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有限生成加群はどこまでベクトル空間に似ているか

加群 が有限生成であるとは、有限個の元 を使って、どの元も次の形に書けることをいいます[1,3,4]。

同じことを写像で言えば、全射 があるということ[1]。自由加群からの覆いが有限階数で足りる、という条件です。

ベクトル空間の有限次元性にあたる条件ですが、基底の一意性までは付いてきません。

生成元が全体を覆う

生成元を決めると、そこから作れる元の集まりが決まる。 が 全体に届けば有限生成。

覆えるかどうかだけが条件で、何個で覆えるかは決まりません。同じ加群に生成元 個の書き方と 個の書き方が同居する。

商は受けつぐ、部分加群は受けつがない

有限生成加群の準同型像は、いつでも有限生成です[1]。生成元の像がそのまま像を生成する。

商加群 も同じ理由で有限生成になる。ここまでは素直です。

部分加群では崩れます[1,4]。有限生成加群の中に、有限生成でない部分加群が入っていることがある。

を自分自身の上の加群と見ると、 個で生成される。ところが定数項が の多項式全体は部分加群で、有限生成になりません[1]。

有限個の元を選んでも、そこに現れる変数は有限個。残りの変数は作れません。

Q は有限生成でない

を 加群と見ると、有限生成ではありません[1]。

有限個の分数 をとると、それらの整数係数の和は分母が を割る分数だけです。それより細かい分数が作れません。

分母をいくらでも大きくとれる、という性質が有限性と衝突する。

例: イデアルの場合

イデアルは、 を自分自身の上の加群と見たときの部分加群です。 自身は 個で生成されるので有限生成。

それでもイデアルが有限生成とは限りません。すべてのイデアルが有限生成になる環が、ちょうどネーター環です[3]。

有限生成加群の部分加群という問いが、環のネーター性そのものに一致する。

体の上では次元と同じ

が体なら、有限生成加群は有限次元ベクトル空間です[1]。生成元から 次独立なものを選び直せば基底になる。

一般の環では選び直しがききません。 加群 は 個で生成されるのに、 次独立な元を持ちません。

倍すると になる元があるので、自由加群にはならない。捩れの有無が、体との差を作ります。

ネーター環なら部分加群も有限生成

がネーター環なら、有限生成 加群の部分加群はすべて有限生成です[1]。

部分加群がすべて有限生成な加群をネーター加群と呼ぶ[4]。ネーター環の上では、有限生成とネーターが一致します[1]。

さきほどの反例で環が だったのは偶然ではありません。この環はネーターでない。

有限表示と連接

生成元だけでなく関係式まで有限で書けるとき、有限表示と呼ぶ[1,4]。全射 の核が有限生成になる、という条件です。

有限生成より強い条件になる[4]。関係式が無限に要る加群も作れます。

自分自身が有限生成で、有限生成な部分加群がすべて有限表示になる加群を連接加群と呼ぶ[1]。

ネーター環の上では、有限生成・有限表示・連接の つが一致する[1,4]。区別が要るのは、ネーターでない環を扱うときだけです。

短完全列での振る舞い

短完全列 をとる。

と が有限生成なら も有限生成です。 の生成元と、 の生成元の持ち上げを合わせれば足りる。

逆向きは片方だけ通る。 が有限生成なら も有限生成ですが、 はそうとは限らない。

部分加群が有限生成にならない反例が、そのままこの非対称を作っています。

テンソル積と局所化

有限生成加群どうしのテンソル積は有限生成です。 と が生成元なら、 が生成元になる。

係数を拡大しても保たれる。 があるとき、 が有限生成 加群なら は有限生成 加群です。

局所化でも同じ。 は の生成元の像で生成されるので、有限生成 加群になる。

逆向きの判定もあります[1]。 が の上で忠実平坦なら、 が有限生成であることと が有限生成であることは同値です。

行列式のトリック

有限生成であることが効く場面の代表が、行列式のトリックです[1,2]。加群版のケイリー・ハミルトンの定理と呼ばれる。

が 線型で を満たすとき、次の形の関係式が成り立ちます[2]。

生成元を並べたベクトルに を作用させ、余因子行列を掛けるという手順で出る。生成元が有限個であることが、行列を書くために要ります。

中山の補題

行列式のトリックから、中山の補題が出ます[2]。

を有限生成 加群、 をジャコブソン根基とすると、 から が従う[2]。

局所環 なら、 から が出ます[2]。

証明の骨は行列式のトリックです[2]。 を恒等写像に当てると、 と合同な が を消すという結論が出ます。

有限生成の条件は外せません[2]。無限生成なら を満たす でない加群が作れる。

最小生成系の本数

中山の補題の系として、生成元の本数が測れるようになります[2]。

は剰余体 上のベクトル空間です。その基底を持ち上げると、 の最小生成系になる[2]。

局所環の上では、最小生成系の本数が で決まる。数え方が体上の線型代数まで落ちる。

一般の環ではここまで言えません。局所環に絞ることで、本数が不変量になる。

全射な自己準同型は単射になる

有限生成加群の性質で、直感からずれるものを一つ挙げる[1]。

を有限生成 加群、 を全射な 準同型とすると、 は単射になります[1]。

無限次元のベクトル空間では成り立ちません。数列をずらす写像が全射で単射でない例になる。

証明は行列式のトリックです[1]。 を 加群と見て を で作用させ、 から中山型の議論を回します。

よくある誤り

有限生成なら基底がとれる、とはなりません。基底があるのは自由加群です。
生成元の本数は一意ではありません。一意になるのは局所環上での最小本数です。
部分加群がいつでも有限生成、と考えると外します。ネーター環に限った性質です。
有限生成と有限表示は同じではありません。一致するのはネーター環の上です。
を 加群として有限生成だと思うと外します。分母がいくらでも大きくなります。
中山の補題を無限生成の加群に当てられません。有限生成が本質的に効いています。
全射な自己準同型が単射になるのは有限生成の場合です。ベクトル空間の直感をそのまま持ち込めません。

参考文献

Finitely generated module(英語版 Wikipedia)
Nakayama's lemma(英語版 Wikipedia)
Endlich erzeugter Modul(ドイツ語版 Wikipedia)
Module de type fini(フランス語版 Wikipedia)
有限個の元で全体を書ける加群が有限生成加群です。自由加群からの全射があると言いかえられ、商には受けつがれるのに部分加群には受けつがれません。有理数が整数上で有限生成にならない理由、ネーター環でその非対称が消えること、有限表示との違いを追い、行列式のトリックから中山の補題へ進みます。最小生成系の本数が剰余体上の次元で決まること、全射な自己準同型が単射になることまで。