行列式の基本性質 - 多重線形性・交代性・正規化

行列式は正方行列に対して定義されるスカラー値の関数であり、行列が正則かどうかを判定する基本的な道具です。行列式にはいくつかの重要な性質があり、それらは行列式の公理的な定義そのものでもあります。

行列式を列ベクトルの関数として見る

次正方行列 の列ベクトルを とすると、行列式は

のように 個の列ベクトルを引数にとる関数 と見なせます。行列式の基本性質は、この関数 がどのような条件を満たすかという形で述べられます。行ベクトルで考えても同じ議論が成り立ちますが、ここでは列ベクトルを基準にして説明します。

多重線形性

多重線形性とは、各列について個別に線形であるという性質です。具体的には、 番目の列以外をすべて固定したとき、 番目の列に関して次の 2 つが成り立ちます。

スカラー倍の取り出し:

加法性:

これは「全体として線形」という意味ではありません。行列全体を 倍すると 個の列それぞれが 倍されるため、

となります。 ではない点に注意が必要です。

線形(1変数の場合)

かつ 。入力が 1 つで、その入力に対して線形。

多重線形( 変数の場合)

各変数について個別に線形。すべての変数を同時にスカラー倍すると 倍になる。

の場合で確かめてみます。

のとき です。第 1 列を 倍すると

となり、第 1 列についてスカラー倍を取り出せています。

交代性

交代性とは、2 つの列を入れ替えると行列式の符号が反転する性質です。

この性質から直ちに導かれる重要な帰結があります。もし 2 つの列が等しければ、列を入れ替えても行列式の値は変わらないはずですが、交代性により符号が反転するので

が成り立ちます。これは 、すなわち を意味します。つまり、同じ列が 2 つ以上存在する行列の行列式は 0 です。

この帰結は、行列の列ベクトルが一次従属であるときに行列式が 0 になるという事実の特殊なケースです。

一方が他方のスカラー倍であるなど、列ベクトル間に線形な依存関係がある状態。

の場合を見ると

に対して列を入れ替えると

となり、確かに符号が反転しています。

正規化

正規化条件は、単位行列の行列式が 1 であるという条件です。

ここで は標準基底ベクトルです。この条件がなければ、例えばすべての行列式を 0 と定義しても多重線形性と交代性は満たされてしまいます。正規化条件があることで行列式のスケールが確定し、関数が一意に定まります。

3 つの性質による特徴づけ

多重線形性・交代性・正規化の 3 条件を同時に満たす関数 はただ一つしか存在しません。これが行列式 です。

多重線形性

各列について個別に線形。列の定数倍や和を分離できる。

交代性

列の入れ替えで符号反転。同一列があれば行列式は 0。

正規化

。行列式のスケールを確定させる。

つまり、置換を用いたライプニッツの公式や余因子展開は行列式の「計算方法」であり、上の 3 条件が行列式の「定義」あるいは「公理」にあたります。計算公式がこの 3 条件を満たすことを証明すれば、その公式が確かに行列式を与えていると結論できます。

基本性質の導出

3 つの公理から、行列式の実用的な性質を導くことができます。

列に他の列の定数倍を加えても行列式は不変:

列に 列の 倍を加える操作を考えます。多重線形性により

と分解できます。右辺の第 2 項は 列と 列の位置に同じベクトル が現れるため、交代性の帰結により 0 です。したがって

が成り立ちます。これは掃き出し法で行列式を計算するときの基本的な道具になります。

転置しても行列式は不変:

この性質により、列について成り立つすべての性質は行についても同様に成り立ちます。証明は置換による定義式を用いるのが標準的で、転置の操作が置換の順序を変えるだけで符号に影響しないことから導かれます。

積の行列式:

行列式は積に対して乗法的です。この等式は、 の列ベクトルに を作用させたものとして の列を見ることで、多重線形性を繰り返し適用して導けます。

行列 に対して はいくらですか?

__RESULT__

, とすると です。

行列 の 2 つの列が等しいとき、 の値はいくらですか?

  • 定まらない
__RESULT__

交代性より、等しい 2 列を入れ替えても値は変わらないが符号は反転するため、 となり です。