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重なり方だけを写しとる〜Čech コホモロジーと被覆の神経

空間を開集合で覆い、どこがどう重なっているかだけを記録する。その重なり方から作るコホモロジーが Čech コホモロジーです[1]

点や単体を数えるかわりに、被覆の交わりを数えます。多様体でも、 複体の構造を持たない空間でも、開集合さえとれれば動く。

以下では神経の作り方から始め、複体と余境界作用素、細分の極限、そして特異コホモロジーと一致する条件までを見ます。

被覆の神経

開被覆 をとります。添字の有限個の組 に対し、共通部分が空でなければ 単体を置く。

こうしてできる単体複体を、被覆の神経といい と書きます[3]

単体は開集合そのもの、 単体は 枚の重なり、 単体は 枚の重なりです。空間の点はもう出てきません。

例: 円周を 3 つの弧で覆う

円周を、両隣と少しずつ重なる つの弧で覆います。どの 枚も重なり、 枚すべての共通部分は空です。

神経は頂点 、辺 、面なしの複体になります。三角形の周そのもの。

三角形の周は円周と同相です。もとの空間が神経として復元されました。

枚、 枚と増やしても同じで、 角形の周が出ます。どれも円周とホモトピー同値です。

Čech 複体と余境界

係数をアーベル群 にとります。 次のコチェインは、 枚の重なりそれぞれに の元を割り当てたものです。

余境界作用素は交代和で決めます[2]

は添字を つ落とす記号です。 は、落とす順序を入れ替えると符号が反転することから出ます。

この複体のコホモロジーを と書きます。被覆を決めるごとに つ定まる群です。

例: 2 枚の被覆で円周を計算する

円周を上下 つの弧 , で覆います。 枚の重なりがないので、複体は 段で終わります。

はどちらも連結なので です。交わりは左右 か所に分かれるため

余境界は、 か所それぞれで差をとります。

核は の組で 、像は対角線 です。

円周の値と合っています。片方の重なりで値をそろえると、もう片方に残る差が消せない。その つの整数が 次コホモロジーです。

枚のときだけ神経が線分になり、円周と形が違います。コホモロジーの値は正しく出たのに、神経は形を写していません。

細分と極限

被覆を変えると値が変わるかもしれません。そこで細かい被覆へ移る操作を用意します。

の細分であるとは、各 がある に含まれること。細分は を誘導します[2]

細分の順序について極限をとったものが、空間の Čech コホモロジーです。

これで被覆の選び方に依存しなくなりました。実際の計算では、極限をとらずに済む被覆を最初から選びます。

神経定理

いつ極限をとらずに済むのか。答えが神経定理です。

被覆 が良い被覆であるとは、空でない有限個の共通部分がすべて可縮になること[3]

良い被覆なら、神経の実現が空間とホモトピー同値になります。

そこまで言えれば、コホモロジーは神経の側で計算できます。無限の極限が、有限の単体複体に置き換わる。

例: 球面を 4 枚で覆う

を、四面体の各面を少し膨らませた 枚の開集合で覆います。どの共通部分も可縮な小片です。

神経は頂点 、辺 、面 の複体、つまり四面体の表面になります。

球面のコホモロジーが、 個の頂点と 本の辺の数え上げで出ました。

例: 良い被覆でないと落ちる

同じ を、上下 枚の膨らませた円板で覆ってみます。

枚の重なりがないので )です。 次のコホモロジーは、はじめから出てきません。

正しい値は でした。 枚の交わりが赤道のまわりの帯で、可縮でないことが原因です。

粗い被覆では、共通部分の中に隠れた穴が見えません。良い被覆という条件は、そこを塞ぐためにあります。

特異コホモロジーとの一致

比べる相手は特異コホモロジーです。一致する条件はかなりゆるく、次が知られています[1]

複体とホモトピー同値なら、両者は自然に同型です。パラコンパクトなハウスドルフ空間でも、すべての次数で一致します[2]

日ごろ扱う空間はこの範囲に収まります。多様体も 複体も、どちらも入っています。

次と 次については、条件なしで一致します。低い次数だけなら、空間の性質を問わずに使える。

例: ワルシャワの円

一致しない空間もあります。 のグラフに縦線分と弧をつないだ図形を、ワルシャワの円といいます[4]

見た目は円ですが、縦線分のところで局所連結性が壊れています。弧状連結でもありません。

特異ホモロジーは正の次数がすべて消えます。ホモトピー群も自明です。それでも 点にホモトピー同値ではありません。

いっぽう Čech の側では、どの被覆の神経も円周と同じ形になります。極限をとっても円周のままです。

道でたどれない穴を、開集合の重なりが拾いました。局所の様子が悪い空間では、 つの理論が分かれます。

係数を層にとる

割り当てる先を、群ではなく層の切断にすると、そのまま層コホモロジーの計算法になります[2]

定数層をとった場合が、ここまで見てきた形です。 次は各連結成分に つずつ値を選ぶことなので、成分の個数だけ が並びます。

一般の層では、共通部分の上で高次コホモロジーが消える被覆を選ぶ必要があります。良い被覆の条件が、層の言葉で言い直された形。

被覆の重なりだけを見るという方針は変わりません。変わるのは、重なりの上に何を置くかだけです。

参考文献

Čech cohomology - Wikipedia(英語)
Čech-Kohomologie - Wikipedia(ドイツ語)
Nerve (category theory)) - Wikipedia(英語)
Warsaw circle - nLab
開被覆のどこがどう重なるかを単体複体に写したものが神経です。円周を 3 つの弧で覆えば三角形の周が現れ、球面を 4 枚で覆えば四面体の表面が出る。$2$ 枚だと交わりが割れて神経が線分になり、球面では $2$ 次が丸ごと落ちます。細分の極限で被覆への依存を消し、良い被覆なら有限の複体で計算が終わる。$CW$ 複体とホモトピー同値なら特異コホモロジーと一致し、ワルシャワの円では答えが分かれます。