切除定理|奥をくり抜いても相対ホモロジーは変わらない
相対ホモロジー は、 の奥深くで何が起きているかを見ていません。奥のほうをくり抜いても値が変わらない、と述べたものが切除定理です[1]。
くり抜いてよい範囲には条件が付きます。 の閉包が の内部に入っていること。

以下では主張の 2 つの形を並べ、重心細分による証明の筋をたどり、局所ホモロジーや次元不変性への使い方まで見ていきます。
主張
とします。 の閉包が の内部に含まれるなら、包含が誘導する写像が同型になります[1,3]。
を抜いても対のホモロジーは変わりません。条件が言っているのは、 の縁に触れないところだけを抜いたという一点です。
閉包と内部の条件を落とすと成り立ちません。あとで反例を見ます。
内部で覆う形の言いかえ
同じ主張を、被覆の言葉で書き直せます。 と を の部分空間とし、内部どうしで が覆えるとします。
このとき包含 が同型を誘導します。
と置けば、もとの形に戻ります。使う場面によってどちらかが書きやすい、という関係です。
例: 球面を 2 つの半球で覆う
とし、 を赤道より少し下まで広げた下半球、 を少し上まで広げた上半球とします。内部で が覆えています。
は赤道のまわりの帯で、 へ変形レトラクトします。 は円板と同じく可縮です。
左辺は が可縮なので 、右辺は対の長完全列から です。
球面の次元を つ下げる漸化式が、切除だけで出ました。少し広げるという操作が、閉包と内部の条件をみたすための工夫です。
証明の筋: 小さい単体でサイクルを書き直す
証明の中心は、鎖を細かく刻む操作です。 のような被覆をとり、各単体の像が か のどちらかに収まるようにします。
そういう鎖だけを集めた部分複体を と書きます。示すべきは、包含がホモロジーの同型を誘導すること。
道具は重心細分です。単体を重心で刻んでいくと、小さい単体の和に書き直せます[2]。
次元の単体を重心細分すると、部品の直径は元の 倍以下になります[2]。
くり返せば直径はいくらでも小さくなります。単体はコンパクトなので、有限回で目標に届く。
細分しても類は変わらない
細かく刻む操作は、鎖のレベルでは別のものを作ります。それでもホモロジー類が動かない理由が要ります。
細分作用素 は鎖写像で、恒等写像と鎖ホモトピックです。つまり があって次が成り立ちます。
サイクルに当てれば差は境界なので、類は変わりません。細分は「同じ類の別の代表を作る操作」だと分かります。
回数を場所ごとに変える必要があるため、実際には を丁寧に組み立てます。ここが証明でいちばん手間のかかるところです。
相対の側へ落とす
が同型を誘導すると、相対でも同じことが言えます。
を抜いた側の鎖は、 に収まる単体だけを使ったものです。 の鎖で割ると、 に収まる鎖の商とちょうど一致します。
したがって は同型です。細分で寄せる、割って落とす。この 2 段が証明の骨組みになります。
例: 局所ホモロジー
点 をとり、対 を考えます。この相対ホモロジーを局所ホモロジーといいます。
のまわりの開近傍 をとると、 の閉包は の内部に入ります。切除で外側を全部抜けます。
名前のとおり、値は の近くだけで決まります。空間の遠くをどう作り替えても影響しません。
例: ユークリッド空間の局所ホモロジー
、 とします。 は へ変形レトラクトし、 は可縮です。
対の長完全列から次が出ます。
が現れる次数が、そのまま次元を教えています。
例: 次元不変性
と が同相なら、 のまわりの局所ホモロジーも同じ形になります。
前の例から、 では 次に が立ち、 では 次に立ちます。同じ群の列が 通りの次数を持つことはできません。
なら同相ではない、という結論です[1]。座標の個数が位相だけで決まる、と言い直せます。
次元多様体でも同じ議論が通ります。各点の局所ホモロジーが 次で になるので、次元は多様体の位相から決まります[4]。
例: 境界の点を見分ける
境界のある多様体では、内部の点と境界の点で局所ホモロジーが違います。
内部の点は と同じ近傍を持つので、 次に が立ちます。境界の点の近傍は半空間 です。
半空間は可縮で、 点を抜いても可縮のままです。よって対のホモロジーが全部消えます。
が立つか立たないかで、境界の点が判定できました。境界という概念が、座標のとり方によらずに定まる理由がこれです。
例: 良い対で商空間と一致する
を良い対とし、 を変形レトラクトに含む近傍 をとります。
まず が同型を誘導します。 が へ変形レトラクトするので、 つの補題が使えるためです。
次に を切除します。 の中の を抜くと が現れ、これは商の側の対応物と一致します。
商をつぶす操作と相対をとる操作が一致する、という定理の証明が、切除に支えられています。
例: CW 複体の骨格
を 複体とし、 骨格の対 を見ます。
胞体の中心たちを と置き、 の近傍から の外側を切除します。残るのは各胞体の中身だけです。
右辺は のとき胞体の個数ぶんの 、それ以外は でした。胞体ホモロジーの出発点がここにあります。
例: 切除が使えない場合
条件を落とすと壊れます。、、 としましょう。
の閉包は 、 の内部は です。閉包が内部にはみ出しています。
も も弧状連結で可縮なので、対のホモロジーはすべて です。
いっぽう 、 なので、 次に が立ちます。
はみ出した 点ぶんの差が、そのまま食い違いになりました。条件は飾りではありません。
Mayer-Vietoris との関係
切除は、公理の中では他ととり替えのきく位置にいます。ほかのアイレンベルグ・スティーンロッドの公理を認めると、切除と Mayer-Vietoris 完全列は同値です[3]。
導き方も短く済みます。 のとき、三つ組の長完全列に切除を差し込むと完全列が出ます。
計算の現場では Mayer-Vietoris のほうをよく使います。切除は、その完全列が存在する理由の側にあります。
例: 懸垂で次数が 1 つ上がる
空間 の懸垂 は、 の上端と下端をそれぞれ 点につぶした空間です。
上の円錐 と下の円錐 で覆うと、どちらも可縮で、交わりは へ変形レトラクトします。
切除と対の長完全列を組み合わせると、次数が つずれます[1]。
の懸垂が なので、球面の漸化式はこの定理の特別な場合です。空間を吊り上げるとホモロジーがそのまま つ上へずれる、という規則になります。










