 。
根はちょうど固有値です。次数が行列の大きさで決まるので、 が同じなら次数も同じになります。
最小多項式
を満たす多項式のうち、最高次の係数が で次数が最小のものを最小多項式と呼びます[1,3]。
固有多項式と違い、次数は行列ごとに変わる。 次行列でも、最小多項式が 1 次で終わることがあります。
なら なので、。 が何次でも同じです。
一意に決まる
同じ次数の候補が 2 つあると困るので、まず一意性を確かめます。 と をどちらも最小次数のモニック多項式とする。
差 を考えると、最高次が消えるので次数が下がります。 も成り立つ。
最小次数より低い次数で を消す多項式は しかないので、。 です。
消す多項式はすべて最小多項式の倍数
なら、 は で割り切れます[1]。この事実が最小多項式の使いどころを決めています。
証明は多項式の割り算です。 と書き、 とする。
が を消していて、次数は より低い。最小性から となり、 が出ます。

固有多項式は最小多項式で割り切れる
ケイリー・ハミルトンの定理は を主張します[4]。行列は自分の固有方程式を満たす、という形。
上の割り切れる性質を に当てると、次が出ます。
とくに 。最小多項式を探すときは、固有多項式の因数だけ見れば足ります。
根は同じ
割り切れるので、 の根は の根、つまり固有値です。逆も成り立ちます[1]。
を固有値、 を固有ベクトルとすると 。どんな多項式 でも になります。
とおくと左辺は 。 なので です。
次数は必ず 。重複度は代数的重複度そのまま
次数は行列ごとに変わる。重複度はジョルダン細胞の最大サイズ
2 つの多項式は根の集合が同じで、違うのは各根の指数だけ。ここに行列の細かい構造が入っています。
例:固有多項式が同じ 2 つ
どちらも 。候補は と の 2 つです。
で を計算すると、。よって 。
では の 成分が で、零行列になりません。 です。
は対角行列、 は対角化できない。この違いが指数に出ています。
例:3 次で最小多項式を求める
固有多項式を計算すると です[1]。
根が と なので、最小多項式は と の両方を因数に持ちます。いちばん低い候補は 。
零行列になったので 。 より 1 次低い。
根が と で重なっていないので、 は対角化できると分かります。固有多項式に重根があっても、対角化できる例です。
対角化の判定
最小多項式が 1 次式の積に分かれ、しかも重根を持たないこと。これが対角化できるための必要十分条件です[1,2]。
必要性は簡単です。 なら、相異なる固有値を として を作る。
対角成分ごとに見ると、どの位置でもいずれかの因数が になります。積は零行列で、この多項式は重根を持ちません。
十分性は固有空間の直和分解から出ます。 が相異なる 1 次式の積なら、空間が固有空間の直和になり、固有ベクトルの基底がとれます。
指数はジョルダン細胞の最大サイズ
固有値 の細胞が のように並んでいるとします。 に現れる の指数は、いちばん大きい細胞のサイズです。
細胞 は の形で、 かつ 。だから で初めて消えます。
全部の細胞を同時に消すには、最大サイズまで指数を上げる必要があります。それより低いと、大きい細胞が残る。
細胞が全部 1 次
指数は 1、重根なし
対角化できる
対角化できるかどうかは、細胞が全部 次かどうかと同じこと。最小多項式の指数は、それを 1 つの式で言い表しています。
例:射影の最小多項式
を満たす行列を射影と呼びます。 が を消すので、最小多項式はその因数です[1]。
候補は 、、 の 3 つ。 なら 、 なら 、それ以外なら です。
3 つ目の場合、根は と で重なりません。よって射影はつねに対角化できます。
固有値も と だけ。動かない方向と、つぶれる方向に分かれる、という幾何がここに出ています。
例:べき零行列
を満たす行列では、 が を消します。最小多項式は ()の形です。
根は ただ 1 つ。 なら重根なので、対角化できません。
、つまり のときだけ対角化できる。零行列以外のべき零行列は、どれも対角化を拒みます。
求め方
固有多項式を先に出し、その因数を次数の低いほうから試すのが基本です。根は固有値と一致するので、各固有値の因数は必ず 1 個以上入ります。
指数の組み合わせを小さいほうから当てて、 を消す最初のものが最小多項式。 なら、候補は 6 通りです。
最小多項式は連続に動かない
固有多項式は成分の多項式なので、成分を少し動かすと少しだけ変わります。最小多項式はそうなりません[1]。
なら固有値が 2 つあるので、最小多項式は 2 次で 。
ではこの行列が になり、最小多項式は の 1 次に落ちます。次数が急に変わる。
重複度が変わる瞬間に飛ぶので、数値計算で最小多項式を求めるのは難しい。理論では強力でも、計算では扱いにくい対象です。
で、 が対角化できるとき、最小多項式はどれですか。
割り切れる向きも確かめます。
を満たす多項式 について、正しいのはどれですか。
- は固有多項式で割り切れる
- は最小多項式で割り切れる
- は固有多項式に等しい
割り算の余りが最小性に反することから、 が出ます。固有多項式で割り切れるとは限りません。 なら が を消しますが、 では割り切れません。
固有多項式は大きさを、最小多項式は形を測る。次数が に届かない行列ほど、中身が対角行列に近いという読み方ができます。













対角化できるなら最小多項式は重根を持ちません。根は固有値の 5 だけなので、残る形は T−5 の 1 次だけです。このとき A−5I=O、つまり A=5I になります。