縮まなくても不動点は見つかるか?シャウダーの不動点定理
縮小写像には不動点がただ つあります。距離が 倍に縮むという条件が、繰り返しを 点へ追い込みます。
縮まない写像はどうか。区間 から自分自身への連続写像なら、グラフが対角線を必ず横切ります。縮む必要はありません。
無限次元でも同じことが言えるかどうか。条件を つ足せば言えます。それがシャウダーの不動点定理です[1]。
有限次元での出発点
次元の閉じた有界な凸集合 と、連続写像 をとります。このとき をみたす があります[3]。
ブラウワーの不動点定理です。縮むことも、微分できることも要りません。
次元なら中間値の定理で示せます。 とおくと 、 なので、途中で になる点があります。

無限次元では崩れる
そのまま無限次元へ持っていくと成り立ちません。閉じた単位球は、有界で閉じた凸集合なのに不動点の性質を持ちません[4]。
反例を書きます。 の閉単位球の上で、次の写像を考えましょう。
まず行き先が球に入ることを見ます。ノルムの二乗を計算する。
像はいつも球面の上です。連続でもあります。
不動点があると仮定しましょう。 なら なので、第 成分は です。
ずらしの関係から 、 と続き、すべての成分が になります。 となって と矛盾する。
有界で閉じた凸集合というだけでは足りません。何かを足す必要があります。
シャウダーの定理
足すのはコンパクト性です。主張は つの形で書けます[1,2]。
つ目。 をバナッハ空間のコンパクトな凸集合、 を連続写像とすると、不動点があります。
つ目。 を有界閉凸集合とし、 が完全連続、つまり の閉包がコンパクトなら、やはり不動点があります[1]。
集合をコンパクトにするか、写像に像を縮める働きを持たせるか。どちらでも同じ結論に届きます。
さきほどの反例では、 の像が球面全体で、閉包がコンパクトになりません。条件が外れていました。
証明の筋
証明はブラウワーの定理へ帰着させます[1]。
の閉包はコンパクトなので、有限個の点で 網が作れます。その点たちの凸包は有限次元です。
像をその凸包へ押し込む写像を作ると、有限次元の連続写像になります。ブラウワーの定理から不動点が つ出る。
を小さくしていくと、近似の不動点の列ができます。コンパクト性から収束する部分列がとれ、その極限が本物の不動点になります。
コンパクト性から有限個の点で近似する
有限次元の凸包へ写像を押し込む
ブラウワーの定理で近似的な不動点を得る
コンパクト性で極限をとり、本物の不動点にする
バナッハの定理との違い
つの定理は、得られるものが違います。
縮小写像の定理は不動点の一意性まで言い、しかも繰り返しで近づける手順を与えます。誤差の評価も出る。
シャウダーの定理が言うのは存在だけです。いくつあるかは分かりませんし、見つける手順も付いてきません。
一意性まで出る。繰り返しで近づけられる。完備性だけでよい
存在だけ。縮む必要はないが、コンパクト性が要る
例:微分方程式の解を作る
、 を考えます。 は連続とだけ仮定しましょう。
積分の形に直します。解であることと、次の等式をみたすことは同じです。
右辺を写像 と見ます。適当な閉区間と幅をとると、 は連続関数の空間のある有界閉凸集合を自分自身へ写します。
像は同程度連続で一様有界です。アスコリ・アルツェラの定理から、閉包がコンパクトになる。
シャウダーの定理が使えて、不動点、つまり解が存在します[4]。リプシッツ条件なしで存在が言えました。
一意性は出ません。、 には と の両方があります。

例:積分方程式
非線形の積分方程式にも同じ手が効きます。
と が連続で、 が有界なら、右辺の写像は の有界閉凸集合を自分自身へ写します。
積分作用素が像をなめらかにするので、同程度連続性が出ます。閉包がコンパクトになり、シャウダーの定理が使える。
がリプシッツ連続でなくても、解の存在が言えます。縮小写像では手が届かない場面です。
局所凸空間まで広げる
ノルムがなくても成り立ちます。ハウスドルフな局所凸位相線形空間で、 を空でない閉凸集合とします[4]。
が連続で がコンパクトな部分集合に含まれるなら、不動点があります。シャウダー・チコノフの定理と呼ばれます。
分布の空間のような、ノルムの入らない場所でも使えるということです。
例:凸でないと消える
凸性も外せません。単位円周を 度回す写像を考えましょう。
連続で、円周を円周へ写します。それでも動かない点は つもありません。どの点も 度先へ動きます。
円周はコンパクトですが凸ではない。穴があいているので、定理の仮定をみたしません。
円板にすれば凸になります。回転の中心が不動点になり、結論が戻ります。
例:ずらしの写像を計算する
さきほどの反例で、具体的な値を入れます。 をとりましょう。
なので第 成分は です。あとは成分が つずつ後ろへずれます。
もう一度当てると になります。 の位置が右へ動き続け、どこにも落ち着きません。
の閉単位球で とするとき、 のノルムはいくつですか。
- のまま
- つねに
よくある誤り
縮むかどうかではなく、動ける範囲がコンパクトかどうか。無限次元で不動点を探すときは、この 点を確かめます。









第 1 成分の二乗が 1−∥x∥2、残りの成分の二乗和が ∥x∥2 なので、足すと 1 になります。像はいつも球面の上です。∥x∥ のままなら等長になりますが、この写像はそうなりません。