作用素を 7 つ並べてスペクトルを全部求める
有限次元ならスペクトルは固有値の集合である。無限次元では、固有値でないのにスペクトルに入る点が現れる[1]。
分け方は つ。 が単射でなければ点スペクトル、単射で像が稠密なら連続スペクトル、像が稠密でなければ剰余スペクトルである[1]。
作用素を つとり、 つの部分を全部求める。手を動かす順に並べた。
判定の手順
どの作用素でも見る順番は同じである。
像が稠密かどうかは、直交補空間を見ると早い。 である。
随伴の固有値が見つかれば、その共役が剰余スペクトルの候補になる。
問 1:対角作用素
で とする。基底の向きごとに 倍する作用素である。
固有値はすぐ出る。 なので が固有値になる。
はどうか。 から 、つまり なので固有値ではない。
それでも はスペクトルに入る。 は を へ送る非有界な写像になるためである。
像は稠密である。有限個の成分だけが でない列はすべて像に入り、そういう列は で稠密になる。
よって は連続スペクトルに属する。スペクトル全体は固有値の集合にその極限を足したものになる。
問 2:掛け算作用素
で とする。
固有値を探す。 が成り立つなら、 のところで になる。
点を除いて の関数は では と同じである。固有値はない。
なら が有界なので、逆作用素が作れる。だからスペクトルは に含まれる。
のときは逆が非有界になる。 の近くに台を集めた関数を入れると、 がいくらでも小さくなるためである。
像は稠密なので、 全体が連続スペクトルになる。

逆が非有界になる様子は、台を狭めた関数で見える。
台の幅を にすると、 の範囲でしか値を持たない。長さを にそろえたまま、掛けた結果の大きさが 以下になる。
逆作用素があれば、この比が有界におさえられるはずである。おさえられないので はスペクトルに入る。
問 3:片側シフト
で とする。等長なので である[3]。
固有値を探す。 を成分で書くと 、、 と続く。
なら 、そこから順に全部 になる。 でも である。固有値はない[3]。
つぎに随伴を見る。 で、こちらには固有ベクトルがある。
から が出る。これが に入るのは のときである[3]。
したがって では 、つまり の像が稠密でない。開円板が剰余スペクトルになる。
では像が稠密になり、連続スペクトルである。 からスペクトルは閉単位円板に収まるので、これで全部そろった。
問 4:後ろ向きシフト
そのものを主役にすると、答えが入れかわる。
さきほど見たとおり、 のすべてが固有値である。開円板が点スペクトルになる[3]。
剰余スペクトルは空である。 に固有値がないので、像が稠密でなくなる が現れない。
単位円は連続スペクトルになる。スペクトル全体は と同じ閉円板だが、内訳がまるで違う。
問 5:両側シフト
で とする。番号が両側に伸びるので、捨てられる成分がない。
はユニタリである。 が成り立つ。
固有値を探す。 から 、つまり になる。
なら で発散し、 なら で発散する。 でも大きさが のままで、二乗和が収束しない。
固有値はない。ユニタリなのでスペクトルは単位円上にあり、その全体が連続スペクトルになる。
問 6:直交射影
閉部分空間 への射影 を考える。 も も ではないとする。
の元は をみたすので が固有値である。 の元は なので も固有値になる。
がこの つ以外なら、逆作用素を直接書ける。
代入すれば確かめられる。 の側で 、 の側で になる。
スペクトルは で、どちらも固有値である。有限次元と同じ姿になった。
問 7:ヴォルテラ作用素
で とする。
固有値を探す。 で なら、右辺は微分できるので も微分できる。両辺を微分すると になる。
解は である。ところが なので 、つまり になる。
も固有値ではない。 がすべての で成り立つなら である。
スペクトルは だけになる[2]。像は絶対連続で から始まる関数の全体で、 で稠密なので は連続スペクトルである。
| 作用素 | スペクトル | 内訳 |
|---|---|---|
| 対角 | が固有値 | |
| 掛け算 | すべて連続 | |
| 片側シフト | 閉単位円板 | 内部が剰余、円が連続 |
| 後ろ向きシフト | 閉単位円板 | 内部が固有値、円が連続 |
| 両側シフト | 単位円 | すべて連続 |
| 直交射影 | どちらも固有値 | |
| ヴォルテラ | 連続 |
表から読めること
つを見比べると、いくつかの型が見えてくる。
自己共役やユニタリな作用素には剰余スペクトルがない。正規な作用素では、像が稠密でなくなる場面が起きないためである[4]。
剰余スペクトルが出たのは片側シフトだけだった。等長でも全射でない、という無限次元らしい形が原因になっている。
固有値が つもない例が つある。有限次元の感覚で固有値だけを探すと、スペクトルをとりこぼす。
スペクトルは固有値だけ。連続も剰余も現れない
固有値が空でもスペクトルは空にならない。連続と剰余が埋める
内訳の判定を、いちばん紛らわしい場合でおさらいする。
片側シフト について、開単位円板 の点はどの部分に入るか。
- 点スペクトル
- 連続スペクトル
- 剰余スペクトル
まちがえやすいところ
固有値を求めてから、像が稠密かどうかを見る。順番を守れば、 つとも同じ手つきで片づく。










S に固有値はないので点スペクトルではない。S∗ が ∣λ∣<1 で固有ベクトル (1,λ,λ2,…) を持つので、S−λ の像は稠密にならない。だから剰余スペクトルである。連続スペクトルになるのは単位円の上だけになる。