直和と直和分解

線形空間を扱ううえで、空間を「きれいに分割する」方法を理解することは非常に重要である。直和はその中心的な概念であり、部分空間の和が重複なく全体を覆う状況を記述する。

部分空間の和

を体 上の線形空間とし、 の部分空間とする。 は、

で定義され、これもまた の部分空間になる。和は 2 つの部分空間を合わせたものだが、 に共通部分があると、同じベクトルが異なる方法で と分解されうるという問題が生じる。

直和の定義

直和であるとは、 が成り立つことをいう。このとき と書く。直和の本質的な意味は、 の任意のベクトル

一意に分解できることにある。共通部分が零ベクトルだけなので、分解に曖昧さが生じない。

単なる和

共通部分が でなくてもよい。分解が一意とは限らず、同じベクトルに複数の表し方が存在しうる。

直和

が成立。すべてのベクトルの分解が一意に定まり、構造が明確になる。

次元に関する公式

部分空間の和の次元については、次の公式が成り立つ。

直和の場合は なので、

と簡潔になる。この公式は直和かどうかを次元の計算で判定する際にも役立つ。

具体例

で考えてみよう。 平面、 軸とする。

であり、任意の と一意に分解できる。したがって が成り立つ。次元で確認すると で整合する。

一方、 平面)をとると、 軸全体であり、 ではない。このため は直和にならない。

複数の部分空間の直和

直和は 2 つの部分空間に限らず、 個の部分空間 に対しても定義できる。 が直和であるとは、任意の の分解

が一意であることをいい、 と表す。この条件は、各 が他の部分空間の和と共通部分を持たないこと、すなわち

がすべての で成り立つことと同値である。

直和分解の応用

直和分解が特に威力を発揮するのは、線形写像の解析においてである。

固有空間分解

行列が対角化可能であるとは、全体の空間が固有空間の直和に分解できることに他ならない。 が成り立てば、各固有空間上で線形写像はスカラー倍として振る舞うため、構造が完全に把握できる。

核と像の関係

線形写像 が射影()であるとき、 と直和分解される。この分解により、空間が「動かない部分」と「射影される部分」にきれいに分かれる。

直和分解は、複雑な線形空間を扱いやすい小さな部分空間に分割するための基本的な枠組みである。対角化やジョルダン標準形はいずれも「空間をどのように直和分解するか」という問題に帰着され、線形代数全体を貫く重要な考え方となっている。