3 色で塗れるかどうかで結び目は見分けられる|ライデマイスター移動と結び目群
結び目とは、円周を 次元空間へ埋め込んだものです[1]。ひもの両端をつないでしまうので、ほどいて端から抜くことはできません。
つの結び目が同じかどうかを、平面に描いた図だけで判定したい。その道具立てがライデマイスター移動と不変量です。
以下では同値の定め方から始め、 色塗り分けで実際に区別してみせ、結び目群とその計算法まで進みます。
結び目と同値
結び目は から への埋め込みです。 つの結び目が同値であるとは、空間ごと連続に動かして重ねられること[1]。
正確には周囲イソトピーを使います。空間全体の同相写像の連続な族があって、片方をもう片方へ移す、という条件です。
ひもを切らず、自分自身を通り抜けさせない。この つが条件に組み込まれています。
「空間ごと」という但し書きが要ります。結び目だけを動かしてよいと、どんな結び目も点まで縮められてしまうためです。
図式
次元の対象をそのまま扱うのは大変なので、平面へ射影します。交叉のところで、どちらが上を通るかを描き分けたものが図式です[3]。
同じ結び目でも図式は無数にあります。ひもを動かせば交叉の数も配置も変わる。
そこで問題が変わります。 つの図式が同じ結び目を表すかどうか、図の上の操作だけで判定できるか。
ライデマイスターの定理
1927 年にライデマイスターが答えを出しました[1,3]。
つの図式が同じ結び目を表すことと、次の 種類の局所的な動きの有限回のくり返しで移り合うことは同値です。
この定理のおかげで、不変量を作る手順が決まります。図式から値を計算し、 種類の動きで値が変わらないと確かめればよい。
つだけ確かめれば済む、というところが効きます。
3 色塗り分け
いちばん易しい不変量から見ます。図式の弧を 色で塗ります。弧とは、 つの下交叉から次の下交叉までの 本のことです[4]。
規則は つ。
この条件をみたす塗り方があるとき、 色塗り分け可能といいます。
種類の動きで塗り分けの可否が変わらない、と確かめられます[4]。よってこれは不変量です。

例: 三葉結び目はほどけない
ほどけた結び目の図式は、交叉のない円です。弧が 本しかないので、 色以上を使えません。
よってほどけた結び目は 色塗り分けできません[4]。
三葉結び目は塗り分けられます。 本の弧に 色を割り当てると、どの交叉でも 色がそろう。
つは不変量の値が違うので、同値ではありません。三葉結び目がほどけない、と示せました。
素朴な色塗りで、直観的にしか言えなかった事実が証明になります。
例: 8 の字結び目は塗れない
の字結び目には弧が 本あり、どの 本もどこかの交叉で出会います[4]。
色を割り当てようとすると、すべて同じ色にするか、 色目が要るかのどちらかになります。規則を破るので、塗り分けはできません。
三葉結び目とは値が違うので、 つは別の結び目です。
ほどけた結び目とは値が同じになってしまいます。 色塗り分けだけでは、 の字結び目がほどけないと言えません。もっと強い不変量が要ります。
結び目群
補空間の基本群を結び目群といいます[2]。
同値な結び目は同相な補空間を持つので、群も同型です。よって不変量になります。
色塗り分けよりずっと強く、多くの結び目を区別できます。そのかわり、 つの表示が同じ群を表すかどうかの判定が難しい。
ヴィルティンガー表示
図式から群を書き下す手順があります[2]。
生成元は弧です。各弧に、その下をくぐって 周する小さなループを対応させます。
関係式は交叉から出ます。 つの交叉で、上を通る弧を 、下を通る 本を と とすると、次の形になります。
交叉の向きによって と が入れ替わります。生成元の個数と関係式の個数は、どちらも交叉の数に等しい。
図式さえあれば機械的に書けます。関係式のうち つは他から従うので、実際には つ減らせます。
例: ほどけた結び目
交叉がないので、生成元が つ、関係式が 個です。
補空間は中身の詰まったトーラスの外側で、円周へ変形レトラクトします。得られた と合っています[2]。
例: 三葉結び目の群
交叉が つあるので、生成元 つと関係式 つから始めます。関係式を整理すると、 個の生成元で書き直せます。
この群は 本の組みひも群 と同型です[2]。 ではないので、ほどけた結び目とは別ものだと分かります。
の字結び目でも同じ手順で書けます。
色塗り分けでは区別できなかった つが、群では分かれます。
可換化するとどれも Z
結び目群を可換化すると、結び目によらず同じ群になります[2]。
ヴィルティンガー表示の関係式が、可換化ではすべて に化けるためです。生成元が全部同一視され、 つの無限巡回群が残ります。
次ホモロジーが結び目を区別できない、という事実がここから出ます。結び目のまわりを何周したか、それしか数えていません。
情報は非可換な部分に入っています。結び目理論が群論と結びつく理由です。
素な結び目と連結和
つの結び目を切ってつなぐ操作を連結和といいます。ほどけた結び目が単位元になります[1]。
自明でない結び目の連結和として書けないものを、素な結び目といいます。
どの結び目も素な結び目の連結和として、順序を除いて一意に書けます。整数の素因数分解と同じ形の主張です。
交叉数の小さいほうから表が作られています。三葉が 、 の字が 、それ以降は個数が急に増えていきます。
群だけでは足りない場面
結び目群は強い不変量ですが、完全ではありません[2]。
本結びと縦結びは、同じ結び目群を持ちながら同値ではありません。どちらも三葉結び目 つの連結和ですが、鏡像のとり方が違います。
補空間まで見れば区別が付きます。補空間が同相なら結び目も同じだ、というゴードン・ルークの定理があるためです[5]。
群は補空間の情報の一部でした。境界のトーラスがどう入っているか、という付随情報まで含めると完全な不変量になります。










