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English

冪零元は図形に映らない……被約環と既約成分の対応

は違う環です。ところがスペクトルはどちらも 1 点で、位相空間としては区別が付きません。

差は という冪零元にあります。 なのに 。図形の側に映らない元です。

被約であるとは

冪零元が しかない環を被約といいます。 から が従うこと。

冪零元の全体はイデアルになります。これをニルラジカルと呼び、 と書きます。

被約であることと は同値です。 はつねに被約で、これを の被約化といいます。

ニルラジカルは、 のすべての素イデアルの共通部分と一致します。素イデアルの側から見ても定義できる量です。

スペクトルは変わらない

は素イデアルの対応を保ちます。素イデアルはニルラジカルを含むためです。

したがって は位相空間として同じもの。冪零元は図形の側に何も足しません。

の素イデアルは だけ。 の素イデアルは だけ。どちらも 1 点です。

とはいえ環としては違います。関数のなす環に厚みが乗っている、と考えると近い。接ベクトルの情報がそこに入ります。

既約な位相空間

が既約であるとは、空でなく、2 つの真の閉部分集合の和として書けないこと[2]

離散位相の空間なら、既約な部分集合は 1 点だけです。無限体の上のアフィン空間は、Zariski 位相で既約になります[2]

の既約な閉部分集合は の形をしています。素イデアルと 1 対 1 に対応する。

極大な既約閉部分集合を既約成分といいます[2]。極小素イデアルに対応するものです。

ネーター空間なら成分は有限個

閉集合の減少列がいつか止まる空間を、ネーター空間といいます[1]

多項式環がネーターなので、Hilbert の基底定理からアフィン空間はネーター空間になります[1,2]

ネーター空間は有限個の既約成分の和に分かれます[2]。どの成分も残りの和に含まれず、全部あわせて空間を覆う。

したがってネーター環のスペクトルは、有限個の既約成分に分かれます。極小素イデアルも有限個。

一般の環

極小素イデアルが無限個ありうる。既約成分も無限個

ネーター環

極小素イデアルは有限個。分解が有限で終わる

例:軸の十字

をとります。 ですが、 も冪零ではありません。だから は被約です。

図形は の 2 本の直線の和。既約成分はこの 2 本になります[2]

極小素イデアルは の像です。2 つあるので、この環は整域ではありません。

被約だが既約でない、という状態がここにあります。 が零因子の存在を示している。

既約と連結は別のこと

も被約で、既約成分が 2 つあります。ところが前の例とは様子が違う。

こちらは 本の直線が離れています。 を満たす冪等元で、空間を 2 つに割っている。

の開かつ閉な部分集合は、冪等元とちょうど対応します[4]。自明でない冪等元があれば、空間は連結でない。

では冪等元が しかありません。2 本の直線が原点で交わっているので、切り離せない。

既約成分が 2 つあることと、空間が 2 つに分かれることは 別の条件 です。

交わっていれば連結のまま。分かれるかどうかは冪等元の有無で決まります。

被約かつ既約なら整域

が整域であることと、 が被約かつ が既約であることは同値です。

整域なら が素イデアルなので、ニルラジカルは 、極小素イデアルも だけ。被約で既約になります。

逆に被約かつ既約とします。既約なのでニルラジカルが素イデアル、被約なのでそれが 。つまり が素で、整域です[3]

ネーター環なら、極小素イデアルが 1 つであることが既約性と同じ意味になります[3]

被約環では零因子が成分の上に乗る

を被約なネーター環とします。極小素イデアルは有限個で、その共通部分は です[3]

さらに、零因子の全体はそれら極小素イデアルの和集合になります[3]

図形で読むと、零因子とはどれかの既約成分の上で消えている関数のこと。全体では消えていなくても、成分ひとつで消えていれば相棒が見つかります。

なら、 軸の上で消える関数です。相棒の を掛けると になる。

被約化で失われるもの

被約化はスペクトルを変えません。それでも情報は落ちます。

の被約化は です。もとの環にあった は、原点での 1 次の情報を持っていました。

代数幾何では、この厚みを使って接空間や変形を扱います。図形に映らないから不要、とはなりません。

被約化しても素イデアルの集合と位相は変わらない。
変わるのは環の構造で、冪零な方向の情報が落ちる。
極小素イデアルの個数は既約成分の個数と一致する。
既約成分の個数と連結成分の個数は別のもの。
被約なネーター環では、零因子が極小素イデアルの和集合になる。

について正しいのはどれですか。

  • 被約である
  • 被約ではないが、 は既約である
  • の既約成分は 2 つある
__RESULT__

かつ なので被約ではありません。素イデアルは を含むものだけで、極小素イデアルは の 1 つ。したがってスペクトルは 軸そのもので、既約になります。

つまずきやすいところ

被約であることと整域であることを同じだと思う。軸の十字が反例です。
既約成分が複数あれば連結でないと考える。交わっていれば連結のままです。
冪零元がスペクトルに影響すると思う。位相空間としては何も変わりません。
極小素イデアルが有限個だと決めてかかる。ネーター性がないと無限個ありえます。
被約化で情報が失われないと考える。接空間や変形の情報が落ちます。

図形に映るのは素イデアルまで。映らない厚みが環の側に残っている。この差が代数幾何の出発点になります。

参考

Nicolas Perrin. *Algèbre commutative*, §6.3. Université de Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines.
Wolfgang Soergel. *Kommutative Algebra und Geometrie*, §4.1. Universität Freiburg.
Michel Waldschmidt. *Algèbre commutative*, Lemme 1.3.1 と Proposition 1.3.2. Institut de Mathématiques de Jussieu.
Lemma 10.21.3. The Stacks Project.
$k[x]/(x^2)$ と $k$ はスペクトルが同じ 1 点です。冪零元は素イデアルの側に何も足しません。被約化しても位相空間は変わらず、落ちるのは環の厚みのほう。既約成分は極小素イデアルに対応し、ネーター環なら有限個で止まります。既約成分が 2 つあることと空間が 2 つに分かれることは別で、分かれるかどうかは冪等元の有無で決まる。被約かつ既約なら整域、という同値まで見ます。