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ホモロジーの「ねじれ」は貼り付け方から生まれる

ホモロジー群に や が現れることがあります。有限位数の元、つまりねじれです。

穴の個数を数えているはずの群に、なぜ有限群が混じるのか。答えは貼り付け方にあります。 周ではなく 周して貼ると、 倍写像が鎖複体に現れる。

以下ではねじれ部分群の定義から始め、実射影空間で計算を追い、係数を変えると見え方がどう変わるかを確かめ、レンズ空間まで進みます。

ねじれ部分群

アーベル群 の元 が、ある正の整数 で をみたすとき、 はねじれの元です。

ねじれの元をあわせた部分群を と書きます。有限生成なら、群は自由部分と有限部分に分かれます。

を階数といい、ホモロジーでは 次のベッチ数 にあたります。 が数えているのは、階数には現れない別の情報です。

例: 実射影平面

は、 胞体、 胞体、 胞体を つずつ貼った複体です。 胞体の縁は 胞体を 度なぞります。

胞体鎖複体はこうなります。

は を で割ったものです。

倍写像の核が なので、 次には何も残りません。かわりに 次へ が落ちてきます。

例: クラインの壺

クラインの壺は正方形の辺を貼って作ります。片方の組は向きをそろえ、もう片方の組は逆向きに貼る[3]。

基本群の表示から可換化すると、関係式は に化けます。

自由部分の とねじれの が同居しています。逆向きに貼った 組だけが、ねじれを生んでいます。

次が である点も見ておきます。向きづけできない閉曲面では、最高次のホモロジーが消えます。

実射影空間の胞体鎖複体

は各次元に胞体を つずつ持ちます[1]。 胞体の貼り付け写像は、 という 対 の被覆です。

境界作用素の次数は次の式で決まります。

が偶数なら 、奇数なら です。複体は と を交互にはさんだ形になります。

canvas: 置き場が受け取りませんでした

対 の被覆だから次数が 、という素朴な事情です。符号の打ち消しで になる段が交互に来ます。

例: RP^3 の計算

で書き下します。複体は 段です。

次は で、上から割るものがないのでそのまま残ります。

次は なので消えます。 次は 。

次に が立ちました。 は向きづけ可能な閉多様体です。

例: RP^n の一般形

同じ計算を一般の でやると、規則が見えます[1]。

次はいつも です。 の範囲では、 が奇数のとき 、偶数のとき 。

最高次は の偶奇で分かれます。 が奇数なら 、偶数なら です。

がずらりと並びます。偶数次元の射影空間には最高次の がなく、向きづけできません。

例: mod 2 係数だと見えなくなる

係数を にとり替えます。すると 倍写像は 写像になり、境界作用素がすべて消えます。

各次数に が つずつ、きれいに並びました[1]。胞体の個数がそのまま出た形です。

整数係数では消えていた偶数次が復活しています。係数を変えると見えるものが変わる、といういちばん分かりやすい例です。

例: 有理係数だと消える

今度は係数を にします。 倍写像は の上で同型なので、その段は核も余核も です。

ねじれが跡形もなく消えました。有理係数が見ているのはベッチ数だけです。

、、 の 通りで、同じ空間がまるで違って見えます。ねじれは整数係数でしか観察できない情報でした。

ねじれはオイラー標数に効かない

オイラー標数はベッチ数の交代和です。ねじれ部分は階数 なので、和に寄与しません。

で確かめます。、、 なので です。胞体の個数で数えても で一致します。

なら 、途中は で 。胞体の個数でも です。

標数だけを見ていると、ねじれの有無は分かりません。 と はどちらも ですが、 次ホモロジーは と で別ものです。

どこから来るのか

ねじれの出どころは、 以外の整数を係数に持つ境界作用素です。

貼り付け写像の次数が なら、その段で核も余核も素直に振る舞います。次数が になると、商に が残る。

向きをそろえて貼れば次数は 、ひっくり返して貼ると打ち消しが起きて になる。ねじれと向きづけ不可能性が結びつくのは、この事情からです。

もっとも、向きづけできる空間にもねじれは現れます。次に見るレンズ空間がその例です。

例: ムーア空間

好きな有限アーベル群をねじれとして持つ空間が作れます[4]。

に 胞体を、次数 の写像で貼りましょう。鎖複体は 段だけです。

次は 、 次は です。ほかの次数には何もありません。

この空間をムーア空間 といいます。、 とすると そのもの。

ねじれを注文どおりに作れる、と分かりました。ホモロジーの側から空間を設計する手口です。

例: レンズ空間

と を互いに素な整数とし、 に を自由に作用させて商をとります[2]。

得られる 次元多様体がレンズ空間 です。基本群は で、 によりません。

胞体は各次元に つずつで、境界作用素は と が交互に並びます。

次に が立っているので向きづけ可能です。それでも 次には のねじれがある。

を大きくとれば、いくらでも大きな巡回群をねじれとして持つ 次元多様体が作れます。

ねじれが足りない場面

レンズ空間は、ホモロジーだけでは分類しきれません。 と は基本群もホモロジー群も同じですが、同相ではありません[2]。

見分けるにはライデマイスター捩れという別の量が要ります。ホモロジーのねじれとは別の「捩れ」です。

ホモトピー同値の条件は 、同相の条件は と書けます[2]。前者は通っても後者は通らない組が作れます。

ねじれはホモロジーが拾える情報の中では細かいほうですが、それでも空間の全部ではありません。

参考文献

Real projective space - Wikipedia(英語)
Lens space - Wikipedia(英語)
Kleinsche Flasche - Wikipedia(ドイツ語)
Moore space (algebraic topology)) - Wikipedia(英語)
貼り付け写像の次数が $\pm 1$ でなくなると、鎖複体に $2$ 倍写像が現れて商にねじれが残ります。実射影平面とクラインの壺で計算を追い、$\mathbb{R}P^n$ の $0$ と $2$ が交互に並ぶ複体から一般形を出す。係数を $\mathbb{Z}/2$ にすると各次数に $\mathbb{Z}/2$ が並び、$\mathbb{Q}$ にすると跡形もなく消えます。ムーア空間で好きな有限群を注文し、レンズ空間では向きづけできてもねじれが残る。