部分空間でつぶしてから見る〜商空間と準同型定理
を 軸で割ると、残るのは高さだけである。 と は同じものと見なされ、 という 1 本の横線に化ける[1]。
横線の全体が新しい空間になる。線どうしを足す規則を入れれば、それがまたベクトル空間になっている。
つぶす方向を部分空間で指定し、残りを空間として扱う。これが商空間である。
剰余類は部分空間の平行移動
をベクトル空間、 をその部分空間とする。 に対して、次の集合を剰余類と呼ぶ[1]。
を だけずらしたもの。 自身は原点を通るが、 は を通る。 なら部分空間にならない。
が 軸なら、 は の高さにある横線である。高さが同じ は、どれも同じ剰余類を作る。
同値関係になる
のとき と書く。これは同値関係である[1]。
反射律は 。対称律は なら 。推移律は 。
どれも部分空間が和とスカラー倍で閉じていることから出る。 の同値類がちょうど になる。
同値関係なので、2 つの剰余類は完全に一致するか、まったく交わらないかのどちらかである[1]。 全体が剰余類たちに分割される。
とくに となるのは のときだけ。 自身が、新しい空間での零ベクトルの役をする。
演算を入れる
剰余類全体の集合を と書き、和とスカラー倍を代表元で定める[1]。
ここで確かめることがある。代表元の選び方によらないか、という点である。同じ剰余類は無数の で書けるので、どれを使っても答えが同じでなければならない。
かつ とする。定義から 、 である。
が和で閉じているので、差が に入る。よって で、和は代表元によらない。
スカラー倍も同じ形になる。 はスカラー倍で閉じていることから出る。
この 2 つが通るので、 はベクトル空間になる。零元は 自身、 の逆元は である。
次元の公式
証明は基底の延長による[2]。 の基底 をとり、 の基底 へ延長する。
このとき が の基底になると主張する。本数は である。
張ることは簡単である。 と書いて剰余類に移すと、 なので の項が全部消える。
一次独立も見る。 とすると で、これを たちの一次結合として書ける。
移項すると の基底についての一次関係になる。基底なので係数は全部 、とくに である[2]。
例:直線で割る
、 を 軸とする。剰余類 は高さ の横線で、 は結果に効かない[1]。
高さと剰余類が 1 対 1 に対応するので、 は と同型になる。次元は で合う。
、 を 平面にとると、剰余類は高さ の水平面である。 で、次元は 。
つぶした方向のぶんだけ次元が落ちる、という読み方ができる。
自然な射影
から への写像を、剰余類をとる操作で定める。
線形で全射である。核を計算すると、 となる の全体、つまり そのもの。
の元をちょうど零へ落とす写像になっている。「つぶす」という言い方が、この核に対応する。
の を選ぶ。選び方は 1 通りでなく、どれを選ぶかで座標が変わる
を作る。選ぶものがなく、 だけで決まる
補空間 は と同型になるが、その同型は の選び方に依存する。商のほうは選択なしで定まる[3]。
準同型定理
線形写像 に対して、次が成り立つ[2]。
対応は で与える。まず代表元によらないことを見る。
なら なので、。定まっている[2]。
線形性は の線形性から直ちに出る。全射なのは の元がすべて の形だからである。
単射も短い。 なら で、 は零元。
次元をとれば次元定理になる。 で、階数と退化次数の関係そのものである[2]。

例:具体的な写像で確かめる
を とする。
核は かつ を満たす点で、 という直線である。次元は 。
像は 全体になる。 に対して だからである。
次元も で合う。もとの から、核の方向 1 つぶんが消えている。
例:多項式の空間で割る
実係数多項式の空間 から への写像を とする。定数項をとり出す操作である。
核は を満たす多項式、つまり で割り切れるもの全体。像は 全体である。
になる。 の倍数の違いを無視すると、残るのは定数項だけ。
写像 をとる
核で割ってつぶす
残ったものが像と同型
商が便利なところ
商空間は、要らない自由度を落とす道具として使う。補空間を選ばずに済むのが利点である[3]。
同じことを補空間でやろうとすると、まず を 1 つ選ぶ必要がある。選び方は無数にあり、結果の見え方が変わる。
商なら を決めた時点で空間が決まる。あとから別の人が同じ構成をしても、同じものができる。
剰余類 は の部分集合であって、 の点ではない。
の元は集合である。それを 1 つの点として扱う、という切り替えがこの構成の要になっている。
、 のとき、 はいくらですか。
代表元の話も確かめる。
で和を と定めるとき、何を確かめる必要がありますか。
- が有限次元であること
- 代表元の選び方によらないこと
- と が直交すること
のときも同じ答えになるかを見ます。差 が に入るので通りますが、 が部分空間でないとこの議論が崩れます。
補足
商の構成は線形代数だけのものではない。群を正規部分群で割る、環をイデアルで割る、いずれも同じ形をしている。
共通しているのは、割る対象が「零に落としてよい部分」だという点である。線形空間では部分空間、群では正規部分群、環ではイデアルがその役をになう。
位相の商もある。円周を として作るのがその例で、整数だけずれた点を同一視している。
つぶす方向を部分空間で指定し、残りを空間として扱う。その残りの正体を言い当てるのが準同型定理である。












dim(V/W)=dimV−dimW=7−3=4 です。W の基底を V の基底へ延長したとき、足した 4 本が作る剰余類が商空間の基底になります。