弱解なら必ず存在して一意に決まる|ラックス・ミルグラムの補題
リースの表現定理は、内積の形をした方程式を解く道具である。 をすべての でみたす が、ただ つ決まる。
同じことが、対称でない双線形形式でも言える。有界性と強圧性の つだけあればよい[1]。
ラックス・ミルグラムの補題である。微分方程式の弱解を作る土台になっている。
設定と主張
を実ヒルベルト空間、 を 上の双線形形式とする。次の つを仮定する[3]。
上の条件を有界性、下の条件を強圧性という。 と は正の定数である。
このとき、どの に対しても次をみたす がただ つ存在する[1]。
さらに大きさの評価もつく。 である。
対称なら内積そのもの
が対称で強圧的なら、 自身が の内積になる。有界性から、もとのノルムと同値なノルムを与える。
その場合はリースの表現定理で終わる。新しい定理は要らない。
対称でないときが本番である。回転のような成分が混ざっても、結論が変わらないところに意味がある[1]。

証明はリースの表現定理から
を固定すると は有界な線形汎関数になる。リースの表現定理で、これを内積に書きかえる[2]。
こうして作用素 が決まる。有界性から である。
強圧性を使うと下からの評価が出る。 を入れる。
両辺を で割って になる。単射であり、像が閉じていることも従う。
あとは像が稠密だと言えばよい。 が像と直交するなら で、強圧性から である。
双線形形式を作用素 A に書きかえる
強圧性から下からの評価を得る
単射で像が閉、しかも稠密
A は全単射で、逆作用素のノルムは 1/α 以下
方程式 は という形になる。 は をリースの定理で表した元である[2]。
例:2 次の行列で確かめる
とし、行列を つ用意する。
と定める。 は対称でないので、 も対称でない。
強圧性を確かめよう。歪対称な部分は に寄与しないので、対角の だけが残る。
である。有界性のほうは なので になる。
、 として解く。 なので逆行列が書ける。
評価も確かめる。 で、 以下に収まった。
例:ポアソン方程式の弱形式
区間 で 、両端で という問題を考える。
両辺に を掛けて部分積分する。境界項は で消える。
左辺を 、右辺を と見る。空間は をとる[1]。
有界性はコーシー・シュワルツの不等式から出る。強圧性にはポアンカレの不等式が要る[1]。
この不等式があるので、 が の同値なノルムになる。 がそのまま強圧性を与える。
例:解を具体的に出す
で解いてみる。 を積分すると である。
境界条件 から 、 になる。
最大値は での である。弱解として求めたものが、古典的な解と一致した。

例:移流が入ると対称でなくなる
を同じように弱形式にする。今度は項が つ増える。
第 項があるので である。リースの表現定理だけでは足りない。
強圧性は生き残る。 を入れると、第 項が境界の値だけで決まる。
両端で なので、この項は消える。 となり、強圧性がそのまま残った。
対称でない形の代表例である。ラックス・ミルグラムの補題が要る場面が、ここではっきりする。
一意性と評価の出し方
一意性は差をとれば出る。 と がどちらも解なら、すべての で である。
を入れる。強圧性から次のようになる。
ノルムが なので になる。大きさの評価も同じ手口である。
を入れると となり、 が出る。
この評価があるので、データが少し変わっても解は少ししか変わらないと言える。
の変化に対する解の変化が 倍でおさえられる。問題が安定しているという意味になる。
有限次元へ落とす
仮定はどれも部分空間へそのまま受け継がれる。有限次元の部分空間 をとろう[3]。
の上でも有界性と強圧性は保たれるので、離散化した問題も一意に解ける。基底を選べば連立 次方程式になる。
誤差の評価も出る。セアの補題である[3]。
近似解の誤差が、部分空間による最良近似の定数倍でおさえられる。有限要素法の理論的な支えになっている。
対称で正定値な形にだけ効く。内積そのものを扱う
対称でなくてよい。移流や回転が混ざった形も扱える
境界条件がどこで効いているかを、移流の項でもう一度確かめておく。
と が両端で のとき、 の はどうなるか。
答えを確かめる
強圧性を確かめるときは、まず歪対称な部分を切り離す。 には対称部分しか残らない。
の値は、対称部分の最小固有値から読める。有限次元ならそのまま計算できる。
得られた解は、大きさの評価 に入るかを見る。はみ出していれば計算違いである。
まちがえやすいところ
有界性と強圧性。この つを確かめる作業に、弱解の存在と一意性がすべて押し込まれている。











第 2 項は ∫01u′udx=[u2/2]01 で、両端が 0 だから消える。残るのは第 1 項だけで、強圧性は b に影響されない。b が残る形はどちらも、境界条件を使い忘れた場合になる。