位相を弱めるとコンパクトさが戻る〜バナッハ・アラオグルの定理
無限次元では閉単位球がコンパクトにならない。ノルムの位相で見るかぎり逃げ道はない。
位相を弱めると話が変わる。双対空間の閉単位球は、弱スター位相ではいつでもコンパクトになる[1]。
バナッハ・アラオグルの定理である。失ったコンパクト性が、測り方を変えるだけで戻ってくる。
弱収束
の点列 が へ弱収束するとは、すべての について が成り立つことをいう[3]。
記号では と書く。ノルムでの収束より弱い条件である。
の座標ベクトル で確かめよう。双対は 自身なので、 との内積を見る。
だから各項は へ向かう。どの をとっても同じなので である。
ノルムのほうは動かない。 のまま、弱極限は になる。
でも同じことが起きる。 は正規直交系で、弱極限は になる[3]。
どの に対しても である。振動が細かくなるほど、正の部分と負の部分が打ち消し合う。
ノルムは落ちることがある
弱極限をとるとノルムは減りうる。減っても増えないところが要点になる[3]。
では、左辺が 、右辺が である。差の がどこへ消えたのかは、ノルムだけを見ても分からない。
ヒルベルト空間では、ノルムの収束を足すと強収束に格上げできる。展開して確かめよう。
から が出る。ここに を重ねると右辺が消える[3]。
弱収束にノルムの収束を足すと強収束になる。ノルムの分だけ情報が足りていなかったということである。
では が へ落ちない。だから強収束しない。
ℓ1 では弱と強が一致する
例外的な空間もある。 では弱収束と強収束が同じものになる。シューアの性質と呼ばれる[3]。
の は なので強収束しない。したがって弱収束もしない。
では弱収束したのに、 ではしない。同じ列でも、住む空間が変わると結論が変わる。
弱スター位相
双対空間 には 種類の弱い位相がある。 で測れば弱位相、 で測れば弱スター位相である[3]。
が弱スターの意味で成り立つとは、すべての で が成り立つことをいう。各点収束そのものである。
が反射的なら なので、 つの位相は一致する。反射的でないときだけ差が出る。

例:弱スターと弱がずれる
とすると である。 の中で を汎関数として見よう。
に対して である。 は に収束するので 、つまり弱スターの意味で になる。
いっぽう の弱位相では収束しない。シューアの性質からノルム収束と同じになり、 が動かないためである。
同じ列が、弱スターでは収束し、弱では収束しない。 が反射的でないので、この差が現れる。
バナッハ・アラオグルの定理
をノルム空間とする。 の閉単位球は弱スター位相でコンパクトである[1,2]。
次元にも完備性にも条件がつかない。双対側の球であることだけが効いている。
証明はチコノフの定理
証明の骨は、汎関数を「各点での値の組」と見るところにある[4]。
は をみたす。だから は、各 ごとに半径 の円板から値を つ選んだものと見なせる。
汎関数を各点での値の組と見る
値の入る円板は 1 つずつコンパクト
チコノフの定理から積全体がコンパクト
線形性とノルムの条件は閉集合なので、閉部分集合として球もコンパクト
弱スター位相は各点収束の位相なので、この積の位相とそのまま一致する。コンパクト空間の閉部分集合はコンパクトなので、証明が終わる[4]。

可分なら点列でとれる
コンパクトといっても、点列で部分列がとれるとは限らない。位相空間では別の話になる。
が可分なら、 上の弱スター位相は距離化できる[2]。稠密な列 を選び、次の距離を入れる。
距離化できればコンパクト性と点列コンパクト性が一致する。有界な汎関数の列から、弱スター収束する部分列がとれる[4]。
可分でないと崩れる。 を例にすると、コンパクトではあっても点列コンパクトにならない[4]。
例:デルタ測度の列
の双対は測度の空間である。点 での値を返す汎関数 を考えよう。
とすると である。 が連続だからこうなる。
弱スターの意味で になった。 なので、この列は閉単位球の中を動いている。
ノルムでは収束しない。 の全変動ノルムは で、いつまでも にならない。
反射性との関係
双対側では球がいつもコンパクトになるのに、もとの空間ではそうならない。この差が反射性である。
角谷の定理によれば、バナッハ空間が反射的であることと、閉単位球が弱位相でコンパクトであることは同値になる[1]。
反射的なら なので、 の球は双対側の球でもある。アラオグルの定理がそのまま効く。
弱スター位相ではいつでもコンパクト。条件はいらない
弱位相でコンパクトになるのは反射的なときだけ
例:最小化問題を解く
弱コンパクト性の使い道は、最小値の存在を示すところにある。
反射的な空間で、有界な最小化列 をとる。弱収束する部分列がとれるので、極限 を候補にする。
汎関数が弱下半連続なら となり、 が最小値を与える。ノルム自身がこの性質を持っている[3]。
強収束を待っていると候補が見つからない。弱い収束で十分だと分かったところが、この道具の効きどころである。
の双対で、 は弱スター位相でどこへ収束するか。
- どこへも収束しない
検算のしかた
弱収束を疑ったら、双対空間の元を具体的にあてる。 なら 、 なら測度である。
すべての で値が収束するかを見ればよい。 つでも収束しない があれば弱収束ではない。
ノルムの挙動も並べて見ると分かりやすい。 が より大きいまま止まっていれば、強収束ではないと即断できる。
よくある誤り
コンパクト性は絶対の性質ではなく、どの位相で見るかで決まる。位相を弱めるという操作が、無限次元での道具になる。












f は連続なので δ1/n(f)=f(1/n)→f(0)=δ0(f) となる。0 に収束すると答えるのは、全変動ノルムでの挙動と混同した場合である。ノルムでは ∥δ1/n−δ0∥=2 のまま動かない。