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部分空間で割ってもノルムは残る……商空間とその完備性

を 本の直線でつぶすと が残る[2]。線の向きの情報だけを捨てる操作である。

同じことをノルム空間でやりたい。困るのは長さの決め方で、つぶした先に何を入れるかを決めなければならない。

答えは距離である。 を含む類の長さを、 から部分空間までの距離と定める[4]。

剰余類

をノルム空間、 をその部分空間とする。 のとき と を同じものと見なす[2]。

を含む類は と書ける。類の全体を と書く。

足し算とスカラー倍は代表元で定める。 が部分空間なので、代表元の選び方によらず結果が決まる。

で を 軸とすると、類は 軸に平行な直線である。残った 座標だけが情報になる[2]。

商ノルム

長さは次で定める[3,4]。

類の中でいちばん短い代表元を探す、という定め方である。下限なので、実際に達成されるとはかぎらない。

三角不等式は下限の定義から出る。 をとり、 と をみたす を選ぶ。

なので、次の評価が成り立つ。

は任意なので、三角不等式が出る。スカラー倍のほうも下限の計算だけで確かめられる。

閉じていないと長さが消える

から が出るかどうか。ここで が閉じている必要がある[4]。

で を、有限個の成分だけが でない数列の全体とする。これは閉じていない。

どの も、先頭 個で切った列で近づけられる。だから である。

商ノルムはすべての類で になり、長さとして働かない。 が閉でないと、セミノルムどまりになる。

商写像

で定まる写像を商写像という。 をとれば なので、ノルムは 以下である[4]。

この写像は開写像でもある。 なら、 をみたす が定義から存在する。

なので、単位開球の像が商の単位開球をちょうど覆う。つぶす操作は開いた集合を開いたまま送る[4]。

完備性が受け継がれる

がバナッハ空間で が閉なら、 もバナッハ空間になる[1,3]。

証明には、絶対収束する級数が収束するかどうかで完備性を判定する方法を使う[1]。

とする。各類 から代表元 を、次をみたすように選ぶ。

下限の定義から、こういう代表元は必ずとれる。 である。

が完備なので は収束する。その極限を とすれば、部分和の類が へ近づく[1]。

商の側で絶対収束する級数をとる

長さがほぼ最短の代表元を選ぶ

もとの空間で級数が収束する

その極限の類が商での和になる

という余裕の入れ方が効いている。下限が達成されなくても、いくらでも近い代表元がとれるためである。

普遍性

をノルム空間、 とし、 とする[3]。

このとき をみたす がただ つ存在し、ノルムも等しい。

の上で消える作用素は、商空間の上の作用素と同じものだと言っている。線形代数の第一同型定理に対応する[3]。

例:値をひとつ返す作用素

、 とする。 は をみたす関数の全体である。

は連続なので は閉。商空間 は と同型になる。

商ノルムも計算できる。 である。

なら、 の近くだけ から急に落として残りを にする関数が の元との差を に近づける。下限は になる。

例:数列の尾だけを残す

、 とする。 は閉部分空間である[4]。

商ノルムは上極限で書ける。

先頭の有限個をいくらでも にできるので、最初のほうの値は効かない。残るのは末尾のふるまいだけである。

なら値は になる。 は に入るので である。

例:余次元で測る

有限次元なら次元が引き算になる。 である[2]。

を平面でつぶすと 次元、直線でつぶすと 次元が残る。

無限次元では次元そのものを引けないが、余次元は意味を持つ。 が 次元のとき、 を超平面と呼ぶ。

連続な線形汎関数の核は、ちょうど閉じた超平面である。商をとると が残る。

閉じた部分空間で割る

商ノルムが本物のノルムになる。完備性も受け継がれる

閉じていない部分空間で割る

長さが の類が残る。セミノルムにしかならない

答えを確かめる

商ノルムを計算したら、代表元をいくつか入れて下限になっているか見る。

なら、先頭を にした列で距離を計算し、上極限に近づくかを確かめられる。値がそれより小さくなったら計算違いである。

が閉かどうかも忘れずに見る。閉でない部分空間を使うと、長さが消えて商ノルムが働かない。

で とするとき、 はいくつになるか。

__RESULT__

商ノルムは に等しい。 が続くので値は である。 は が に入る場合の値、 は隣り合う項の差を見た値になる。

つぶす操作は情報を捨てる。それでも長さの測り方さえ決めておけば、完備性も作用素の話もそのまま持ち越せる。

参考文献

Quotients of Banach spaces by closed subspaces are Banach spaces under the quotient norm. PlanetMath.
Quotient Vector Space. MathWorld.
Banach space. Encyclopedia of Mathematics.
Quotient space (linear algebra)). Wikipedia.
$\mathbb{R}^3$ を直線でつぶすと $\mathbb{R}^2$ が残ります。同じ操作をノルム空間でやるとき、類の長さは部分空間までの距離で決める。$M$ が閉じていないと長さが $0$ の類が残り、セミノルムにしかなりません。商写像はノルムが $1$ 以下で、開いた球を開いた球へ写す。$X$ がバナッハで $M$ が閉なら完備性も受け継がれます。$C[0,1]$ を $f(0) = 0$ で割ると $\mathbb{R}$、$\ell^\infty$ を $c_0$ で割ると上極限が長さになる例まで。