自由群の部分群はまた自由になる……グラフの基本群で示す
自由群の部分群は、また自由群になります[1]。純粋に群論の主張ですが、いちばん見通しのよい証明は位相を使います。
自由群をグラフの基本群として実現し、部分群を被覆グラフとして読む。グラフの基本群がいつでも自由なので、それで終わります。

以下ではグラフの基本群から始め、被覆グラフで定理を証明し、指数の公式と具体例を並べます。
グラフの基本群
連結なグラフ をとります。頂点の個数を 、辺の本数を とします。
全域木 を つ選びます。 は 本の辺を持ち、可縮です。
を 点につぶすと、 は円の花束になります。残った辺の本数だけ円がある。
グラフの基本群はいつでも自由群です。階数は にあたります[3]。
例: 8 の字
頂点 個、辺 本のグラフが の字です。全域木は 点だけなので、輪は 本。
個の円の花束なら になります。逆に、どんな自由群もこの形で実現できます[3]。
例: 完全グラフ
頂点の完全グラフ では 、 です。
全域木は 本の辺を持ち、残る 本が輪を生みます。図の形がどうであれ、数え上げだけで階数が出ます。
被覆グラフ
被覆写像は局所同相なので、頂点は頂点へ、辺は辺へ移ります。上の空間にグラフの構造がそのまま持ち上がる。
ここが証明の要です。被覆をとってもグラフのままなら、基本群は自由のままになります。
定理の証明
を自由群、 をその部分群とします。
を階数ぶんの円の花束 の基本群として実現します。ガロア対応から、 に対応する連結な被覆 がとれます[2]。
被覆はグラフなので、その基本群は自由です。いっぽう被覆の基本群は と同型でした。
これで証明が終わります[4]。群論の主張が、グラフの絵 枚で片づきました。
ニールセンが 1921 年に有限生成の場合を、シュライアーが 1926 年に一般の場合を示しています[1]。
指数の公式
被覆の枚数が分かれば、部分群の階数が計算できます[1,4]。
の階数を 、部分群 の指数を とします。
証明はオイラー標数の掛け算です。 枚の被覆では になります。
なので 、階数は です。
例: 指数 2 の部分群
で 、 とします。
階数 の群の中に、階数 の部分群があります。生成元が増えている。
具体例を挙げます。 から への準同型で と をどちらも へ送ると、核は長さが偶数の語の集まりです。指数は で、階数は になります[1]。
例: 階数が減らない
自由アーベル群では、部分群の階数がもとを超えません。 の部分群は ()です。
自由群では逆になります。 なら、いくらでも大きい有限階数の自由部分群が入ります[4]。
を大きくすれば もいくらでも大きくなる。指数の公式がそのまま言っています。
可換なときと非可換なときで、振る舞いが正反対になる例です。
例: 交換子部分群
の交換子部分群を見ます。商が なので、指数は無限です。
指数の公式は使えません。それでも自由であることは定理から言えます。
階数は可算無限です。( は でない整数)が自由な生成系になります[3]。
有限階数の群の中に、無限階数の部分群がある。可換化すると という小さな群になるのに、核は巨大です。
例: 階数 1 の場合
、つまり で確かめます。
指数が何であっても階数は です。 の部分群が になる、という古典的な事実にあたります[4]。
対応する被覆は円周の 重被覆で、これも円周でした。グラフの側でも階数が変わらない。
例: 自由積との関係
つの群の自由積についても、似た定理があります。クロシュの部分群定理といいます。
自由積の部分群は、いくつかの共役の交わりと自由群との自由積になる。証明はやはり被覆空間を使います。
グラフを木にとり替え、群が作用する対象として扱う。この見方を進めたものが、群のグラフ上の作用を調べるバス・セール理論です。
自由群の部分群の話が、群論の広い枠組みへつながっていく出発点になっています。










