交叉を 1 つ入れ替えるだけで多項式が決まる〜アレクサンダーとジョーンズ
結び目の図式から多項式を計算し、その多項式で結び目を見分ける。 色塗り分けのような真偽の判定より、ずっと細かく分かれます。
要になるものがスケイン関係式です。 つの交叉だけをとり替えた つの図式のあいだに、 本の等式を置く[1]。

以下ではコンウェイ多項式から始め、アレクサンダー多項式との関係、ジョーンズ多項式で鏡像が分かれる様子、そして 変数版まで扱います。
スケイン関係式
点の近くだけが違う つの図式を用意します。上を通る向きが正のものを 、逆を 、交叉をほどいてつなぎ直したものを とします。
コンウェイ多項式 は、次の 条件で決まります[2]。
どんな図式も、交叉を有限回入れ替えればほどけます。関係式を使って交叉数を減らしていけば、いつか計算が終わる。
再帰的に値が決まる、という仕組みです。図式のとり方によらないことは、ライデマイスター移動で確かめます。
例: ホップリンク
つの円がひと絡みしたものをホップリンクといいます。交叉は つ。
片方の交叉を入れ替えると、絡みがほどけて 本の離れた円になります。つなぎ直すと 本の円です。
離れた 本の値は なので、関係式から次が出ます。
回絡んでいることが、 の 次として現れました。
例: 三葉結び目
三葉結び目の交叉を つ入れ替えると、ほどけた結び目になります。つなぎ直すとホップリンクです。
したがって次の値が出ます[4]。
ほどけた結び目の値 と違うので、 つは別の結び目です。
アレクサンダー多項式
コンウェイ多項式に を代入すると、アレクサンダー多項式になります[2]。
を使って、三葉結び目の値を書き直します。
もともとは補空間の無限巡回被覆から作られた不変量です[2]。被覆変換をローラン多項式環の変数と見て、 次ホモロジーを加群として扱います。
スケイン関係式のほうが計算は速い。定義が幾何的で、計算が代数的、という組み合わせです。
例: 8 の字結び目
の字結び目でも同じ手順が通ります。交叉を入れ替えるとほどけ、つなぎ直すと向きの逆のホップリンクです。
代入すると次の形になります[5]。
三葉結び目の値と違うので、 つは別の結び目です。 色塗り分けでは区別できなかった組が、ここで分かれます。
性質
アレクサンダー多項式には つの目立つ性質があります[2]。
三葉結び目で確かめます。。 と を入れ替えても のままです。
の字結び目でも になります。
この対称性のせいで、区別できないものが出てきます。
例: 鏡像を区別できない
結び目とその鏡像は、アレクサンダー多項式が一致します[2]。
三葉結び目には右巻きと左巻きがあり、この つは同値ではありません。それでも はどちらも です。
さらに強い制限もあります。アレクサンダー多項式が になる自明でない結び目が、無限個あります。ホワイトヘッド二重化やコンウェイの結び目がその例。
ほどけているかどうかの判定に使えない、という意味です。別の不変量が要ります。
ジョーンズ多項式
1984 年にジョーンズが作った不変量です[1,3]。作用素環の研究から出てきました。
スケイン関係式は次の形になります。
ほどけた結び目の値を とすれば、こちらも再帰的に決まります。 と の係数が と で非対称なところが要点です。
この非対称さが、鏡像を区別する力を生みます。
例: ジョーンズ多項式で鏡像が分かれる
右巻きの三葉結び目のジョーンズ多項式は次の値です[4]。
鏡像をとると、 が に置き換わります[1]。
つは別の多項式です。三葉結び目が自分の鏡像と同値でないと示せました。
アレクサンダー多項式では区別できなかった組が、ここで分かれます。ジョーンズ多項式のほうが強い不変量になっている場面です。
例: 8 の字結び目は自分の鏡像
の字結び目の値を見ます[5]。
と を入れ替えても同じ式です。鏡像と多項式が一致します。
実際、 の字結び目は自分の鏡像と同値です。こういう結び目を非キラルといいます。
多項式が対称だからといって非キラルとは限りません。ここでは別の方法で同値性が確かめられています。
カウフマンの括弧
ジョーンズ多項式には、図式から直に計算する道もあります[1]。
各交叉を 通りにほどき、できた円の個数で重みを付けて足し上げる。この和がカウフマンの括弧です。
括弧のままでは第 種のライデマイスター移動で値が変わります。そこでよじれ数 で補正します。
と置くとジョーンズ多項式になります。作用素環を経由せずに定義できるので、計算はこちらが速い。
ほどけた結び目を検出できるか
アレクサンダー多項式は、ほどけているかどうかを判定できませんでした。ジョーンズ多項式はどうか。
これは未解決です[1]。値が になる自明でない結び目があるかどうか、まだ分かっていません。
交叉数 までのすべての素な結び目については、値が にならないと計算で確かめられています。判定できる可能性のほうが高いと見られています。
HOMFLY 多項式
変数に拡げた不変量もあります[6]。スケイン関係式は次の形です。
変数を特殊化すると、アレクサンダー多項式にもジョーンズ多項式にもなります。両方を含む形です。
人が独立に発見したため、頭文字を並べた名前が付いています。
それでも完全ではありません。 と のように、キラリティが逆なのに同じ値をとる組があります[6]。
多項式を強くしていっても、どこかで区別できない組が残る。結び目の分類が難しいことの一面です。










