零点の指数を全部足すとオイラー標数になる - ポアンカレ・ホップの定理
多様体の上にベクトル場を置くと、いくつかの点でベクトルが になります。 になる点の個数は場のとり方で変わるのに、符号つきで数えた合計は変わりません[1]。
合計の正体はオイラー標数です。局所的な回り方の総和が、空間そのものの形を言い当てる。

以下では指数の定義から始め、球面やトーラスで数え、境界つきの形とモース関数との関係まで扱います。
指数
を多様体 上のベクトル場とし、 を孤立した零点とします。
のまわりに小さな球体をとります。その境界の各点でベクトルを長さ に直すと、球面への写像ができます。
この写像の写像度を、 における指数といい と書きます[1,3]。
局所座標のとり方によりません。座標変換のヤコビ行列が向きを保つ場合も裏返す場合も、次数は変わらないためです。
例: 平面での指数
平面の上の代表的な零点で、指数を読みます。
湧き出し では、境界のベクトルが外向きにそろって 周します。指数は 。
吸い込み では内向きになりますが、こちらも 周するので です[4]。
鞍点 では、 周するあいだにベクトルが逆向きに 周します。指数は 。
渦は回転する場で、指数は です。 次元の鞍点で縮む方向が 個なら、指数は になります[4]。
主張
をコンパクトな微分可能多様体、 を孤立した零点だけを持つベクトル場とします[1,2]。
右辺にベクトル場は出てきません。左辺の合計は、場をどうとり替えても同じ値になります。
に境界があるときは、境界上で が外向きだという条件を付けます。
例: 球面
の は です。どんなベクトル場でも、指数の合計は になります。
北極から南極へ流れる場を考えましょう。北極が湧き出しで 、南極が吸い込みで 、合計 。
零点を つにまとめることもできます。その場合の指数は です。
合計が ではないので、零点のないベクトル場は作れません。球面の毛は必ずどこかでつむじを作る[2]。
同じ議論が偶数次元球面すべてに通ります。 だからです。
例: トーラス
の は です。合計が でよいので、零点のない場が作れる可能性があります。
実際に作れます。トーラスを の商と見て、定ベクトル場を落とせば、どこでも になりません。
零点を持つ場を選ぶこともできます。その場合は、指数の和がちょうど打ち消し合う。高さ関数の勾配場なら、極大 、鞍点 つで 、極小 で合計 です。
例: 種数 g の閉曲面
向きづけ可能な種数 の閉曲面では です。
なら 、 なら 、 なら 。
では合計が負になります。指数が負の零点、つまり鞍点が必ず現れる。
零点のない場が作れるのはトーラスだけです。 の閉曲面はトーラスとクラインの壺に限られます。
例: 三角形分割から場を作る
なぜ合計が標数になるのか。分割から場を組み立てると、理由が見えます。
曲面を三角形に分割し、各頂点に湧き出し、各辺の中点に鞍点、各面の重心に吸い込みを置きます。流れは頂点から出て、辺を通り、面の中心へ落ちていく。
指数は頂点で 、辺で 、面で です。合計をとると数え上げになります。
オイラー標数の定義そのものが出てきました。指数の交代する符号が、次元ごとの交代和に対応しています。
分割を細かくしても、頂点と辺と面が同時に増えるので合計は動きません。ベクトル場の側から見た標数の不変性です。
例: 向きづけできない曲面
指数の定義には向きが要りそうに見えますが、要りません。座標を裏返すと出発側も行き先も同時に裏返るので、写像度は変わらないためです。
そこで向きづけできない曲面にも定理が使えます。 なので、実射影平面のベクトル場は指数の合計が 。
ではないので、零点のない場は作れません。射影平面の毛もつむじを作ります。
クラインの壺は です。こちらは零点のない場が作れます。トーラスの上の定ベクトル場を、貼り合わせと両立する向きに選べば落ちてきます。
例: 境界のある場合
とします。 です。
原点から外向きに伸びる場 をとると、境界で外向きという条件をみたします。零点は原点だけで、指数は 。
条件を落とすと成り立ちません。境界で内向きの場を考えると、指数の和は に変わります。
例: 閉じた奇数次元多様体
奇数次元の閉多様体では です。ポアンカレ双対性からベッチ数が折り返して打ち消し合うためです。
したがって、零点のないベクトル場が作れる可能性が残ります。実際、奇数次元球面では作れます。
を の単位球面と見て、 とします。どの点でも接ベクトルとして になりません。
でも同じで、進む向きを定める場が作れます。偶数次元と奇数次元で結論が分かれる理由が、標数の符号にあります。
モース関数との関係
滑らかな関数 の勾配場をとると、零点は の臨界点です。非退化なら指数が計算できます。
臨界点のモース指数を 、つまりヘッセ行列が負定値になる方向の個数を とします。勾配場の指数は です。
モース理論の等式がそのまま出ました[5]。指数 の臨界点の個数を と書けば、交代和が標数になります。
トーラスの高さ関数で確かめます。極小 個、鞍点 個、極大 個なので、。 と合っています[5]。
臨界点から 構造が作れるので、この等式は胞体の数え上げと同じことを言っています。
証明の筋
証明はいくつかありますが、埋め込みを使うものが標準的です[1]。
まず をユークリッド空間へ埋め込み、管状近傍まで場を延ばします。零点と指数はそのまま保たれます。
次に、近傍の境界からのガウス写像の次数と、指数の和が一致することを示します。
最後に、そのガウス写像の次数が三角形分割から計算できて、標数に等しいと確かめる。局所の回転数を足し上げると大域の数え上げになる、という筋道です。
例: 標数が 0 でない多様体には流れがない
系として、 なら零点のないベクトル場が存在しないと分かります[3]。
滑らかな力学系を作るには、消えないベクトル場が要ります。 の多様体には、そういう流れを載せられません。
の上に大域的な流れは作れず、 の上には作れる。地球の風がどこかで必ず止まる、という話がこの形になります。










