アレクサンダー双対性の証明:補空間のホモロジーは中身のコホモロジーで決まる
球面の中に図形を置き、その外側を眺めます。外側のホモロジーが、中身のコホモロジーだけで決まってしまう[1]。
次数はひっくり返ります。 次を知りたければ、中身の 次を見る。

主張
を の空でないコンパクトな部分空間とし、局所可縮だとします。次の同型が成り立つ[1]。
係数はどのアーベル群でも通ります。局所可縮という条件は、コホモロジーを Čech でとれば外せる。
簡約をとった形どうしが対応します。両辺とも、 次から を つ落とした形。
例 1:1 点を抜く
を 点とします。すべての で だから、右辺はいつでも 。
したがって の簡約ホモロジーはすべて消える。 点を抜いた球面は と同相で、たしかに可縮です。
例 2:2 点を抜く
、つまり 点とします。 で、ほかの次数は になる。
右辺が でないのは 、つまり のときだけ。
点を抜いた球面は とホモトピー同値です。 から 点を抜くと円筒になり、円周へ縮むため、計算と一致する。
例 3:円周を抜く
、 とします。、 です。
では、右辺が になる。
簡約 次が とは、連結成分が つという意味です。球面に埋め込まれた円周は、球面を つに分ける[4]。
では だから、それぞれの成分に穴はありません。分かれた つは、どちらも円板と同じホモロジーを持つ。
例 4:球面の中の球面
、ただし とします。 が でないのは のときだけ。
を解くと です。
補空間は と同じホモロジーを持ちます。埋め込み方がどれだけ絡んでいても、この答えは動かない。
円板を抜くと外側は何も残らない
証明の土台になるのは、球面ではなく円板を抜いた場合です[2]。
を埋め込みとすると、すべての で になる。
についての帰納法で示します。 なら は 点で、補空間は 。可縮だから簡約ホモロジーは消える。
の代わりに立方体 を使います。同相なので結論は変わらない。最後の座標で半分に割り、次の つを置く。
どちらもコンパクト集合の補集合だから開いています。共通部分は 、和は 。
和のほうは 次元の立方体を抜いた形なので、帰納法の仮定から簡約ホモロジーが消えます。Mayer-Vietoris 完全列の両端が落ち、次の同型が残る。
右辺への写像は つの包含から来ています。 の中で境界にならない 次サイクル があったとすると、 と の少なくとも一方でも は境界にならない。
のサイクルは、拡大した鎖複体の意味でとります。
境界にならないほうを選び、その半分をまた半分に割る。繰り返すと最後の座標に入れ子の閉区間 ができて、 点 へ縮みます。
どの でも は で境界にならない。

