単位球はいつコンパクトになるのか?有限次元だけという答え
の閉じた単位球はコンパクトです。有界な点列からは、必ず収束する部分列がとれる。
無限次元ではそうなりません。ノルム空間の閉じた単位球がコンパクトになるのは、有限次元のときに限ります[4]。
リースの補題が、その境目を作っています。閉じた真部分空間から、距離 1 の手前まで離れた単位ベクトルを、いつでも 1 つとれる[1]。
有限次元なら単位球はコンパクト
次元のノルム空間 は、基底を選べば と線形同型になります。
有限次元ではどの 2 つのノルムも同値なので、この同型は位相まで保つ。閉単位球は の有界閉集合へ移ります。
あとはハイネ・ボレルの定理です。有界閉集合はコンパクトなので、もとの単位球もコンパクトになります[3]。
に 、、 のどれを入れても同じです。単位球の形は菱形・円・正方形と変わりますが、コンパクトさは変わらない。
リースの補題
をノルム空間、 を の閉じた真部分空間とします。 をどう選んでも、次をみたす があります[1,3]。
が閉じていること、 が 全体でないこと。この 2 つが仮定のすべてです。

証明は 3 行で終わります。 に入らない を 1 つとると、 が閉なので 。
は下限なので、 をみたす がとれます。 を使うのはここだけ。
とおけば です。 を任意にとると、 も の元なので、次のように評価できます。
分子は と の元との距離なので 以上。分母は 以下。割り算で が出ます。
例:平面で確かめる
、 を 軸とします。 をとれば です。
の元は の形なので、距離は の下限で 。 を 未満に落とさなくても届きました。
有限次元では最短の点が実際に存在します。距離が下限どまりにならないので、 がそのまま実現する。
例: の座標ベクトル
、 とします。 は有限次元なので閉じている。
をとると、 に対して次が成り立ちます。
距離はちょうど です。 が有限次元だったり が反射的だったりすると、 までとれる[2]。
超平面までの距離は汎関数で測れる
が超平面、つまり連続な線形汎関数 の核であるときは、距離が式で書けます。
分母は の作用素ノルムです。この形にすると、リースの補題は「 の値が にどこまで近づくか」の問題に変わります。
が単位球面上でノルムを実現すれば、そこで距離が になる。実現しなければ に届きません。
例:距離を数値で出す
にユークリッドノルムを入れ、 とします。
です。 をとると 。
なので、距離は 。有限次元なので が実現しています。
例:連続関数の空間では 1 に届かない
に を入れます。
とおき、 とする。 は連続なので は閉じた真部分空間です。
から 。逆向きは、 の近くだけ急に立ち上がって残りは という関数を考えれば分かります。

ここからが本題です。 と をみたす をとると、 は の近くで より小さい。
連続なので、その区間は幅を持ちます。積分すると必ずとりこぼしが出る。
距離の公式に入れると です。どの単位ベクトルを選んでも に届かないので、 では補題が壊れます[1]。
で に届かないのは、積分の汎関数がノルムを実現しないからです。
上限が でも、 という縛りがあるかぎり、どの関数でも にはならない。
単位球がコンパクトなら有限次元
ここまでを使うと、冒頭の主張が出ます。 を無限次元のノルム空間としましょう。
単位ベクトル から始めます。 は有限次元なので閉じており、 が無限次元だから 。
リースの補題を で当てると、 かつ の がとれます[4]。
無限次元だと仮定する
リースの補題で単位ベクトルを次々ととる
どの 2 項も 1/2 以上離れた列ができる
収束する部分列がないので単位球はコンパクトでない
なら なので です。どの 2 項も 以上離れている。
この列はコーシー列になる部分列を持ちません。単位球の中に住みながら収束する部分列がとれないので、単位球はコンパクトでない[4]。
例:座標ベクトルの列
で を第 成分だけ の列とします。 のとき、 は か所だけ でない。
ごとの値を並べます。
| 空間 | での距離 |
|---|---|
どれも へ向かいません。 は単位球の中の点列でありながら、収束する部分列を持ちません。
例:山が移っていく関数列
でも同じ列が作れます。 番目の関数 を、区間 の上だけ三角形に持ち上がる形にする。
頂点の高さは 、外側では です。台が重ならないので、 なら差の最大値は になります。
山の位置が へ寄っていくだけで、高さは下がりません。単位球はいつまでも詰まらない。
同値な言い換え
リースのコンパクト性定理は、次の 4 つが同値だという形にまとめられます[3]。
どれか 1 つを確かめれば残りも従う。無限次元だと分かった時点で、4 つとも失われます。
有界な点列から収束する部分列がとれる。閉単位球はコンパクト
以上離れた単位ベクトルが無限に並ぶ。閉単位球はコンパクトでない
例:どこで有限次元が効くか
の中で、次数 以下の多項式だけを集めた部分空間 を考えます。
は 次元なので、その中の閉単位球はコンパクト。係数を つ並べた有界閉集合と同じ話になります。
一方 全体では、上の三角形の列がそのまま単位球に入る。同じノルムでも、部屋を広げた瞬間にコンパクト性が消えます。
の座標ベクトル について、 のときの はいくつですか。
反射的な空間なら 1 がとれる
が使えるかどうかは、空間の性質で決まります。バナッハ空間 について、次の 2 つは同値です[1]。
や は反射的なので がとれます。 や は反射的でないので、 未満で我慢する。
という条件は、証明を楽にするための手加減ではありません。空間によっては本当に が使えない[1]。
例:0 に収束する数列の空間
を、 に収束する数列全体に を入れた空間とします。
を第 成分が の元全体とすると、 は閉じた真部分空間。 をとれば距離はちょうど です。
反射的でない空間でも、部分空間の選び方によっては が実現します。同値性が言っているのは「すべての で」という部分だけ。
答えを確かめる
構成した列が本当に離れているかは、手で確かめられます。 で をとり、差のノルムを計算する。
どの組も になりました。 どころか より大きいので、条件を余裕でみたしています。
リースの補題が保証するのは 以上という下限だけです。実際の空間ではもっと離れていることが多い。
つまずきやすいところ
有界と閉だけでは足りない。この一点が、有限次元の直感と無限次元を隔てています。












en−em は n 番目が 1、m 番目が −1、残りは 0 です。ℓ1 ノルムは絶対値の和なので 1+1=2。2 は ℓ2 での値、1 は ℓ∞ での値になります。