単項イデアル整域(PID)の定義と例、局所化についてのノート

単項イデアル整域(PID)は「すべてのイデアルが一つの元で生成される」という非常に扱いやすい性質をもつ環です。整数環 や体上の一変数多項式環 が典型例です。

単項イデアル整域の定義

整域 が単項イデアル整域(PID, Principal Ideal Domain)であるとは、 のすべてのイデアルが単項イデアル、すなわちある元 を用いて と書けることをいいます。

なぜ「単項」が重要か

一般の環ではイデアルを指定するのに複数の生成元が必要です。たとえば のイデアル の両方がないと生成できません。

PID では話が単純になります。任意のイデアルが という形なので、イデアルの構造が元 の性質(単元か、既約か、など)に帰着します。

PID の例

整数環

のイデアルはすべて の形。これはユークリッドの互除法から従う。

体上の多項式環

が体なら は PID。イデアル に対し、 内の最小次数の多項式で 全体が生成される。

は PID。イデアルは のみ。

離散付値環

離散付値環(DVR)は PID。イデアルは の形のみ( は一様化元)。

PID でない例

多変数多項式環

は PID でない。 は単項イデアルでない。

整数環の拡大

は PID でない。 は単項でない。

PID の基本性質

PID は多くの良い性質をもちます。

PID は UFD(一意分解整域)である
PID は Noether 環である(イデアルの昇鎖条件を満たす)
PID は Dedekind 整域である
PID の Krull 次元は高々

なぜ PID は UFD か

PID では既約元と素元が一致します。

を PID の既約元とします。 は極大イデアル(そうでなければ となり が非単元となる)なので素イデアルです。よって は素元です。

素元による分解が存在し、素元は分解の一意性を保証するので、PID は UFD です。

最大公約元とユークリッド整域

PID では任意の二元 に対し最大公約元 が存在し、 が成り立ちます。

さらに強い性質として、ユークリッド整域(除法アルゴリズムが使える整域)は PID です。

はユークリッド整域であり、したがって PID でもあります。一方、ユークリッド整域でない PID も存在します(例:)。

PID 上の加群

PID 上の有限生成加群には構造定理があります。

を PID、 を有限生成 -加群とすると、

と分解できます。ただし (単因子の整除条件)です。

の場合、これは有限生成アーベル群の基本定理です。 の場合、線型代数におけるジョルダン標準形の理論に対応します。

PID と局所化

が PID で が乗法的集合なら も PID です。特に、PID の素イデアル での局所化

なら は分数体
なら は離散付値環(DVR)

となります。

単項イデアル整域(PID)に関する記述として、誤っているものはどれですか?

  • すべての体は PID である
  • すべての PID は UFD(一意分解整域)である
  • は PID の典型的な例である
  • PID の素イデアルによる局所化は DVR または体になる
__RESULT__

多変数多項式環 は、 のような単項でないイデアルを持つため PID ではありません。