線形写像の核と像|次元定理を証明と例で理解する
線形写像について問うべきことは 2 つある。どこがつぶれるか、どこまで届くか。前者を集めたものが核、後者を集めたものが像である。
この 2 つは無関係ではない。つぶれた分だけ届く範囲が狭くなる、という関係が次元定理で、線形代数の中心にある等式である。
つぶれる部分と届く範囲
空間から平面への影を思い浮かべる。真上から光を当てると、立体の高さの情報が消えて平面に影が落ちる。
消えてしまう方向が核にあたり、影の落ちる先が像にあたる。高さという 1 次元が消え、平面という 2 次元が残る。
もとの空間は 3 次元だった。 という足し算が成り立っている。
この足し算が偶然でないことを述べるのが次元定理である。以下では定義から始めて、この等式を証明し、連立方程式の解の形まで下りる。
核の定義
線形写像 に対し、零ベクトルに移る元の全体を核という。
核はつねに零ベクトルを含む。あとで見るように が線形性から従うからである。したがって核が空になることはない。
核の次元を の退化次数と呼び、 と書く。核が大きいほど写像は多くをつぶしている。
核は部分空間である
は の部分空間になる。部分空間であるとは、零ベクトルを含み、和とスカラー倍で閉じていることである。
まず零ベクトルを含むことを見る。線形性から なので、 である。
次に和で閉じることを見る。 とすると、次のようになる。
最後にスカラー倍である。 をスカラーとすると となる。
3 つの条件がすべて確かめられた。使ったのは線形性の 2 条件だけである。
像の定義
行き先の全体を集めたものが像である。
これは の部分集合になる。 全体と一致するとはかぎらず、一致するとき を全射という。
像の次元を の階数と呼び、 と書く。ランクという言い方もよく使う。
像は部分空間である
像も部分空間になる。証明は核のときとほとんど同じである。
零ベクトルを含むことは から従う。和については、像の 2 元がそれぞれ 、 と書けることを使う。
スカラー倍も同様で、 となる。
核は の部分空間、像は の部分空間である。住んでいる空間が違う点に注意する。
行列で書くとどうなるか
を 行列とし、 で を定める。核と像がそれぞれ見慣れた対象になる。
核は同次連立一次方程式の解空間である。
像は列ベクトルの張る空間である。 の第 列を と書くと なので、次が成り立つ。
これを の列空間という。核を求めるのは方程式を解く問題、像を求めるのは列ベクトルが何を張るかという問題である。
どちらも掃き出し法で計算できる。しかも 1 回の掃き出しで両方が同時に読み取れる。
掃き出し法で核を求める
具体例で計算する。次の行列を考える。
を解く。第 2 行から第 1 行の 2 倍を引く。
さらに第 1 行から第 2 行の 2 倍を引くと、主成分のある列が単位ベクトルになる。
と が読み取れる。 は自由に動かせるので、核は 1 本のベクトルの定数倍になる。
念のため確かめる。 を掛けると第 1 成分が 、第 2 成分が である。核の次元は 1 になる。
同じ行列で像を求める
同じ の像を求める。列ベクトルは 、、 である。
前節の行階段形で、主成分は第 1 列と第 2 列にあった。このとき と が像の基底になる。理由は最後の節で説明する。
は独立でない。核の元 は という関係を表しているので、 である。
実際に計算すると で、確かに に一致する。核の元は列ベクトルの一次関係そのものだと分かる。
像が 全体なので は全射である。一方、核が零だけではないので単射ではない。
平面への射影
いちばん見やすい例が射影である。 を で定める。
行列で書けば対角成分が の対角行列になる。核は で定まる集合、つまり 軸である。
像は で定まる集合、つまり 平面である。核の次元は 1、像の次元は 2 で、足すと定義域の次元 3 になる。
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<text x="176" y="212" font-size="11" fill="#1f1f1f">O</text>
<text x="178" y="80" font-size="11" fill="#1f1f1f">核(z 軸)</text>
<text x="256" y="92" font-size="11" fill="#1b81e0">v</text>
<text x="258" y="196" font-size="11" fill="#1b81e0">f(v)</text>
<text x="300" y="222" font-size="11" fill="#9a9a9a">像(xy 平面)</text>
</svg>真上から光を当てて影を作る操作だと思えばよい。影に現れない方向が核であり、影が広がる面が像である。
微分という線形写像
行列以外の例も見ておく。3 次以下の多項式全体を と書くと、 が基底なので 4 次元である。
微分 は から への線形写像になる。 と が線形性そのものだからである。
核は微分すると消える多項式、つまり定数である。 で次元は 1 になる。
像を調べる。、、 なので、 がすべて像に入る。
したがって像は 2 次以下の多項式全体で、次元は 3 である。 となり、射影のときと同じ足し算が現れる。
単射であることと核
線形写像の単射性は、核だけを見れば判定できる。 が単射であることと であることは同値である。
まず を単射とする。 を取ると である。単射なので となり、核は零だけになる。
逆に とする。 とすると、線形性から次が成り立つ。
よって で である。 は単射になる。
一般の写像で単射性を調べるには 2 点ずつ比べる必要がある。線形写像では零に移るものだけ調べれば済む。核が便利な理由がここにある。
