双対の双対に戻ってこない空間がある - 反射性と標準埋め込み
の双対は です。もう 1 回とっても に戻ります。
はそうなりません。双対は 、その双対は よりずっと大きい空間になる[1]。
戻るかどうかを決めているのは標準埋め込みという 1 本の写像です。同型があるかどうかではなく、この写像が全射かどうかで決まります[1]。
標準埋め込み
をノルム空間、 をその双対、 を双対の双対とします。 に対して次の写像を作ります[2]。
を固定して を動かす、という見方です。汎関数を値に変える写像なので、 は 上の汎関数になる。
線形性はすぐ分かります。 から、 も出ます。
ノルムが保たれる理由
逆向きの不等式にハーン・バナッハの定理を使います。 に対し、 かつ をみたす がとれる。
この を入れると なので です。合わせて等号になります[1]。
等長なので単射でもある。 はいつでも を の中へ、形を変えずに置きます[3]。

反射的の定義
が全射であるとき、 を反射的といいます[3]。等長なので、全射なら は等長同型になります。
大事なのは、 と のあいだに何か同型があればよい、という話ではないところです。
ジェイムズ空間という例があります。二重双対と等長同型でありながら、 が全射でないので反射的ではない[1]。
そのものを見る。ほかの写像で代用できません。
例:有限次元は必ず反射的
とします。 の次元も 、 の次元も です。
は単射な線形写像なので、同じ次元どうしなら全射になります。有限次元のノルム空間はすべて反射的[2]。
で確かめると、双対も 、二重双対も 。 は座標をそのまま写す写像になります。
例:数列空間の一覧
無限次元では話が変わります。双対を 回とった行き先を並べます[1]。
| 空間 | 双対 | 二重双対 |
|---|---|---|
| より広い | ||
の範囲だけが往復できます。両端の と で対称性が崩れる。
でも同じです。 なら反射的、 と は無限次元なら反射的ではありません[2]。
例:c0 でどこがはみ出すか
を、 に収束する数列全体とします。双対は 、その双対は です。
は自然な包含になります。 の元をそのまま の元と見る写像です。
はみ出すものはすぐ見つかる。 は に住んでいますが、 に収束しないので にありません。
なので全射ではない。 は反射的でないと分かりました。
が反射的でないのは、二重双対のほうが真に広いからです。
収束するという条件を落とした分だけ、 には余分な元が入っている。
ノルムを実現しない汎関数
反射性は、別の言い方でも書けます。ジェイムズの定理です[1]。
バナッハ空間 が反射的であることと、どの も閉単位球の上でノルムを実現することは同値になります。
で実現しない汎関数を作ってみましょう。
係数の列 は の元で、そのノルムは 。だから です。
になるには、すべての で が要ります。ところがその列は に収束しないので の外。
上限には近づきますが、届きません。
先頭 個だけ にした列を入れると、値は になります。 を増やせばいくらでも に近づく。
それでも そのものは出ません。上限が実現しないので、ジェイムズの定理から は反射的でないと分かります[1]。
例:連続関数の空間
でも同じ形の反例が作れます。次の汎関数を考えましょう。
なので です。前半で 、後半で に近い関数を作れば、値は に近づきます。
ちょうどにするには、前半で 、後半で が要る。そんな連続関数はありません。
実現しない汎関数があるので、 は反射的ではありません[3]。
弱い位相でのコンパクト性
反射性はコンパクト性とも結びつきます。角谷の定理です[2]。
バナッハ空間が反射的であることと、閉単位球が弱位相でコンパクトであることは同値になります。
ノルムの位相では、無限次元の単位球は決してコンパクトになりません。位相を弱めると、反射的な空間でだけコンパクト性が戻ってくる。
エーベルライン・シュムリアンの定理を合わせると、点列の言葉にも直せます[3]。有界な列が弱収束する部分列を持つことと反射性が同値になる。
反射的である
閉単位球が弱位相でコンパクト
有界な列が弱収束する部分列を持つ
一様凸なら反射的
単位球の形からも反射性が言えます。 かつ なら、中点が縁から だけ内側に入る、という性質を一様凸といいます。
一様凸なバナッハ空間は反射的になります。ミルマン・ペティスの定理です[3]。
と は で一様凸なので、これだけで反射性が出る。単位球の縁が丸いかどうかが効いています。

例:平らな辺で何が起きるか
の 次元版で見ます。 と はどちらもノルム です。
差のノルムは なので、かなり離れている。ところが中点は で、ノルムはやはり です。
離れた 点の中点が縁に残る。 がとれないので一様凸ではありません。
なら中点のノルムは まで下がります。ここが分かれ目になっている。
受け継がれる性質
反射性は、いくつかの操作で保たれます[1]。
閉部分空間の性質は使い道が広い。反射的でない空間が閉部分空間として入っていれば、全体も反射的でないと分かります。
の二重双対はどの空間になりますか。
答えを確かめる
反射的かどうかを疑ったら、まずノルムを実現しない汎関数を探します。 つ見つかれば、その時点で反射的ではありません。
上限に近づく列を書き、極限がその空間に残るかを見る。 でも でも、極限が空間の外へ出ていました。
反射的だと示すほうは、 という形に持ち込むか、一様凸性を確かめる道が早い。
まちがえやすいところ
という 1 本の写像が全射かどうか。反射性の話は、最後まですべてここに帰ります。











c0 の双対は ℓ1、その双対が ℓ∞ です。J は自然な包含になり、(1,1,1,…) のような元が像からはみ出します。c0 が答えなら反射的だったことになり、ℓ1 は 1 回だけ双対をとった空間です。