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基底を決めた瞬間に行列が決まる、線形写像の表現行列

線形写像 が決まっただけでは、行列は決まりません。基底を 2 つ選んで、はじめて 1 つに定まります[1]。

決め方は単純です。 の基底ベクトル を で送り、その行き先を の基底で表す。出た座標を第 列に縦に並べる。

だから同じ写像でも、基底を選び直せば別の行列になります。行列は写像そのものではなく、写像の座標での姿です。

列は基底の行き先

を 次元、 を 次元とし、基底を 、 とします。

各 は の元なので、基底で一意に書けます。

この係数を縦に並べたものが第 列。全部集めると 行列 ができ、これを表現行列と呼びます[1]。

第 1 添字が行、第 2 添字が列です。 の座標が第 列に入る、という向きをそろえておきます。

座標の世界では積になる

の座標を 、 の座標を と書きます。このとき次が成り立ちます[1]。

証明は展開するだけです。 に を当て、線形性で和とスカラーを外へ出す。

の係数が 、つまり の第 成分です。行列の積の定義がそのまま出てきました。

行列の積があの形をしているのは、この計算に合わせてあるためです。定義が先にあって写像が後、という順ではありません。

例: から へ

とし、両方とも標準基底をとります。

、、。順に列へ立てます。

確かめると で、定義と一致します。

例:多項式の微分

次以下の多項式の空間から、 次以下の空間への微分を考えます。基底は と 。

は へ、 は へ、 は へ移ります。座標は順に 、、。

の座標は 。掛けると で、 と合います。

多項式という見かけを外すと、微分がただの 行列になりました。座標を通すと、抽象的な写像が数値の計算に落ちます。

合成は積になる

、 の表現行列を 、 とすると、 の表現行列は です[1]。

座標で追えば分かります。 が へ移り、それがさらに へ移る。

3 つの空間で基底が別々でも、真ん中の基底さえ共通なら成り立ちます。 の基底を 側と 側で違えると、この式は崩れます。

で座標をとる

を掛けて の座標へ

を掛けて の座標へ

基底を変えると行列が変わる

の基底を から へ、 の基底を から へ変えます。新しい表現行列 は、もとの と次の関係になります。

は の基底変換行列、 は の基底変換行列です[1,3]。 の第 列は を古い基底で表した座標。

読み方は右から左です。新しい座標を で古い座標に直し、 で送り、 で新しい座標へ戻す。

基底変換行列はつねに正則です。逆向きの変換がその逆行列になるためで、 が成り立ちます[1]。

例:基底を変えて計算する

次以下の多項式の空間で、基底を 、 とします[1]。

から への変換行列を出します。 なので、第 1 列は 。

より、第 2 列は です。

標準基底 を経由すると、連立方程式を解かずに済みます。 と分けるやり方です[1]。

同じ空間なら相似になる

で、行き先も出発点も同じ基底を使う場合、 になります。

この関係にある 2 つの行列を相似といいます[2]。固有値、トレース、行列式、階数は相似で変わりません。

次の で、基底を と にとります。

対角行列になりました。 と が固有ベクトルなので、この基底では写像が方向ごとの伸縮に見えます。

対角化とは、表現行列がいちばん簡単になる基底を探す作業のことです。

階数だけは基底で消えない

と の基底を両方とも好きに選んでよいなら、表現行列を極端に簡単にできます。

は の階数です。左上に単位行列、あとは全部 という形にできます。

作り方は核から始めます。 の基底をとり、 の基底へ延長する。延長した側の像が の基底になり、それを の基底へ延長します。

基底を変えても は動きません。相似だけでなく、 の形の同値変換でも保たれる量です。

基底の選び方で変わるもの

行列の成分そのもの。同じ写像でも、基底が違えば別の数値が並ぶ

選び方によらないもの

階数、核と像の次元。 なら固有値・トレース・行列式も動かない

写像の全体と行列の全体

基底を固定すると、 から への線形写像の全体 と、 行列の全体が 1 対 1 に対応します。

和とスカラー倍も保たれるので、線形空間としての同型です。次元は になります。

この同型のもとで、合成が積に、可逆な写像が正則行列に、階数が行列の階数に対応する。写像の言葉と行列の言葉が、そのまま翻訳し合えます。

同型といっても、基底を固定するごとに 1 つ 決まる対応です。

基底の選び方を変えれば、別の同型になる。標準的に決まる対応ではないので、写像と行列を同じものとは呼ばない。

で 、 のとき、表現行列の大きさはどれですか。

__RESULT__

列が の基底の本数、行が の基底の本数です。 の座標が 成分ぶん縦に並び、それが 列そろいます。 の形とも合います。

基底を変えたときの動きも確かめます。

で基底を選び直したとき、変わらないのはどれですか。

  • 行列の各成分
  • 行列式
  • 第 1 列の値
__RESULT__

で です。成分は基底ごとに変わり、第 1 列も新しい基底の第 1 ベクトルの行き先に変わります。固有値・トレース・階数も同じく保たれます。

つまずきやすいところ

の座標を行に並べる。列に立てるのが正しく、行に並べると転置になります。
出発点と行き先で基底をそろえたつもりが、片方だけ変えている。 の と は別物です。
合成 の表現行列を と書く。左から作用するので です。
基底変換行列の向きを逆にとる。 の列は、新しい基底を古い基底で表した座標になります。
基底が違う 2 つの行列を、成分が違うからと別の写像だと思う。 の形で結ばれていれば同じ写像です。

写像は基底を知りません。行列は基底ごとに変わります。両者をつなぐのが座標で、その翻訳規則が表現行列です。

出典

Sergei Treil. *Linear Algebra Done Wrong*, Chapter 2. Brown University.
Linear transformation. Encyclopedia of Mathematics.
Andreas Gathmann. *Lineare Abbildungen als Matrizen*. Grundlagen der Mathematik, RPTU Kaiserslautern.
写像 $f$ だけでは行列は決まりません。基底を 2 つ選び、$f(e_j)$ の座標を第 $j$ 列に立てて、はじめて 1 つに定まる。座標をとると $\mathbf{y} = A\mathbf{x}$ になり、この計算から行列の積の定義そのものが出てきます。合成が $BA$ になる理由も同じところから。基底を選び直すと $A' = Q^{-1}AP$ に変わり、$V = W$ なら $P^{-1}AP$ の相似になります。$(2,1;0,3)$ が基底の選び方ひとつで対角行列に化ける例、両方の基底を自由にとれば左上に単位行列が並ぶ標準形まで持ち込める話、それでも階数だけは動かないところまで。多項式の微分を $2 \times 3$ 行列で書く例も入れました。