穴ではなくベクトル束を数える K 理論の入り口
空間の上のベクトル束を集め、足し算で群を作る。それが K 理論の出発点です[1]。
ホモロジーが穴を数えたのに対し、こちらは束を数えます。次元公理が成り立たないので、 点の上でも高い次数に値が残ります。

以下では群の作り方から始め、ボット周期性、一般コホモロジー論としての姿、そしてホップ不変量の問題への応用まで扱います。
ベクトル束の集まり
をコンパクトなハウスドルフ空間とします。 上の複素ベクトル束の同型類を集めると、直和について可換モノイドになります[1,4]。
ホイットニー和といいます。零ベクトル束が単位元です。
このモノイドには逆元がありません。 が零になることは、どちらも零でないかぎり起きないためです。
グロタンディーク群
逆元がないなら、足して作ります。自然数から整数を作るのと同じ手続きです[4]。
同型類の生成する自由アーベル群をとり、 の形の元で割ります。
元は束の形式的な差 として書けます。テンソル積を掛け算とすると、 は可換環になります[1]。
例: 1 点
が 点なら、その上のベクトル束は自明なものしかありません。階数だけで分類されます[1]。
モノイドは自然数の加法で、グロタンディーク群をとると整数になります。階数がそのまま整数として出ました。
簡約 K 群
階数の情報を落とした群も使います。 つの束が安定同型であるとは、自明な束を足して同型になること[1]。
安定同型の類が作る群を と書きます。 点への写像が誘導する準同型の核、と言い換えられます。
自明な束を無視する立場です。以下ではこちらを主に使います。
例: メビウス束
の上の実直線束を考えます。 周して向きがそろうものと、裏返るものの つがあります。
裏返るほうがメビウス束です。自明な束と同型ではありません。
安定同型でも分かれます。実 K 理論では次の値になります。
メビウス束が生成元で、位数は です。自分自身と直和すると自明な束になります。
複素の側では事情が違います。円周上の複素直線束はどれも自明で、 です。
ボット周期性
次数を つずらすと同じ群に戻ります。無限次元のユニタリ群のホモトピー群が周期 を持つ、という形でも述べられます[2]。
実の側は周期が です。直交群のホモトピー群は を繰り返します[2]。
複素で 、実で 。この差が、実 K 理論のほうが複雑になる理由です。
例: 球面
から始めます。生成元は、リーマン球面の上の同語反復束から自明な束を引いたものです[1]。
ボット周期性を使えば、あとは自動です。 から始めて つずつ上げます。
偶数次元の球面にだけ、自明でない束が安定に残ります。
一般コホモロジー論として
K 理論は一般コホモロジー論の つです[4]。ホモトピー不変性、完全性、切除、加法性をみたします。
みたさないのは次元公理だけです。 点の値が 次に集まらない。
周期性から、係数は と無限に続きます。有限次元の空間でも、いくらでも高い次数に群が残る。
計算にはアティヤ・ヒルツェブルフのスペクトル系列が使われます[4]。通常のコホモロジーから出発して K 群へ近づく道具です。
チャーン指標
チャーン指標と呼ばれる環準同型が定まり、有理数を係数にすると同型になります。
有理係数で見ると、K 理論は偶数次のコホモロジーを全部束ねたものになります。新しい情報はねじれの側にしかありません。
裏返すと、K 理論の強みはねじれにあります。有理化すると消えてしまう部分が、応用では効きます。
アダムス作用素
コホモロジーにスティーンロッド作用素があったように、K 理論にも作用素があります[1]。
と書き、直線束に対しては 乗をとる操作として定まります。環準同型で、互いに可換です。
この作用素が、次の つの問題を解く鍵になりました。
例: ホップ不変量 1 の問題
に対し、貼り合わせてできる複体のカップ積からホップ不変量が定まります[3]。
となる写像はどの次元にあるか。これがホップ不変量 の問題です。
アダムスが答えを出しました。 のときだけです[3]。
対応するのは実数、複素数、四元数、八元数の つの実可除代数です。ホップ写像がそれぞれの構成から出ます。
はじめの証明は二次コホモロジー作用素を使うものでしたが、のちにアダムスとアティヤが K 理論で短い証明を与えました[3]。アダムス作用素の可換性から、次元が に限られると出ます。
に実可除代数の構造が入るのは だけ。代数の定理が、位相の道具で示されました。
例: 球面上のベクトル場の本数
の上に、各点で一次独立な接ベクトル場を何本とれるか。
を と書き、ラドン・フルヴィッツ数 を定めます。答えは 本です。
下からの構成は古くから知られていました。上からの制限をアダムスが K 理論で示し、問題が閉じました[1]。
が奇数なら で、 本。偶数次元の球面に消えないベクトル場がないという事実が、いちばん易しい場合として含まれます。
例: 非可換な空間へ
K 理論はバナッハ環や 環にも拡張されます[4]。
空間のかわりに環を置き、ベクトル束のかわりに射影加群を置く。可換な 環は空間と同じものなので、拡張になっています。
非可換幾何と呼ばれる分野の出発点です。空間がなくても K 群は定まり、そこから幾何を読む。
指数定理でも K 理論が使われます。微分作用素の解析的な指数と位相的な指数が一致する、という主張の両側が K 群で書かれます。








