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一意分解はどこで成り立つのか?UFD の特徴づけと判定

は既約です。 とすると、ノルムをとって となる元がないので、片方が単元になります。

ところが は素元ではありません。 を割りますが、どちらの因子も割らない。

既約なのに素でない。この食い違いが起きない整域が UFD です。

定義

整域 が一意分解整域であるとは、次の 2 つを満たすことです。

でも単元でもない元が、既約元の有限積として書ける。
その分解が順序と単元倍を除いて一意である。

前半を原子的といいます[2]。主イデアルの昇鎖条件を満たす環はつねに原子的なので、ネーター整域なら前半は自動的に成り立ちます[2]

だから実際に問われるのは後半の一意性です。そして一意性は、既約元が素元になることと同じ意味になります。

既約元と素元

が既約とは、 から が単元になること。これ以上分けられないという条件です。

が素元とは、 から が出ること。素イデアル を生むという条件になります。

整域では素元がつねに既約です。逆は一般に成り立ちません[2]

既約元

これ以上分けられない。分解の終着点という条件

素元

積を割るなら因子のどれかを割る。分解の一意性を支える条件

一意性が崩れるのは、既約なのに素でない元があるときです。冒頭の がその形になっている。

canvas: 式は呼び出しにそのまま書いてください。この引数は焼けません -> drawMath(… twoWayLeaf[index][1] …)

UFD では両者が一致する

が UFD なら、既約元は素元です。 とし、 と書いて両辺を分解すると、一意性から の分解に現れます。

逆も成り立ちます。原子的で、しかもすべての既約元が素元なら、分解は一意になる。

したがって次が同値です。

ネーター整域では原子性が自動なので、既約元が素元かどうかだけを見れば足ります。

Kaplansky の判定

素イデアルの側から見た判定があります[2]

整域 が UFD であることと、 でないどの素イデアルも素元を含むことが同値です[2]

条件が素イデアル 1 つずつの話に落ちるので、確かめやすい形になっています。

分解の存在も一意性も持ち出さず、素元がどこにでも現れるかどうかだけを問う。判定条件としてはこれがいちばん軽い。

高さ 1 の素イデアルが単項

ネーター整域なら、もっと幾何的な形になります[1]

高さ の素イデアルは、余次元 の既約な部分集合に対応します。超曲面が 1 本の式で書けるかどうか、という条件です[3]

を見ます。 という 2 通りの分解があるので UFD ではありません。

幾何では、この錐の上に 1 本の式で書けない超曲面があることを意味します。 で定まる平面がその例です。

UFD は整閉

が UFD なら整閉です[4]。証明は既約分数の議論で終わります。

を既約分数とし、 上整とします。整従属関係に を掛けると、第 2 項から先がすべて で割れる。

だから が互いに素なので は単元で、 になります。

逆は成り立ちません。 は整閉ですが UFD ではない[3]。整閉性のほうが弱い条件です。

UFD は最大公約元を持つ整域でもあります。分解から公約元を組み立てられるためです。

Gauss の定理

が UFD なら も UFD です[3]

帰納的に も UFD になります。体上の多項式環がすべてこの形。

も UFD です。ただし単項イデアル整域ではありません。 が単項でない。

一意分解と単項性は別の条件です。次元が 以上の環では、単項でないイデアルが必ず現れます。

は UFD だが PID ではない。一意分解のほうが弱い条件です。

高さ の素イデアルだけが単項であればよく、それ以外は単項でなくても分解は一意に決まります。

局所化しても UFD

が UFD で が乗法的集合なら、 も UFD です[3]

分解が保たれ、既約元は単元になるか既約のまま残ります。素元の性質も局所化で消えません。

高さ の素イデアルで局所化すると、離散付値環が出ます。単項なので極大イデアルが 1 元で生成される。

Nagata の判定

逆向きに使える定理もあります。 をネーター整域とします[2]

素元だけで生成される乗法的集合 があり、 が UFD なら、 も UFD です[2]

素元で割った先で一意分解が成り立てば、もとの環に戻せる。割った素元のぶんは、素元だったので問題になりません。

が UFD であることの証明などに使われます。

正則局所環は UFD

正則局所環はすべて UFD です。Auslander と Buchsbaum の定理として知られています[3]

幾何では、滑らかな点の近くで余次元 の部分集合が 1 本の式で書ける、という主張になります。

逆は成り立ちません。UFD でも特異点を持つ環があります。一意分解は滑らかさより弱い条件です。

次のうち UFD でないものはどれですか。

__RESULT__

では という 2 通りの分解があります。 は Gauss の定理から UFD です。前者は PID ではありませんが、UFD ではあります。

まちがえやすい点

既約元と素元を同じものとして扱う。一致するのは UFD の中だけです。
UFD なら PID だと思う。 が反例になります。
整閉なら UFD だと考える。 が整閉かつ UFD でない例です。
ネーター整域なら分解の一意性まで自動だと思う。自動なのは存在のほうです。
高さ 以外の素イデアルにも単項性を求める。条件は高さ だけに掛かります。

分けられないことと、割り切ることが同じ意味になるか。一意分解が成り立つかどうかは、その一点で決まります。

参考文献

Lemma 10.120.6. The Stacks Project.
Hamza Lamhar. *Kaplansky's theorem and factorization in integral domains*. Université du Luxembourg.
Wolfgang Soergel. *Kommutative Algebra und Geometrie*, 4.2.24 と §8.7. Universität Freiburg.
Damian Rössler. *Commutative Algebra*, §12. University of Oxford.
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の $2$ は既約なのに素元ではありません。この食い違いが起きない整域が UFD です。ネーター整域では分解の存在が自動なので、問われるのは一意性のほう。Kaplansky の判定なら「$0$ でない素イデアルが素元を含む」だけで済み、ネーターなら「高さ $1$ の素イデアルが単項」と同値になります。UFD が整閉であること、Gauss の定理、$\mathbb{Z}[x]$ が UFD でも PID でないことまで。