符号つきで数えた交わりは何を決めるのか?交叉形式と 4 次元多様体
つの部分多様体が横断的に交わるとき、交わりの点に符号を付けて数えられます[2]。その数を交叉数といいます。
次元がちょうど補い合うときだけ、交わりが有限個の点になります。 次元多様体の中で 次元と 次元、という組み合わせです。

以下では交叉数の定め方から始め、曲面での計算、 次元多様体の交叉形式、そしてこの形が 次元の分類をどこまで決めるかを見ていきます。
交叉数
を向きづけられた閉 次元多様体、 と をそれぞれ 次元と 次元の閉部分多様体とします。
つが横断的に交わるとしましょう。交点の各点で、 の接空間と の接空間を合わせると の接空間になります。
そこで つの向きを並べたものを、 の向きと比べます。そろっていれば 、逆なら [2]。
この和が交叉数です。 や を連続に動かしても値が変わりません。ホモロジー類だけで決まります。
例: トーラス上の 2 本の曲線
を正方形の辺を貼ったものと見ます。横の曲線 と縦の曲線 は 点で交わります。
をもう 本、少しずらして置くと、 本は交わりません。よって です。
についても同じで 。行列にまとめます。
次元では交叉数が反対称になります。 に対し です。向きを並べる順番を入れ替えると符号が変わるためです。
例: 種数 g の閉曲面
では、 次ホモロジーの基底を ととれます。
同じ番号どうしが 点で交わり、それ以外は交わりません。
行列は のブロックが 個並んだ形です。反対称で行列式が になります。
このような形をシンプレクティック形式といいます。曲面の交叉形式は、種数さえ決まれば標準形に直せます。
カップ積との関係
交叉数は、コホモロジーの言葉に翻訳できます[6]。
と のポアンカレ双対を 、 と書きます。次数はそれぞれ と です。
カップ積をとって基本類で評価すると、交叉数が出ます。幾何的な数え上げと、代数的な積が同じものになる。
滑らかな多様体では、微分形式の積を積分する形にも書けます[6]。 通りの定義があって、どれも同じ値を返します。
交叉形式
を向きづけられた閉 次元多様体とします。中央次元 のホモロジーに、交叉数が対称な双線形形式を定めます。
ねじれで割るのは、ねじれの元との交叉数がいつでも になるためです。残った自由部分の上で形が定まります。
次元が のときは反対称になります。曲面で見た形がその場合です。以下では 次元、つまり を扱います。
ユニモジュラーであること
ポアンカレ双対性から、この形は退化しません。もっと強く、行列式が になります[1,6]。
このような形をユニモジュラーといいます。双対性が と を結び、さらに が の双対になっているため、対応が過不足なくつながります。
整数の上で逆行列が作れる、という条件です。基底をとり替えると行列は変わりますが、行列式の は動きません。
自己交叉数
を自己交叉数といいます。同じものどうしなので、そのままでは横断的になりません。
そこで を少しずらした写しをとり、もとの との交叉数を数えます[2]。ずらし方によらずに値が決まります。
負の値も出ます。トーラスの上の曲線では でしたが、次に見る射影平面では になります。
例: 複素射影平面
の 次ホモロジーは で、生成元は直線 の類です。
相異なる 本の直線は、ちょうど 点で交わります。複素多様体では交叉の符号がいつでも正になるので、値は 。
の行列で、行列式は です。ユニモジュラーの条件をみたしています。
向きを裏返した では符号が変わり、 になります。
例: 球面 2 つの積
の 次ホモロジーは です。基底を 、 ととります。
をずらすと、別の高さの になり、もとと交わりません。よって 、同じく 。
と は 点で交わります。
双曲形式と呼ばれ、 と書きます。対角成分が なので、あとで見る「偶」の形です。
では なので、階数 の形になります。
符号数
形を実数の上で対角化し、正の成分の個数から負の成分の個数を引いたものを符号数といいます[3]。
なら 、 なら 、 なら です。
連結和をとると形が直和になるので、符号数は足し算になります。
境界を持つかどうかとも結びつきます。向きづけられた閉 次元多様体が 次元多様体の境界になることと、符号数が になることが同値です[3]。
次元ではポントリャーギン類を使った公式もあります。ヒルツェブルフの符号数定理で、 と書けます[3]。
型
すべての で が偶数になるとき、形は偶であるといいます。 つでも奇数があれば奇です。
の形は対角成分が なので偶。 の形は なので奇です。
型は多様体の性質と結びつきます。ウーの公式から、 が成り立ちます[6]。
、つまりスピン多様体なら形は偶になります。逆も単連結なら成り立ちます。
階数と符号数と型。この つが、不定値なユニモジュラー形式を完全に決めます[4]。
例: 偶な形の制限
偶なユニモジュラー形式には強い制限があります。符号数が で割り切れないと存在しません[4]。
正定値の場合はさらに厳しく、階数が の倍数のときしかありません。階数 でいちばん小さいものが 形式です。
階数 を超えると個数が急に増えます。階数 では 億を超える種類があると知られています[4]。
不定値なら話が簡単で、階数と符号数と型を決めれば つに定まります。 次元多様体の分類がここに乗ります。
例: K3 曲面
曲面の交叉形式は、階数 の偶な不定値形式です。
符号数は です。 で割り切れており、偶な形の条件をみたしています。
曲面は滑らかでスピンです。符号数 は でも割り切れており、次に見るロホリンの定理とも合っています。

フリードマンの定理
次元では、交叉形式が分類をほとんど決めます。
フリードマンは、どんなユニモジュラー対称形式も、単連結な閉位相 次元多様体の交叉形式として実現できることを示しました[5]。
さらに、単連結な閉位相 次元多様体は交叉形式で決まります。形が一致すれば同相になる。
代数の対象を つ書けば、多様体が つ手に入る。 次元の位相的な分類が、格子の分類に置き換わりました。
ロホリンの定理
滑らかな側には別の制限がかかります[1]。
滑らかな閉スピン 次元多様体の符号数は、 で割り切れます。偶な形なら で割り切れるところが、滑らかだと まで上がる。
曲面の はこの条件をみたしています。いっぽう符号数 の偶な形は、滑らかには実現できません。
ドナルドソンの定理
もう つの強い制限です。滑らかな閉 次元多様体の交叉形式が定値なら、整数の上で対角化できます[5]。
のような定値で対角化できない形は、滑らかな多様体には現れません。
位相的にはどんな形も実現できるのに、滑らかにすると対角なものしか残らない。 つの定理のあいだに大きな隙間があります。
例: E8 多様体
形式を交叉形式に持つ単連結な閉位相 次元多様体を、フリードマンの定理が保証します[5]。
この形は偶で、符号数は です。滑らかだと仮定するとスピンになり、ロホリンの定理から符号数は で割り切れるはずです。
は で割り切れません。矛盾するので、この多様体には微分構造が入りません。
定値な形なので、ドナルドソンの定理からも同じ結論が出ます。 は対角化できないためです。
微分構造を持たない位相多様体が、交叉形式の計算だけで見つかりました。 次元だけで起きる現象で、 次元以上でも 次元以下でも、こういう隙間はありません。










