行列式を一つに決める公理(多重線形性・交代性・正規化)
列について線形で、2 列入れ替えると符号が変わり、単位行列で になる。この 3 つを満たす関数は、 つしかありません[1]。
その つが行列式です。ライプニッツの公式も余因子展開も計算の手順であって、行列式が何かを決めているのはこの 3 条件のほうです。
列ベクトルの関数として見る
次正方行列 の列を とし、行列式を 変数の関数として書きます。
行で考えても同じ議論が通ります。転置しても値が変わらないので、どちらを基準にしてもよい。
多重線形性
番目以外の列を固定したとき、 番目について線形になります[1]。
「全体として線形」ではありません。 列ずつ、他を止めたうえで線形、という意味です。
行列全体を 倍すると、 個の列がそれぞれ 倍されます。 列ずつ外へ出すので、 が 回出てくる。
次で なら 倍。 ではありません。
例:2 次で確かめる
第 1 列を 倍します。 と が と に変わる。
が外へ出ました。第 2 列でも同じで、両方を 倍すれば になります。
交代性
つの列を入れ替えると、符号が反転します[1]。
次で見ると分かりやすい。 の 列を入れ替えると になり、符号だけが変わります。
同じ列があれば
交代性から直ちに出ます。同じ列が つあるとき、その 列を入れ替えても行列は変わりません。
一方で交代性から符号が反転する。 となり、移項して です[1]。
列が ベクトルのときも になります。その列を 倍しても行列は変わらないのに、線形性からは 倍が出るためです[1]。
一次従属なら
もっと強いことが言えます。列が一次従属なら、行列式は です[1]。
と書けたとします。第 1 列にこれを入れ、線形性で分けます。
右辺の各項では、 が第 1 列と第 列の か所に現れます。同じ列が つあるので、全部 。
逆も成り立ちます。列が一次独立なら 。行列式が正則性の判定になるのは、この同値からです。
列が他の列の定数倍、という特別な場合も 一次従属 に含まれます。
なら 。線形性で係数を出してから、同じ列の規則を当てる。
正規化
つ目は、単位行列で になるという条件です[1]。
これがないと大きさが決まりません。すべての行列に を返す関数でも、多重線形性と交代性は満たしてしまいます。
倍した関数 も同じく満たします。正規化はこの自由度を止め、関数を つに絞る役をします。
3 条件で つに決まる
多重線形性、交代性、正規化。この つを満たす関数 は、ただ つしか存在しません[1,2]。
理由の筋は次のとおりです。各列を標準基底で展開し、多重線形性で開くと、 個の項が並びます。
同じ基底ベクトルが 回現れる項は、交代性から 。生き残るのは、 個の基底が全部違う位置に現れる項だけです。
そういう項は置換 に対応し、 個あります。並べ替えの符号を交代性から出し、正規化で を入れると、値が完全に決まる。
ライプニッツの公式が出てきました。公式が定義に見えることがありますが、順番はこちらが後です[2]。

列に他の列の定数倍を足しても変わらない
実際の計算でいちばん使う性質です。 条件から導けます[1]。
第 列に第 列の 倍を足します。多重線形性で つに分けます。
右辺の第 項では、 が第 列と第 列の か所にあります。同じ列が つなので 。
値が変わらないので、この操作は自由に使えます。掃き出しで を増やしても、行列式は動きません。
行や列に他の定数倍を足す
行列式は変わらない
上三角にすれば対角の積で出る
例:掃き出しで 4 次を計算する
第 行と第 行を入れ替えます。交代性から符号が 倍。
続いて第 行から第 行の 倍、第 行から第 行を引きます。ここは値が変わりません。
第 行と第 行を入れ替えて、符号がもう一度反転して に戻ります。
そこから第 行に 倍、第 行に 倍を足すと と が出て、差をとると 。
対角成分は なので、積は 。入れ替えが 回で符号は正のまま、 です。
第 行で余因子展開しても になり、一致します。
転置しても変わらない
ライプニッツの公式で見ると分かります。置換 の項と の項が対応し、符号は で変わりません。
この性質があるので、列について証明した話がそのまま行にも通ります。掃き出しで行を使ってよいのは、これがあるからです。
積の行列式
証明の筋は多重線形性です。 の第 列は に の第 列を掛けたもので、 の列の一次結合になっています。
係数を の成分に持つ形で展開し、同じ列が重なる項を落とすと、ライプニッツの公式と同じ形が現れる。整理すると が外へ出て、残りが になります。
系として 。 の両辺の行列式をとるだけです。
は にならない。多重線形性は列ごとの話で、行列全体の和には効かない
がつねに成り立つ。順番を変えても と同じ値になる
幾何で読む
次なら、 の絶対値は 本の列が張る平行四辺形の面積です。 次なら平行六面体の体積になります。
条件は、この見方から自然に出てきます。 辺を 倍すれば面積も 倍で、これが線形性。
同じ列が つなら、平行四辺形がつぶれて面積 。単位正方形の面積が 、というのが正規化です[1]。
符号は向きを表します。列を入れ替えると裏返るので、符号が反転する。
行列 について、 はいくらですか。
交代性から出る結論も確かめます。
次正方行列で、第 列と第 列が等しいとき、行列式はいくらですか。
- 成分によって変わる
入れ替えても行列が同じなのに、交代性からは符号が反転します。 より です。列が一次従属になっているので、この行列は正則ではありません。
操作と値の関係も見ます。
第 行に第 行の 倍を足しました。行列式はどうなりますか。
- 変わらない
- 倍になる
- 倍になる
多重線形性で つに分けると、片方は同じ行が つある行列式で です。残るのはもとの値だけ。掃き出しで を作る操作が使えるのは、この性質があるからです。
発展
条件は、体が何であっても書けます。実数でも複素数でも、有限体でも同じ形で通ります[1]。
面積や体積という幾何の言葉は実数の話ですが、条件そのものは足し算と掛け算だけで書かれている。だから議論がそのまま移ります。
ただし交代性の書き方は 通りではありません。 になる体では、 から が出ない。そこで「同じ列があれば 」のほうを条件に据えます[3]。実数や複素数なら、どちらでも同じことになります。
さらに一般化すると、交代多重線形形式という対象になります。 次元空間の上でこの形式は 次元ぶんしかなく、その事実が「 条件で つに決まる」ことの言い換えです[3]。
外積代数はこの見方を押し進めたもので、行列式は最高次の成分として現れます。
計算の公式は複数あり、場面で使い分けます。決めているのは公式ではなく、 つの条件のほうです。














det(cA)=cndetA で c=2、n=3 なので 23=8 倍です。列が 3 本あり、それぞれから 2 が 1 つずつ外へ出ます。6 は c⋅n を掛けた値で、正しくありません。