生成元は剰余体の次元で数えられる(中山の補題と行列式のトリック)
有限生成の -加群 が を満たすとします。局所環なら、これだけで が出ます[3]。
極大イデアルを掛けても縮まないなら、はじめから何もなかった。証明は行列式ひとつで終わります。
主張
を局所環、 を有限生成 -加群とします。
一般の環では条件が 1 つ増えます。イデアル が Jacobson 根基、つまりすべての極大イデアルの共通部分に含まれていれば、 から が従う[1]。
局所環では極大イデアルが 1 つしかないので、Jacobson 根基がそのまま になります。条件は自動的に満たされている。
もっと弱い形もあります。有限生成でありさえすれば、 の中に を消す元が見つかります[1,2]。
効いているのは の元が単元になるという一点です。ここが崩れると結論も崩れます。
行列式のトリック
証明は Cayley-Hamilton の定理をまねる形で進みます[2]。
の生成元を とします。 なので、各 が の元を係数にして書けます。
移項すると です。行列 が生成元のベクトルを消している形。
余因子行列を左から掛けます。すると が各 を単独で消します[3]。
の成分はすべて に入っているので、行列式を展開した値は ()の形になります。局所環ではこれが単元です。
単元が を消すなら 。生成元が全部 なので になります[3]。
行列のサイズは生成元の個数です。有限生成でなければ行列が組めません。仮定が使われる場所はここになります。
有限生成を外すと成り立たない
、 とし、 をとります。
のどの元も で割れるので 。それでも です。
は 上で有限生成になりません。分母の の冪に上限がないためです。

の上でも同じことが起きます。 ですが、 は局所環ではありません。
の Jacobson 根基は です。素数が無限にあるので、極大イデアルの共通部分が消えます。 は根基に入らないので、仮定を満たしません。
生成元は剰余体で数える
いちばんよく使う形がここから出ます。 とおき、 を で割ります。
は 上のベクトル空間です。加群の話が線型代数に落ちる。
の像が を張るとします。 とおくと となり、補題から が出ます[2]。
つまり剰余体の上で張れば、もとの加群でも張れます。逆は明らかなので、両者は同値。
の次元。基底の個数を数えるだけの線型代数
の最小生成元の個数。ふつうは直接には見えない
2 つが一致します。有限生成加群の生成元の個数は、剰余体上の次元で決まる[4]。

と書いたのは最小生成元の個数です。次元が なら、どうやっても 個より少なくは生成できません。
例:最小生成元の個数
、 とします。 を加群と見ます。
は と の像で張られる 次元の空間です。だから は 個で生成でき、 個では足りません。
なら は 次元。生成元は 個から減らせない。
数える作業が、毎回ベクトル空間の次元を数える作業に変わります。
全射かどうかも剰余で決まる
を有限生成加群のあいだの準同型とします。 が有限生成なら、次が同値です[1]。
像を と書くと になり、補題から が出ます。剰余体の上で調べれば足ります。
単射のほうは同じようにはいきません。剰余に落とすと情報が消えるので、そこから戻せない。
例:局所環上の有限生成射影加群
を局所環、 を有限生成射影加群とします。 とおく。
個の生成元をとると全射 ができます。 が射影的なので分裂し、 と書けます。
剰余体へ落とすと なので、。 は有限生成なので補題から になります。
したがって です。局所環の上では、有限生成の射影加群が自由加群に限られます[4]。
例:正則局所環の判定
をネーター局所環、 とします。 の最小生成元の個数は です[4]。
この値は必ず 以上になります。ちょうど に等しいとき、 を正則局所環と呼びます。
幾何では接空間の次元に対応します。 が余接空間で、その次元が点の次元より大きければ特異点。
を原点で局所化すると、 に対して になります。尖点があるためです。
冪零イデアルなら根基の条件が要らない
が冪零、つまり となる があるとします。このとき なら です[1]。
と代入を繰り返すだけ。有限生成の仮定さえ要りません。
この形は持ち上げの議論でよく使います。 の向きに写像を延ばすとき、剰余で全射なら本体でも全射だと言える。
冪零の場合は代入を繰り返すだけで終わるので、行列式のトリックを使わずに済む。
有限生成の仮定が消えるのはこのためです。仮定が要るのは行列を組む議論のほうになります。
例:整数環の局所化で確かめる
とし、 をとります。 なので 。仮定を満たさないので何も言えません。
ならどうか。 で、これは と一致しません。やはり と矛盾しない。
にすると になりますが、有限生成ではない。 つの条件のどれを外しても、結論は落ちます。
を導くには、局所性と有限生成の両方が要ります。片方だけでは足りません。
、、 とします。 は成り立ちますか。
- 成り立つ。よって
- 成り立たない。 である
- 成り立つが、 が有限生成でないので結論は出ない
つまずきやすいところ
掛けても縮まないものは、はじめから空だった。局所環という条件が、その言い分を通します。











5⋅Z/5Z=0 なので IM=M は成り立ちません。M は有限生成ですが、I=5Z は Z の Jacobson 根基 0 に含まれないので、そもそも補題の設定から外れています。