同じ答えに 3 通りの道で着く|行列の指数関数を計算する
は級数で定義されます。ただし、実際に値を出すときに級数を足すことはまずありません[1]。
対角化する道、ジョルダン形に分ける道、級数を打ち切る道。 つあって、どれも同じ答えに着きます。
次の行列を 種類とり、順に計算します。最後にどの道でも同じになることを数値で確かめる。
定義と使う道具
級数はどの正方行列でも収束します[3]。
計算に効く性質を つ挙げます。
つ目が検算に使えます[3,4]。行列式とトレースを別々に出して突き合わせると、計算違いがすぐ見つかる。
問 1:相異なる実固有値
次の行列で を求めます。
上三角なので固有値は と です。固有ベクトルは が 、 が になります。
固有ベクトルを列に並べた行列を とします。上三角なので逆行列もすぐ出ます。
対角化の式に入れて計算します[4]。
を入れると単位行列に戻ります。行列式は で、トレースの と合いました。
での数値も出しておきます。、 なので、成分は 、、、 です。
問 2:固有値が重なる場合
対角化できない行列を扱います。
と は可換なので、指数関数を分けられます。 なので は 項で終わる[3]。
行列式は で、トレース と一致します。
が 次で残るところが対角化できる場合との違いです。固有値が重なると、指数関数の前に多項式が付く。
問 3:複素の固有値
回転を作る行列を見ます。
なので、級数が偶数項と奇数項に分かれます。偶数項が 、奇数項が の級数になる。
角度 の回転行列です[4]。行列式は 、トレースは で条件をみたします。
固有値は です。指数関数で送ると となり、単位円の上に乗ります。
問 4:べき零な行列
最後は二乗すると消える行列です。
なので級数は 項で終わります。
のスペクトルは だけです。指数関数で送ると になり、実際に の固有値は の重解になっています。
と大きくても、スペクトルが だけなら指数関数は多項式で止まります。
級数の打ち切りと突き合わせる
問 1 の答えを、級数の側から数値で確かめます。 とし、 次まで足します。
の各べきを順に出します。
成分を足していくと です。
厳密な値は でした。 次までで小数第 位まで合っています。
成分は になります。厳密な値 と一致しました。
半群になっている
を動かすと、作用素の族ができます。この族は足し算を掛け算に変えます[2]。
と は可換なので、さきほどの規則がそのまま使えます。
問 3 で確かめると分かりやすい。角度 の回転と角度 の回転を合成すると、角度 の回転になります。
で単位行列、微分すると が出る。この を生成子と呼びます[2]。
スペクトルの動きを見る
つの問題でスペクトルがどう動いたかを並べます。
| のスペクトル | のスペクトル |
|---|---|
| (重解) | (重解) |
| (重解) | (重解) |
どの場合も になっています。指数関数がスペクトルの上でそのまま働く。
実部が正の固有値があると は増大し、実部が負なら減衰します。純虚数なら大きさが変わりません。
微分方程式を解く
、 の解は です[4]。
問 1 で を入れます。第 成分は になります。
第 成分も なので、 です。 は固有値 の固有ベクトルなので、向きが変わらず倍率だけが変わりました。
なら です。こちらは固有値 の向きになります。

可換でないと分けられない
は、いつでも成り立つわけではありません[1]。
問 3 の と問 4 の で試します。 と を計算すると値が違う。
可換ではないので、指数関数を分けられません。トレースを見ると なので行列式はどちらも ですが、行列そのものは一致しない。
指数関数を分けられる。ジョルダン形の計算がこれで進む
分けられない。合成の順序が結果に残る
級数が途中で止まる場合を、もう一度おさらいします。
対角成分がどちらも 、右上が 、左下が の 次行列を とします。 の 成分はどれですか。
答えを確かめる
計算が終わったら、まず を入れます。単位行列に戻らなければ、その時点で誤りです。
次に行列式とトレースを突き合わせます。 を直接計算し、 と比べる[3]。
問 1 なら 、トレースは で一致しました。問 3 なら行列式が 、トレースが です。
微分して になるかも見ておくと安心できます。問 2 で微分すると で、これは に等しくなります。
級数の打ち切りは、 を小さくとって数値で照合するのに向きます。 が大きいと項数が要るので、対角化のほうが早い。












A2=0 なので級数は I+tA で終わります。(1,2) 成分は 3t です。e3t は対角成分に固有値 3 があると誤った場合、3t+29t2 は A2 が消えることを見落とした場合になります。