結び目を縁とする曲面を張る - ザイフェルト曲面と絡み数
どんな結び目にも、それを縁とする向きづけ可能な曲面が張れます[1]。ザイフェルト曲面といいます。
次元の中で絡まっているひもを、 次元の対象に翻訳する道具です。曲面の種数や、そこから作る行列が不変量になります。

以下では曲面の作り方から始め、種数と絡み数を計算し、ザイフェルト行列からアレクサンダー多項式と符号数が出るところまで進みます。
ザイフェルト曲面
を向きづけられた結び目または絡み目とします。コンパクトで連結、向きづけ可能な曲面 が に埋め込まれ、その境界が になっているとき、 を のザイフェルト曲面といいます[1,4]。
向きづけ可能という条件が要ります。三葉結び目の図をチェス盤状に塗って作る曲面はメビウスの帯になり、向きづけできません[1]。
存在は当たり前ではありませんが、図式から作る手順が知られています。
ザイフェルトのアルゴリズム
図式に向きを入れ、各交叉を向きに沿ってほどきます。ひもは交わらなくなり、いくつかの閉じた円になります[4]。
これをザイフェルト円といいます。各円に円板を張り、高さをずらして重ねます。
交叉のあった場所に、ひとひねりした帯を渡します。帯の向きは、もとの交叉の符号にそろえる。
できあがった曲面の境界は、もとの図式に戻ります。円板の向きが帯を通してつながるので、全体が向きづけ可能です。
種数の公式
交叉の数を 、ザイフェルト円の数を 、成分の数を とします。得られる曲面の種数は次の式で出ます[1]。
円板 枚と帯 本からなる曲面なので、オイラー標数が です。境界が 本ある種数 の曲面の標数 と等しいと置けば、上の式が出ます。
例: 三葉結び目
三葉結び目の標準的な図式では 、、 です。
種数 の曲面、つまり穴あきトーラスが張れます[4]。
の字結び目でも計算します。、、 なので、こちらも 。
結び目の種数
同じ結び目でも、図式を変えれば別の曲面が出ます。そこで最小の種数を結び目の種数と定めます[4]。
種数 の結び目は、ほどけたものだけです。円板が張れることと、ほどけていることが同値になります。
三葉結び目と の字結び目の種数は です。 トーラス結び目なら になります[4]。
種数は連結和について足し算です。
素な結び目に分解したとき、種数がそれぞれの和になる。この性質から、種数が の結び目は素だと分かります。
アレクサンダー多項式の次数が種数の 倍を上から押さえます。交代結び目では等号が成り立ちます[4]。
絡み数
つの成分がどれだけ絡んでいるかを数えます。異なる成分どうしの交叉だけを見て、符号を付けて足し、 で割ります[3]。
符号は交叉での 本の向きの回り方で決まります。同じ成分どうしの交叉は数えません。
ライデマイスター移動で値が変わらないので、絡み目の不変量です。片方の向きを逆にすると符号が反転します。
例: ホップリンク
つの円がひと絡みしたホップリンクを見ます。異成分の交叉は つで、符号がそろっています。
向きを片方だけ逆にすると になります。離れた 本の円では交叉がなく、値は です[3]。
ソロモンの封印と呼ばれる絡み目では になります。何重に絡んでいるかが、そのまま整数として出ます。
例: ホワイトヘッドリンク
絡み数 でも、離れているとは限りません。
ホワイトヘッドリンクは 成分の絡み目で、絡み数が です[3]。それでも 本を引き離すことはできません。
正と負の交叉が同じ数だけあり、打ち消し合っています。絡み数は打ち消しに弱い、と言えます。
見分けるには別の量が要ります。ミルナー不変量や多項式不変量が使われます。
ホモロジーとの関係
絡み数には、ホモロジーによる言い換えがあります[3]。
の補空間の 次ホモロジーは でした。 をその中のサイクルと見ると、ホモロジー類が整数として決まります。
交叉を数える定義と一致します。図式に頼らない定義なので、不変性が自動的に出る利点があります。
ザイフェルト行列
ザイフェルト曲面 の種数を とすると、 です。基底 をとります。
各 を曲面から少し持ち上げた閉曲線を と書きます。行列の成分を絡み数で定めます[1]。
これがザイフェルト行列です。 の整数行列になります。
曲面のとり方や基底のとり方で行列は変わります。そこから作る量のうち、変わらないものが不変量になる。
例: 三葉結び目の行列
三葉結び目のザイフェルト曲面は種数 なので、 の行列です[1]。
対角成分は、穴あきトーラスの 本の芯がそれぞれ自分の持ち上げとどれだけ絡むかを表します。ひねりの回数が入っている、と読めます。
アレクサンダー多項式が出る
三葉結び目で計算します。
行列式は です。 で割ると になり、よく知られた値と一致します。
曲面のとり方を変えても、単数倍を除いて同じ多項式が出ます。ここが定理の中身です。
符号数
もう つの不変量が符号数です。 は対称行列なので、正と負の固有値の個数の差がとれます[1]。
三葉結び目で計算します。
固有値は と で、どちらも正です。よって符号数の絶対値は 。
例: 符号数で鏡像が分かれる
鏡像をとるとザイフェルト行列が転置して符号が変わり、符号数も符号が反転します。
三葉結び目では が入れ替わるので、 つは区別できます。アレクサンダー多項式では区別できなかった組が、ここで分かれる。
の字結び目のザイフェルト行列で同じ計算をすると、 の行列式が負になります。固有値の符号が分かれ、符号数は 。
鏡像をとっても のままです。 の字結び目が自分の鏡像と同値であることと、矛盾しません。
符号数は連結和について足し算になります。この性質から、結び目を数の世界へ写す準同型が作れます。










