A=PDP−1 と書けたら、n 乗すると間の P−1P が次々に消えます[1]。
An=PDnP−1
D は対角行列なので、Dn は成分を n 乗するだけ。100 乗でも手で書けます。
対角化できないときは、A=λI+N と分けて二項定理を使うか、ケイリー・ハミルトンで次数を下げます。
以下 12 問。対角行列から始めて、対角化、べき零、ジョルダン細胞、周期を持つ行列まで扱います。
問題 1
A=(2003)
対角行列なので、成分をそのまま 10 乗します。
A10=(10240059049)
210=1024、310=59049 です。
問題 2
B=(1011)
B=I+N と分けます。N は (1,2) 成分だけが 1 で、N2=O。
I と N は可換なので二項定理が使え、N2 以降が消えます。
Bn=I+nN=(10n1)
右上が n ずつ増えるだけ。B100 の右上は 100 です。
問題 3
C=(3012)
上三角なので固有値は 3 と 2。相異なるので対角化できます。
λ=3 の固有ベクトルは (1,0)、λ=2 は (1,−1) です。
P=(101−1),P−1=(101−1)
detP=−1 なので、公式に入れると P−1 が P 自身になります。
Cn=P(3n002n)P−1=(3n03n−2n2n)
n=1 を入れると (1,2) 成分が 3−2=1 で、C に戻ります。
問題 4
D=(2112)
対称行列です。固有値は 3 と 1、固有ベクトルは (1,1) と (1,−1)。
対称なので固有ベクトルが直交します。正規化して P を作れば、P−1=PT で済みます。
Dn=21(3n+13n−13n−13n+1)
n=2 で確かめます。21(10,8;8,10)=(5,4;4,5)。直接 D2 を計算しても同じです。
問題 5
E=(1110)
固有多項式は λ2−λ−1。ケイリー・ハミルトンより E2=E+I です[2]。
E3=E⋅E2=E2+E=2E+I、E4=3E+2I。係数がフィボナッチ数になります。
En=FnE+Fn−1I=(Fn+1FnFnFn−1)
n=2 なら F3=2、F2=1、F1=1 で (2,1;1,1)。E2=E+I と一致します。
固有値が無理数でも、次数下げなら整数の計算だけで進みます。
問題 6
N=000100010
N2 は (1,3) 成分だけが 1、N3=O になります。
n≥3 ではすべて零行列。べき零行列は、有限回で消えます。
1 が右上へ動いていき、外へ出たところで終わり。細胞のサイズが、消えるまでの回数にあたります。
問題 7
J=(λ01λ)
J=λI+N と分けます。λI と N は可換で、N2=O。
二項定理を当てると、k≥2 の項が消えます[3]。
Jn=λnI+nλn−1N=(λn0nλn−1λn)
λ の n 乗に加えて、nλn−1 という項が右上に出ます。
問題 8
3 次のジョルダン細胞 J3(λ) について Jn を求めてください。
N3=O なので、二項定理の項は k=0,1,2 の 3 つだけ残ります。
Jn=λnI+nλn−1N+(2n)λn−2N2
N は対角の 1 つ右、N2 は 2 つ右に 1 を置く行列です。だから右上の段ごとに、係数が変わります。
問題 9
R=(01−10)
90 度回転です。R2=−I、R3=−R、R4=I になります。
4 回で単位行列に戻るので、Rn は n を 4 で割った余りだけで決まります。
R2026 なら 2026=4⋅506+2 なので R2=−I です。
固有値が ±i で絶対値が 1 なので、いくら掛けても大きくなりません。
問題 10
P2=P を満たす行列について、Pn を求めてください。
P2=P を繰り返し使うと、P3=P⋅P2=P⋅P=P。
すべての n≥1 で Pn=P です。射影は、何度当てても結果が変わりません。
固有値が 0 と 1 しかないことからも分かります。0n=0、1n=1 で、対角成分が動きません。
問題 11
F=(1021)
F=I+2N の形です。N2=O なので、問題 2 と同じ理屈が通ります。
Fn=I+2nN=(102n1)
F100 の右上は 200。2 の 100 乗にはなりません。
問題 12
G=(3013)
固有値は 3 の重解で、対角化できません。G=3I+N と分けます。
Gn=3nI+n3n−1N=(3n0n3n−13n)
n=2 で確かめます。(9,2⋅3;0,9)=(9,6;0,9)。直接 G2 を計算しても同じです。
対角化できる
PDnP−1 で終わる。固有値の n 乗を並べるだけ
対角化できない
λI+N に分けて二項定理。nλn−1 のような項が余分に出る
発展
n が大きいときの振る舞いは、固有値の絶対値で決まります。すべて 1 未満なら An→O に落ちる。
1 を超えるものが 1 つでもあれば発散します。ちょうど 1 のときは、細胞のサイズによって n の多項式ぶんだけ伸びる。
確率行列は固有値の絶対値が 1 以下で、1 が必ず入ります。An が定常分布へ近づく仕組みが、この形から読めます。
λ が固有値の 2 次のジョルダン細胞について、Jn の (1,2) 成分はどれですか。
__RESULT__
J=λI+N を二項展開すると λnI+nλn−1N です。N2=O で、それ以降の項が消えます。N は (1,2) 成分だけが 1 なので、そこに nλn−1 が入ります。
対角化できる場合も確かめます。
A=PDP−1 で D=diag(2,5) のとき、A3 を求める式はどれですか。
- Pdiag(8,125)P−1
- P3diag(8,125)(P−1)3
- diag(8,125)
__RESULT__
A3=PDP−1PDP−1PDP−1 で、間の P−1P が単位行列になって消えます。残るのは PD3P−1。P 自身は 3 乗されません。
対角化できるなら PDnP−1、できないなら λI+N に分ける。どちらでも、n の式として書き下せます。100 乗を直接掛ける必要はありません。
参考文献
Sergei Treil. *Linear Algebra Done Wrong*, Chapter 4. Brown University. David Dummit. *Applications of the Jordan Canonical Form*. Math 4571, Northeastern University.
$A = PDP^{-1}$ なら、$n$ 乗したとき間の $P^{-1}P$ が次々に消えて $PD^nP^{-1}$ が残ります。$D$ は成分を $n$ 乗するだけなので、$100$ 乗でも手で書ける。対角化できないときは $\lambda I + N$ に分けて二項定理を使うと、$N^2 = O$ から $n\lambda^{n-1}$ の項までで止まります。12 問で、対角行列、対称行列、ジョルダン細胞、べき零、$4$ 回で単位行列に戻る回転行列、$P^n = P$ になる射影を扱いました。$(1,1;1,0)$ の $n$ 乗にフィボナッチ数が並ぶ話、ケイリー・ハミルトンで次数を下げる手順も入れています。
J=λI+N を二項展開すると λnI+nλn−1N です。N2=O で、それ以降の項が消えます。N は (1,2) 成分だけが 1 なので、そこに nλn−1 が入ります。