置換と行列式の定義(符号つき)

次正方行列の行列式を厳密に定義するには、置換という概念が必要になる。ここでは置換の基本的な性質を整理したうえで、行列式の一般的な定義を導入する。

置換とは

から への全単射を 次の置換と呼ぶ。置換 は、各 に移す写像であり、すべての要素がちょうど 1 回ずつ像に現れる。 次の置換全体の集合を と書き、その要素数は 個である。

たとえば 3 次の置換で となるものは、上下に並べた記法で次のように表される。

これは と巡回するので、巡回置換 とも書ける。

互換と置換の符号

2 つの要素だけを入れ替え、残りは動かさない置換を互換という。たとえば は 1 と 3 を入れ替える互換である。任意の置換は互換の積として表現でき、その分解の仕方は一意ではないが、必要な互換の個数の偶奇は常に一定であることが知られている。

この性質に基づき、置換の符号 を次のように定義する。

符号の別表現として、転倒数を用いる方法もある。 なのに となる組 の個数を転倒数と呼び、転倒数が偶数なら偶置換、奇数なら奇置換となる。

偶置換

互換の偶数個の積で表される。。恒等置換はゼロ個の互換の積なので偶置換に含まれる。

奇置換

互換の奇数個の積で表される。。互換そのものは 1 個の互換なので奇置換の典型例である。

具体例: の全置換

は 6 個の要素からなる。それぞれの置換と符号を確認しよう。

置換巡回表記符号

3 次の巡回置換は 2 つの互換の積として表せるため偶置換になる。たとえば である。一方、互換はそのまま奇置換となる。

行列式の定義

次正方行列 行列式 は、 上の置換を用いて次のように定義される。

この式は、行列の各行から 1 つずつ成分を選び(ただし列が重複しないように)、その積に置換の符号を掛けたものをすべて足し合わせる操作を意味している。選び方の全パターンが の要素に対応するため、合計 個の項からなる。

2 次と 3 次での確認

の場合、 なので、

となり、おなじみの公式が得られる。 に対応する項が (符号 )、互換 に対応する項が (符号 )である。

の場合は 項になり、サラスの方法(斜めの掛け算)と一致する結果が得られる。置換を用いた定義はこうした個別の公式を統一的に表現するものであり、 が 4 以上の場合にも同じ式がそのまま適用できるところに強みがある。

符号の積に関する性質

置換の符号には次の重要な性質がある。

積の符号

が成り立つ。これは符号が から への群準同型であることを意味する。

逆置換の符号

である。逆置換は元の置換と同じ符号をもつ。

行列式の性質、たとえば や転置しても行列式が変わらないといった定理は、いずれもこの置換と符号の代数的構造から導かれる。行列式を天下りの公式として覚えるのではなく、置換の符号つき和として理解することで、高次の行列や抽象的な議論への橋渡しが可能になる。