ジョルダン標準形

ジョルダン標準形は、対角化できない行列に対しても定義できる標準的な形である。固有値の重複や固有空間の次元不足を、ジョルダン細胞という構造で表現する。

対角化できない行列

正方行列は必ずしも対角化できるとは限らない。固有値 の代数的重複度(固有多項式の根としての重複度)と幾何的重複度(固有空間の次元)が異なるとき、対角化は不可能である。

たとえば、次の行列は固有値 2 をもつが対角化できない。

固有値 2 の代数的重複度は 2 だが、固有空間は1次元しかない。

ジョルダン細胞

次のジョルダン細胞 は、対角成分が 、対角線の一つ上が 1、他は 0 の行列である。

のときは単に であり、これは対角化可能な場合に相当する。

ジョルダン標準形

任意の正方行列 (複素数体上)は、適当な正則行列 により次の形に変換できる。

対角ブロックはジョルダン細胞であり、この形をジョルダン標準形と呼ぶ。同じ固有値に対して複数のジョルダン細胞が現れることもある。

ジョルダン標準形の一意性

ジョルダン標準形は、ジョルダン細胞の並び順を除いて一意に定まる。各固有値に対するジョルダン細胞のサイズと個数は行列の不変量である。

行列が対角化可能であることは、すべてのジョルダン細胞のサイズが 1 であることと同値である。

応用

ジョルダン標準形は理論的には重要だが、数値計算では不安定であるため直接計算されることは少ない。

行列の累乗

の計算にジョルダン標準形が使える。 は明示的に計算でき、対角化できない場合の指数的増大の様子がわかる。

微分方程式

連立線形微分方程式 の解は、 のジョルダン標準形から構成できる。

行列の相似類

2つの行列が相似かどうかは、ジョルダン標準形を比較すれば判定できる。

実用的にはシュール分解など、数値的に安定な分解が用いられることが多い。