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テンソル積はどこで壊れるか|Tor と Ext の作り方

テンソル積は完全列を完全列のまま送りません。左端で単射性が壊れます。

壊れ具合を測るために置かれた群が です。 のほうは右端で全射性が壊れ、そこを測る群が です[1]

以下では壊れる様子を計算で見てから、自由分解による定義、計算規則、そして と拡大の対応まで扱います。

テンソル積が壊れるところ

は右完全です。短完全列に当てると、右端の 項だけが完全のまま残ります。

具体例で確かめましょう。次の短完全列に を当てます。

で、 倍写像は の上では 写像です。

左端に を付けたら完全になりません。核が ぶん余っています。

この余りが です。

自由分解

測るための道具立てを作ります。アーベル群 に対し、自由群による分解をとります。

は自由で、列は完全です。生成元と関係式を書き下せば、いつでも作れます。

整数を係数とする場合は短くて済みます。自由アーベル群の部分群は自由なので、 段で終わる分解がとれます。

Tor の定義

分解から を外し、残った複体に を当てます。

この複体の 次ホモロジーを と定めます[1,4]。テンソル積の左導来関手、という言い方をします。

次は そのものです。 が右完全なので、 次では何も新しくなりません。

情報が出てくるのは 次からです。整数係数では 次以上がすべて になります。分解が 段で終わるためです。

例: 巡回群の分解

の分解は 行で書けます。

を外して を当てると、 という 本の写像だけが残ります。

次ホモロジーはこの写像の核です。

次は余核で、、つまり です[2]

例: 巡回群どうし

とします。 の中で 倍して になる元を数えます。

の解は 個です。

です[2]

互いに素なら消えます。ねじれどうしが重なる部分だけを拾っている、と読めます。

分解のとり方によらない

つの自由分解をとると、恒等写像を延長する複体の射が作れます。行き先が自由なので、各段で写像を持ち上げられるからです。

そのような射は鎖ホモトピーを除いて一意になります。よってホモロジーの上では同じ写像を誘導します。

両向きに射をとると、合成が恒等写像にホモトピックです。ホモロジーの上では互いに逆の同型になり、群は同型を除いて定まります[5]

分解は 通りではないのに答えは つ。導来関手の構成は、どれもこの筋で正当化されます。

Tor の性質

計算でよく使う性質を並べます。

自由な群や平坦な加群では消える。
入れ替えても変わらない。
直和とは交換する。成分ごとに計算してよい。
短完全列に対して長完全列が伸びる。

対称性は定義からは見えません。 側で分解をとったのに、 側で分解をとっても同じ答えが出る、という主張です[2]

長完全列は次の形になります。

いちばん左に が来るのは、 次以上が消える整数係数だからです。

Hom が壊れるところ

は反変で左完全です。今度は右端の全射性が壊れます。

さきほどの短完全列に を当てます。

左端は です。 には位数 の元がありません。

右の 倍写像は で、全射ではありません。余りは

この余りが です。

Ext の定義

作り方は と同じ 段です。 の自由分解をとり、 を外し、 を当てます。

矢印の向きが逆になるので、複体はコチェイン複体になります。その 次コホモロジーが です[3,5]

次は です。左完全なので、こちらも 次では新しくなりません。

例: 巡回群の Ext

の分解に を当てると、 が残ります。 のときと同じ写像です。

違うのはどちらを読むかです。核ではなく余核をとります。

が核を、 が余核を見ている。 つの関手が 本の写像の両端に割り当てられています。

とすると です[3]

Ext と拡大

という名前は拡大から来ています。 の元は、次の形の短完全列の同値類と に対応します[3]

零元にあたるものは直和 です。分裂する拡大、と言い直せます。

なら拡大は分裂するものしかありません。 が自由なので 、つまり による拡大はいつでも分裂します。

例: 拡大が 2 通りある場合

とします。上の規則で を計算すると となり、元は つ。

対応する拡大を書き出します。

前者が零元、後者が でない元です。位数 の群が 種類あることと、群の個数がぴったり合っています。

なら拡大は 通りだけ。実際、位数 のアーベル群は しかありません。

高次はどこへ消えるか

整数を係数とするかぎり、 です。

理由は分解の短さにあります。自由アーベル群の部分群は自由なので、 の核をとった時点で分解が閉じます。

より一般の環では事情が変わり、高次が生き残ります。多項式環の変数が 個なら、 次まで出てくる。

位相幾何で係数を整数にとるかぎり、 だけを覚えれば足ります。添字を省いて と書く習慣は、この事情から来ています。

参考文献

Derived functor - Wikipedia(英語)
Tor functor - Wikipedia(英語)
Ext functor - Wikipedia(英語)
Abgeleiteter Funktor - Wikipedia(ドイツ語)
Foncteur dérivé - Wikipédia(フランス語)
完全列にテンソル積を当てると左端の単射性が崩れ、$\mathrm{Hom}$ を当てると右端の全射性が崩れます。崩れ幅を測るために自由分解をとり、関手を当ててホモロジーを読む。この 3 段が導来関手の作り方です。$\mathbb{Z}/n$ の分解 1 本から $\mathrm{Tor}$ と $\mathrm{Ext}$ が核と余核として同時に出てくる様子、$\mathbb{Z}/4$ と $\mathbb{Z}/2 \oplus \mathbb{Z}/2$ が拡大の 2 元に対応すること、整数係数では $2$ 次以上が消える理由まで。