可換環における中国剰余定理

中国剰余定理は整数論でよく知られた定理ですが、可換環の言葉で定式化すると、イデアルの互いに素という条件のもとで剰余環が直積に分解されるという強力な構造定理になります。

整数における中国剰余定理

環論の一般的な定式化に入る前に、整数での古典的な状況を確認します。 が互いに素な正整数()のとき、連立合同式

を法として一意な解を持ちます。これを環の準同型として表現すると、写像

が環の同型になるという主張に他なりません。

可換環での定式化

を可換環、 のイデアルとします。 が互いに素(coprime)であるとは、

が成り立つことです。つまり、ある が存在して と書けるということです。

整数環 では なので、 と同値です。したがって「イデアルが互いに素」という条件は、整数の互いに素の概念を一般化したものになっています。

整数の互いに素と、イデアルの互いに素が完全に対応する。

このとき、可換環における中国剰余定理は次のように述べられます。

ならば、自然な環準同型

は同型である。さらに が成り立つ。

証明の骨格

証明は 3 つのステップからなります。

まず が全射であることを示します。 より なる が存在します。任意の に対して、 とおくと、

なので 、すなわち です。同様に なので です。よって となり全射性が示されます。

次に は定義から明らかなので、 の核が であることを確認します。 ならば かつ なので です。逆も成り立つので は自明です。

最後に を示します。一般に は常に成り立ちます。逆の包含を示すために、 をとります。 より です。 なので なので です。よって となり が得られます。

複数のイデアルへの拡張

中国剰余定理は 2 つのイデアルに限らず、有限個のイデアルに対しても成り立ちます。 が任意の異なる 2 つについて互いに素、すなわちすべての に対して であるとき、

が成り立ち、さらに です。

証明は の場合からの帰納法で行います。鍵となるのは、)がすべて成り立つならば も成り立つという事実です。各 に対して , )ととると、 であり、 を展開すれば が得られます。

具体例

とすると なので互いに素です。中国剰余定理により、

が得られます。同型写像は です。

多項式環でも同様に適用できます。 は体)で とすると、 は互いに素な多項式なので です。

これは )という評価写像の同型を使っています。

互いに素なイデアル

のとき が成り立ち、剰余環が直積に分解される。

互いに素でないイデアル

のとき同型は成り立たない。例えば なので である。

冪に対する互いに素

のとき、任意の正整数 に対して も成り立ちます。

, )とすると、二項定理により

の項は に属し、 の項は なので に属します。よって右辺は の元であり、 が得られます。

この結果と中国剰余定理を合わせると、

が成り立ちます。整数の場合に翻訳すれば、 のとき という分解に対応しています。

Spec との関係

中国剰余定理は環のスペクトルの幾何学的な言葉でも解釈できます。 のとき なので、 は 2 つの閉集合 に分離されます。

環論的な意味

は、環が 2 つの「独立な部分」に分解されることを表す。

幾何学的な意味

が連結でない(2 つの連結成分に分かれる)ことを表す。互いに素なイデアルは、対応する閉部分スキームが交わらないことに対応している。

直積環 のスペクトルは (非交和)なので、中国剰余定理による同型は、まさに空間の分離と環の分解が対応するという代数幾何の基本原理を体現しています。