連続写像を有限個の頂点で捕まえる(三角形分割と単体近似定理)
連続写像は自由すぎて、そのままでは数えられません。三角形の頂点を頂点へ送る写像なら有限個で、組み合わせの問題に落ちます。
細かく刻めば、どんな連続写像もそういう写像で置き換えられる。これが単体近似定理です[1]。ブラウワーが 1910 年ごろ、単体ホモロジーの位相不変性を確かめるために用意した道具でした[4]。

以下では三角形分割の定義と例から始め、単体写像と星、近似定理の中身と証明の筋、そして三角形分割ができない空間まで扱います。
三角形分割
単体複体 とは、単体の集まりで、面もすべて含み、 つの単体の交わりが両方の面になっているものです[3]。
に属する単体を全部あわせた空間を、 の実現といい と書きます。
位相空間 の三角形分割とは、同相写像 のこと[2]。三角形の貼り合わせで を作り直したことになります。
有限複体なら はコンパクトです。頂点と辺と面の一覧という有限のデータで、空間が指定できます。
例: 円周は 3 頂点から
円周を三角形分割する最少の複体は、三角形の周です。頂点 つと辺 本。
頂点 つでは足りません。 点を 本の辺で結ぼうとすると、 つの単体の交わりが 点になり、面という条件を破ります[3]。
オイラー標数を確かめます。 で、円周の値と合っています。
例: 球面は四面体の表面
の分割としていちばん小さいものは、四面体の表面です。頂点 、辺 、面 。
八面体の表面でも分割できます。頂点 、辺 、面 で、標数はやはり です[3]。
同じ空間に何通りもの分割があり、頂点の個数は違うのに標数は動かない。この不変性が、あとで問題になります。
例: トーラスは 7 頂点
正方形の向かい合う辺を貼るとトーラスができます。正方形を三角形に刻めば分割が得られる、と言いたくなります。
素朴に 本の対角線で つに割ると失敗します。貼り合わせのあとで つの三角形が 辺すべてを共有してしまい、単体複体の条件を破るためです。
十分細かく刻めば通ります。最少の分割は頂点 、辺 、面 で、メビウスのトーラスと呼ばれます[3]。
トーラスの標数 と合っています。
単体写像
複体 から への単体写像とは、頂点を頂点へ送る写像で、 の単体の頂点が の単体の頂点へ行くもののこと。
頂点の対応が決まれば、各単体の内部は線形に延ばして決まります。全体は有限個の頂点の対応だけで書けます。
写像の自由度が有限になりました。連続写像の集まりは無限に広いのに、単体写像は数え上げられます。
頂点の星
頂点 の星 を、 を含む単体の内部をあわせた開集合とします[3]。
のまわりだけを見た小さな近傍です。星の集まりは の開被覆になります。

星が主役になるのは、単体写像を頂点の対応だけで決めたいからです。行き先の頂点を、星の条件から選びます。
単体近似の定義
連続写像 に対し、単体写像 が単体近似であるとは、次をみたすこと[1]。
同じことを点の言葉で書けば、各点 の像 が、 を含む最小の閉単体に入る、となります。
この条件があれば と は近く、線分で結ぶホモトピー が作れます。よって です。
近似といっても、値が近いだけでなくホモトピックまで言える。ここが効きます。
単体近似定理
を有限複体とします。任意の連続写像 に対し、ある自然数 があって、 回重心細分した から への単体近似が存在します[1,4]。
行き先の はそのままで、出発側だけを細かくします。細かくするほど星が小さくなり、条件がみたしやすくなる仕組みです。
細分は出発側にだけ効きます。行き先を細かくしても条件はよくなりません。
証明の筋: ルベーグ数
の各頂点 について、開集合 を作ります。星が を覆うので、 たちは の開被覆です[1]。
はコンパクトな距離空間なので、この被覆にルベーグ数 がとれます。直径が 未満の集合は、どれか 枚に丸ごと入ります。
重心細分をくり返すと、単体の直径は 倍以下に縮んでいきます。 を十分大きくとれば、 の各頂点の星の直径が 未満になります。
そこで各頂点 に対し、 となる を選び、 と定めます。
これが単体写像になることと、星の条件をみたすことは、選び方から確かめられます。証明は細分とルベーグ数の 本で立っています。
例: 低い次元へは全射にならない
とし、 をとります。単体近似 を選ぶと、 の像は 次元以下の単体の和です。
の分割には 単体が含まれ、その内部は の像に入りません。よって は全射になりません。
点を落とした球面は可縮なので、 は定値写像にホモトピックです。 とあわせて次が出ます。
球面の低次のホモトピー群が消えることが、次元の数え上げだけで示せました[1]。
例: ホモトピー群が可算になる
有限複体 から への単体写像は有限個です。細分の回数 を動かしても、全部あわせて可算個。
任意の連続写像はそのどれかにホモトピックなので、ホモトピー類の集合は可算です。
有限 複体のホモトピー群が可算群になる、という基本的な事実が出ます。連続写像の集合そのものは非可算なのに、ホモトピーで割ると可算に落ちる。
例: 単体ホモロジーの位相不変性
単体ホモロジーは分割 から定義されます。同じ空間に別の分割 を入れたとき、値が変わっては困ります。
同相写像 に単体近似をとると、単体写像が誘導する準同型が得られます。逆向きにも同じことをして、合成が恒等写像にホモトピックだと確かめます。
こうして分割によらないことが言えます。同相な複体は同じホモロジー群を持つ[4]。
さらに、連続写像に対しても準同型が定まります。単体写像でない写像を扱えるようになり、単体ホモロジーが関手になります。
どの空間が三角形分割できるか
滑らかな多様体はいつでも三角形分割できます[2]。次元 以下の位相多様体も、例外なく分割できます。
次元から様子が変わります。フリードマンの 多様体は、三角形分割を持たない 次元位相多様体です。
高い次元にも分割できない多様体があります。位相多様体という枠が、組み合わせの言葉に収まりきらない。
計算の道具として使うぶんには、扱う空間がほぼ 複体なので困りません。困るのは、多様体の分類を組み合わせで進めたいときです。
主予想とその否定
分割が つあったとき、共通の細分がとれるだろうか。これを主予想といいます[2]。
正しければ、頂点の個数から作った量がそのまま位相不変量になります。分割の選び方で答えが変わる心配がなくなる。
ミルナーが反例を作りました。レンズ空間から、同相なのに組み合わせとして別ものになる つの複体が得られます。
見分けるのはライデマイスター捩れという量です。共通の細分があれば一致するはずの値が、食い違っています。
組み合わせの構造は、空間そのものより細かい情報を持っている。単体近似定理が保証したのはホモロジーまでで、その先までは届きません。