一方、帰納法の仮定から では が境界です。 となる鎖 をとる。
は特異単体の有限和なので、その像はコンパクト。像は増えていく開集合の列 に覆われるため、ある で はまるごとその中に入る。
これは がその中で境界にならないことと食い違います。境界にならないサイクルはなく、簡約ホモロジーはすべて になりました。
球面の場合を帰納法で示す
次に を埋め込みとし、 とします[2]。
こちらも についての帰納法です。 なら から 点を抜いた形で、 とホモトピー同値。簡約ホモロジーは で 、ほかは になる。
を上半球 と下半球 に分けます。 つの交わりは 。
共通部分は 、和は です。前の節から も も簡約ホモロジーが消えるため、Mayer-Vietoris 完全列の両端が落ちて、次数を つずらす同型が残る。
右辺は帰納法の仮定から、 のとき で、ほかは 。整理すると です。
例 4 の答えが、これで示せました。埋め込み方をどこにも使っていないため、絡んでいても結果は変わらない。
一般の場合はポアンカレ双対性から導く
が球面でも円板でもないときは、上の帰納法が回りません。ポアンカレ双対性を経由します[1]。
筋は 段。まず補空間のホモロジーを、対 の相対ホモロジーへ移す。
対の長完全列では、両隣に と が並びます。 ならどちらも で、この同型が残る。
では短完全列になります。
左端の は です。 の各成分がコンパクトでない 次元多様体だから、 次ホモロジーが消える。
この列は分裂し、 が つ落ちます。右辺で から を落とすことと、ここが対応する。
段目が本体です[1]。
の開近傍 をとり、対 と の長完全列を上下に並べます。縦の写像は基本類とのキャップ積。
真ん中の縦線がポアンカレ双対性そのものになります。 を へ小さくしていく極限をとると、左端の縦線は開いた多様体 の双対性 になる。
はコンパクトな台を持つ側のコホモロジーで、コンパクトでない多様体ではこちらが双対の相手です。
五項補題から が言えます。残るのは、この極限が に一致することの確認。
が局所可縮なら、 は近傍のレトラクトにとれます。小さい を へ落とす写像が包含とホモトピックになるため、極限は 自身のコホモロジーと一致する[1]。
段をつなぐと、次数が から へひっくり返った形になりました。
局所可縮を外すと崩れる
条件を落とすと定理は成り立ちません。 の中に、次の閉集合 を作る[1]。
での のグラフ、 軸上の線分 、そして つをつなぐ弧。この つを合わせた形です。無限遠点を足して の部分集合と見る。
は単連結だから です。ところが は弧状連結成分を つ持つため、。
双対性が言うのは で、左辺が 、右辺が 。両辺が食い違います。
壊れているのは 軸上の線分です。線分の各点は、どれだけ小さい近傍をとっても縮まない。局所可縮という条件は、ここで効いています。
例 5:結び目の補空間
、 を に埋め込まれた円周、つまり結び目 とします。 なので 。
どんな結び目でも同じ値になる[2]。三葉結び目でも、ほどけた円周でも、補空間のホモロジーは区別できません。
生成元は結び目のまわりを 周する小さなループです。何回まわったかを数える、それだけの群になっている。
結び目を見分けるには足りない
結び目の情報は補空間に残っています。補空間が同相なら結び目も同じだ、という定理が知られているためです。
それでもホモロジーでは足りない。上の計算のとおり、答えが結び目によらないためです。
基本群まで上がれば見分けられます。補空間の基本群を結び目群といい、こちらは結び目ごとに違う。三葉結び目とほどけた円周は、この群で分かれます[2]。
可換化すると になる。 次ホモロジーが結び目を見分けられないのは、この可換化のためです。
例 6:絡み目の成分の個数
を 本の円周の直和とします。、 になる。
では で、右辺に が来ます。
成分の本数だけ生成元があり、それぞれの成分をまわるループに対応する。
では だから、補空間は連結です。絡み目がどう絡んでいても、外側はひとつながり。
絡み方の違いはカップ積やマッセイ積に現れます[1]。ホモロジー群だけでは、ボロミアン環と自明な絡み目が同じ値を返す。
例 7:向きづけできない閉曲面は 3 次元球面に入らない
閉曲面 が に埋め込めたとします。 で双対性をあてる。
左辺は連結成分の個数から を引いたぶんの自由アーベル群です。ねじれは持たない。
が向きづけできないとすると、 で、 に ぶんのねじれがあります。普遍係数の関係から 。
自由アーベル群が と同型になることはありません。ここで食い違う。
次元空間の中で自己交叉なしに作れない、という事実が、双対性を つあてるだけで示せました[1]。
組み合わせ版
有限集合 を頂点集合とする抽象単体複体 に対し、双対複体を次で定めます[3]。
の面でない集合の補集合を集めたもの。 回とると元に戻ります。
とすると、次の同型が成り立つ[3]。
空間への埋め込みを持ち出さずに、集合の補集合をとるだけで双対がとれます。証明も有限集合の上の計算だけで閉じる[3]。
例 8:4 頂点で試す
とし、 を辺 と辺 からなる複体とします。図形としては交わらない 本の線分で、 点と同じ形。
双対を計算します。 の補集合は で、これは の面だから は に入らない。 も同じ理由で外れます。
残る 本の辺 は、補集合が の面でないので入る。頂点はすべて入ります。
は とめぐる 角形。円周と同じ形になりました。

は 点と同じなので 、 です。
で公式にあてると、、。
手で数えた 角形の値と一致しました。 次と 次が入れかわっている。
Čech で述べ直す
主張には局所可縮という条件が付いていました。 が悪い形をしていると、特異コホモロジーが役に立たないためです。
コホモロジーを Čech でとると、この条件が外れる[1]。どんなコンパクト部分集合でも双対性が成り立ちます。
さきほどの反例で確かめられます。 側の は のままだから、Čech でとった も でなければならない。特異コホモロジーの との差が、 つの理論の違いそのものです。
一般の証明を振り返ると、双対の相手は 自身ではなく、近傍 のコホモロジーの極限でした。Čech はその極限を定義に組みこんだ理論なので、局所の様子を問わずに話が通る。
安定ホモトピー論では、この双対がスパニエ・ホワイトヘッド双対として整理されます。補空間という具体物が、抽象的な双対対象に置きかわった形。










