積空間のホモロジーは掛け算で出るか?キネットの公式
のサイクルと のサイクルを掛けると、積空間 のサイクルができます。次数は足し算になる。
この対応で がほぼ書けてしまう、と述べたものがキネットの公式です[1]。ほぼ、というところに の項がはさまります。

以下では体係数の易しい形から始め、整数係数で が入る理由を見て、射影平面の積まで計算します。
体を係数にした形
左から右への写像を交叉積といいます。 サイクルと サイクルの組に、積空間の サイクルを対応させる写像です。
ベクトル空間しか出てこないので、次元の計算だけで済みます。
例: トーラス
とします。 は 次と 次に が立つだけ。
次数ごとに組を数えます。 は の 組、 は と の 組、 は の 組です。
次の 本は、縦の円と横の円です。 次の 本が面全体になります。
にねじれがないので、整数係数でもこの答えのままです。
例: n 次元トーラス
に同じ計算をくり返します。各因子から 次か 次を選ぶので、 次の組は 個から 個を選ぶ場合の数だけあります。
ベッチ数が二項係数になりました。 なら です。
例: 球面の積
()を見ます。 次、 次、 次、 次に が つずつ。
のときは 次で 組が重なります。
なら という並びです。
整数係数の形
体でない係数では、テンソル積だけでは足りません。次の短完全列があり、分裂します[1,2]。
第 項は次数の和が の組、第 項は和が の組から来ます。 の項が つずれる、という配置です。
分裂は自然ではありません。値を出すぶんには直和で書けます。
図の青い対角線がテンソル積の項、橙の対角線が の項です。片方の空間にねじれがなければ、橙はいつでも 。
例: 実射影平面の 2 乗
で計算します。 が効いてきます[3]。
次はテンソル積だけで です。
次は と から が つ。 側の対角線は だけで、 です。
次はテンソル側が の で、 側は 。
次はテンソル側が空になり、 側の から が来ます。
次元の空間なのに 次が消えました[1]。向きづけできない多様体の積なので、最高次に は立ちません。
次の は、テンソル積からは絶対に出てきません。 の項が要る、といういちばんはっきりした例です。
例: 射影平面と円周の積
を計算します。 側は自由なので、 の項がすべて消えます。
次は から 、 から です。
次は から 。
片方に自由なものを掛けると、 の心配がなくなります。計算はテンソル積の表を作るだけで終わる。
ポアンカレ多項式は掛け算になる
体係数なら、ベッチ数を係数に並べた多項式が便利です[4]。
キネットの同型は、この多項式の掛け算に対応します。
次数が足し算だから係数が畳み込みになる、という素直な事情です。
例: 多項式で計算する
です。トーラスなら 乗します。
係数 が、さきほど求めたベッチ数と一致します。 なら で、二項係数がそのまま出ます。
なら で、 は 。

オイラー標数は掛け算になる
多項式に を入れると、係数の交代和、つまりオイラー標数が出ます。
多項式が掛け算になるので、標数も掛け算です。
、 です。ねじれは階数に効かないので、この式は整数係数でもそのまま成り立ちます。
コホモロジー版と交叉積
コホモロジーでも同じ形の主張があります。ホモロジーが有限生成で自由なら、次数つき環としての同型になります[1]。
積はカップ積で、テンソル積の側では次数つきの規則に従います。 を次数として、入れ替えに符号が付きます。
ホモロジー版が群の同型だったのに対し、こちらは積の構造まで込みです。群だけでは区別できない空間が、環では分かれることがあります。
例: トーラスのコホモロジー環
は 次の生成元 で生成され、 をみたします。
個の積をとると、 個の 次生成元が入ります。符号の規則から が出るので、外積代数になります。
次の基底は で、個数は二項係数です。ホモロジーで数えた値とそろっています。
鎖複体のレベルの主張
もともとのキネットの公式は、空間ではなく鎖複体についての定理です[2]。
つの鎖複体のテンソル積をとったとき、そのホモロジーがもとのホモロジーのテンソル積と で書ける、という形。
空間の側へ移すには橋が要ります。 の特異鎖複体が、 と の特異鎖複体のテンソル積と鎖ホモトピー同値だ、という定理です。
この橋があってはじめて、代数の公式が空間の公式になります。片方の複体が自由であること、という仮定はここでみたされています。