全射であることと像
全射であることは、定義から と言い換えられる。行列の場合はさらに具体的になる。
が全射であることは、任意の について が解を持つことと同じである。これは がつねに列空間に入ることを意味する。
解の一意性。核が零だけなら解はたかだか 1 つ。
解の存在。 が像に入るときだけ解がある。
単射と全射は、連立方程式の一意性と存在性にそれぞれ対応している。核と像を調べることは、方程式の解の様子を調べることに他ならない。
次元定理
ここまでの例で と という足し算が現れた。これが一般に成り立つ。
を有限次元とし、 を線形写像とすると次が成り立つ。
これを次元定理、または階数・退化次数の定理という。核が太るほど像が痩せる、という関係を等式にしたものである。
右辺に の次元が現れない点に注意する。行き先の空間がどれだけ広くても、この等式は変わらない。効いているのは出発点の次元だけである。
核の基底を延長する
証明する。、 とおく。
の基底 を取る。これは の一次独立な組なので、 の基底に延長できる。
示すべきことは、 が の基底になることである。これが言えれば となり、定理が従う。
まず像を生成することを見る。 は と書け、 を基底で展開すると となる。
は核の元なので である。したがって となり、生成することが分かる。
次に一次独立を見る。 とすると、線形性から である。
つまり は核の元なので、核の基底を使って と書ける。移項すると次のようになる。
と を並べたものは の基底だったので、係数はすべて である。とくにすべての が になり、一次独立が示された。
次元定理を確かめる
行列で確かめる。次の 行列を考える。
第 3 行から第 1 行を引くと第 2 行と同じになり、さらに第 2 行を引くと になる。第 1 行から第 2 行の 2 倍を引けば行階段形が得られる。
主成分は第 1 列と第 2 列にあるので階数は 2 である。像の基底は の第 1 列 と第 2 列 になる。
自由変数は と の 2 つで、、 である。これで核の基底が読める。
どちらも を掛けると零になる。核の次元 2 と像の次元 2 を足すと 4 で、定義域 の次元に一致する。
行列の場合、核の次元は自由変数の個数、像の次元は主成分の個数である。両者を足すと列の総数になるのは当たり前で、次元定理はこの当たり前を一般の線形写像へ広げたものだと言える。
が全射であるとき、核の次元はいくつか。
- 0
- 2
- 3
- 5
正方行列では単射と全射が一致する
という、出発点と行き先の次元が等しい場合を見る。次元定理から次が成り立つ。
が単射であることは と同値だった。等式からこれは と同値になる。
の 次元部分空間は 自身しかない。したがって は が全射であることと同値である。
まとめると、正方行列では単射・全射・全単射がすべて同値になる。これはさらに とも同値である。
「 の解がつねにただ 1 つある」ことと「 の解が だけである」ことが同じ主張なのは、この事実の言い換えである。片方だけ確かめれば足りる。
無限次元では崩れる
前節が成り立つのは、出発点と行き先の次元が等しく、しかも有限だからである。次元が無限だと事情が変わる。
多項式全体 を考える。次数に上限を置かないので無限次元である。微分 を見る。
は全射である。どんな多項式にも原始関数があり、それを微分すればもとに戻るからである。
しかし単射ではない。定数が核に入っているからである。全射だが単射でない、という状況が起きている。
有限次元で次元が等しければ、これは起こり得なかった。次元定理は が有限のときの定理であり、無限次元では等式が情報を持たなくなる。
連立方程式の解の形
核と像を使うと、 の解全体がきれいに書ける。
を 1 つの解とする。これを特殊解と呼ぶ。このとき が解であることと が核に入ることは同値である。
から を引けば となり、逆に なら だからである。
したがって解全体は次のように書ける。
解の存在は像が決め、解の広がりは核が決める。 が像に入らなければ解はなく、入るなら核の次元だけ解が広がる。
核が零だけなら解はちょうど 1 つである。核が 次元なら、解全体は 個のパラメータを持つ。
解を書き下す
前に使った で実際に書き下す。 とする。
は の第 1 列そのものなので、 が解になる。とくに は像に入っているので解は存在する。
核の基底はすでに求めてある。したがって解全体は次のとおりである。
と は自由なパラメータである。解は 1 点ではなく、2 つのパラメータを持つ広がりになる。
が像に入らなければ解はない。たとえば を取ると、 を満たす は存在しない。第 2 成分から 、第 1 成分から となり、第 3 成分が になるからである。
行ランクと列ランクが一致する理由
最後に、像の基底を主成分から読み取ってよい理由を説明する。掃き出しで数えた主成分の個数を行ランク、列空間の次元を列ランクという。
鍵は、行基本変形が核を変えないことである。 を変形して を得たとき、 と の解は同じである。
ところで という式は、列ベクトルの間の一次関係そのものである。したがって列どうしの一次関係は、変形しても変わらない。
行階段形では、主成分のある列は一次独立で、それ以外の列は主成分のある列の一次結合になる。同じ関係がもとの の列でも成り立つ。
よって主成分のある列に対応するもとの列が像の基底になり、列ランクは主成分の個数、つまり行ランクに等しい。
前の例で を像の基底に選び、 と書けたのは、まさにこの事実を使っていた。1 回の掃き出しで核と像が同時に求まるのも、同じ理由による。














全射なので像の次元は 3 です。次元定理から核の次元は 5−3=2 になります。行き先が 3 次元しかないので、R5 からの写像が単射になることはありません。