ヘンゼル環とヘンゼルの補題

ヘンゼル環とヘンゼルの補題は、局所環における多項式の因数分解を扱う理論である。完備局所環がヘンゼル環の典型例であり、代数方程式の解の持ち上げに関する強力な結果を与える。

ヘンゼルの補題

を局所環とし、 とする。 の剰余体への像とする。

ヘンゼルの補題(Hensel’s lemma)の一つの形は次のようになる: で互いに素な因子に分解できるとき、 となる が存在し、 となる。

単純根の持ち上げ

かつ (単純根)ならば、 となる となるものが存在。

因数分解の持ち上げ

剰余体上の互いに素な因数分解は、環上の因数分解に持ち上がる。

ヘンゼル環の定義

局所環 ヘンゼル環(Henselian ring)であるとは、ヘンゼルの補題が成り立つことをいう。同値な条件として、以下がある。

定義(ヘンゼルの補題)

モニック多項式の剰余体上での互いに素な分解が持ち上がる。

同値条件

任意のモニック に対し、 に単純根をもてば に根をもつ。

完備局所環はヘンゼル環

-進完備局所環はヘンゼル環である。これがヘンゼル環の最も重要な例だ。

証明のアイデアは Newton 法の収束に似ている。 かつ のとき、

という列を構成すると、-進位相でコーシー列となる。完備性により極限 が存在し、 となる。

ヘンゼル化

任意の局所環 に対し、ヘンゼル化(Henselization) が存在する。 はヘンゼル環であり、 という局所準同型で普遍的なものとなる。

の狭義エタール拡大の帰納極限として構成できる。 が完備なら である。

具体例

における局所化)はヘンゼル環ではない。たとえば が平方剰余のとき)に単純根をもつが、 に根をもたない。

一方、-進整数環)は完備なのでヘンゼル環である。上の で( かつ が平方剰余のとき)根をもつ。

応用

ヘンゼル環は代数幾何学において、スキームの局所的性質を調べる際に現れる。形式的近傍を扱う完備局所環、エタール局所性を扱うヘンゼル化が重要な役割を果たす。