可換環上の加群の完備化と平坦性の関係

可換環のイデアルに関する完備化は、局所化と並ぶ重要な「環を変える」操作です。完備化と平坦性の間には深い関係があり、特にネーター環の場合に美しい結果が得られます。

完備化の復習

可換環 とイデアル に対して、-進完備化は逆極限

として定義されます。これは -進位相に関するコーシー列の同値類の環と同一視できます。自然な準同型 で与えられます。

最も基本的な例は は素数)の場合です。このとき -進整数環)が得られます。また の場合は (形式的べき級数環)です。

加群の完備化も同様に定義されます。-加群 -進完備化は

です。-加群の構造が自然に入り、 上の加群として扱えます。

完備化は平坦か

完備化 が平坦であるかという問いは、ネーター性に強く依存します。

がネーター環で がそのイデアルであるとき、 上平坦です。これは可換環論における基本的な結果の一つであり、完備化が局所化と同様に「よい」環変換であることを保証しています。

ネーター環の場合

がネーター環ならば 上平坦。さらに は忠実平坦とは限らないが、(Jacobson 根基に含まれる)のときは忠実平坦になる。

非ネーター環の場合

がネーターでなければ は一般に 上平坦にならない。完備化の振る舞いが悪くなり、多くの基本的な性質が崩れる。

平坦性の証明の方針

上の平坦性は、Artin-Rees の補題を経由して証明されます。鍵となるのは次の同型です。

がネーター環、 が有限生成 -加群のとき、自然な写像

は同型です。ここで です。

この同型を使うと、 の平坦性は以下のように示せます。-加群の単射であるとき(, は有限生成)、

の単射性を示せばよいですが、上の同型から なので、 の単射性に帰着されます。

の単射性、すなわち の単射性は、Artin-Rees の補題から (十分大きな )が成り立ち、 上の -進フィルトレーションと から誘導されるフィルトレーションが同じ位相を定めることから従います。

Artin-Rees の補題との関係

ここで Artin-Rees の補題の役割を明確にします。

をネーター環、 をイデアル、 を有限生成 -加群、 を部分加群とするとき、ある正整数 が存在して、すべての に対して

が成り立ちます。

この補題がなぜ完備化の議論で必要になるかというと、 上の 2 つのフィルトレーション が一般には異なるためです。Artin-Rees の補題は、この 2 つが同じ-進位相を定めることを保証し、完備化の単射性を確保します。

は一般には異なるが、定める位相は同じ。

具体例として の場合を考えます。 であり、これは次数 以上の多項式で で割り切れるものの全体です。一方 は次数 以上の多項式で を因子に持つものです。したがって ですが、 が成り立ち( で Artin-Rees が適用できる)、位相としては一致します。

テンソル積と完備化の交換

ネーター環での という同型は非常に強力な道具です。これにより、完備化の計算がテンソル積の計算に帰着されます。

の場合、有限生成アーベル群 に対して

が成り立ちます。

()

と互いに素な有限群は -進完備化で消えます。これは で単元)であることからわかります。

一般の有限生成アーベル群 に対して、テンソル積の直和との交換と上の計算から の「-成分」だけを取り出す操作になっています。

忠実平坦性の条件

上平坦であっても、忠実平坦であるとは限りません。平坦な環準同型 が忠実平坦であるための条件は、任意の -加群 に対して であることです。

がネーター局所環で極大イデアル に関する完備化 を考えるとき、 上忠実平坦です。これは であること、すなわち から従います。

忠実平坦な場合

のとき 上忠実平坦。特にネーター局所環の極大イデアルによる完備化は忠実平坦。

忠実平坦でない場合

のとき忠実平坦とは限らない。例えば のとき 上平坦だが忠実平坦でない()。

忠実平坦性が成り立つ場合、完備化は多くの性質を保存します。 上忠実平坦であれば、-加群の列 が完全であることと が完全であることは同値です。

完備化とネーター性

ネーター環の完備化は再びネーター環です。より正確には、 がネーター環で がイデアルならば もネーター環であり、 が成り立ちます。 のときは Krull の交叉定理により なので です。

さらに、 がネーター局所環 のとき、完備化 もネーター局所環であり、極大イデアルは です。 は同じ剰余体 を持ち、次元も一致します。

は体)の -進完備化 について正しいのはどれか。

  • (有理関数体)
  • (形式的べき級数環)
  • (ローラン多項式環)
__RESULT__

であり、 による剰余は次数 未満の多項式を与えるので、逆極限は形式的べき級数環 に同型です。