可換環の直積と直和分解〜成分ごとのイデアルと Spec の非連結性
の元は、 の組として書けます。 なら 、 なら 。
足し算もかけ算も、組のまま成分ごとに計算できる。 は、 に対応します。
直積は、この「成分ごとに計算する」を定義にした環。
直積の定義
可換環 の直積 は、集合としては直積集合で、演算を成分ごとに定めたものになります。
単位元は 、零元は 。環の公理はどれも成分ごとに確かめられるので、直積はふたたび可換環になります[1]。

単元も零因子も成分ごとに決まる
が単元になるのは、どの も単元のときに限ります。逆元も成分ごとにとれるため。
の単元は と の 2 個。 で数えると で 2 個になり、確かに合う。
零因子のほうは、ある成分が になっている元がすべて該当します。その成分だけ を立てた元とかければ になる。
直積は整域にならない
成分が 2 つ以上あると、次の 2 つはどちらも ではないのに積が です。
零因子が必ずいるので、直積は整域になれない。整域がほしい場面で直積が使えないのは、この一点によります。
イデアルは成分ごとに決まる
が のイデアルなら、 のイデアル と のイデアル をとって と書けます。
は射影 による像とする。 は定義からすぐ分かる。
逆向きは と をかけて確かめます。 に をかけると 、 をかけると 。
つまり と がどちらも に入ります。足せば になる。
例: のイデアルは 4 つ
を体とします。 のイデアルは と の 2 つだけなので、 のイデアルは組み合わせて 4 つ。
| 零イデアル | |
| 第 1 成分だけ | |
| 第 2 成分だけ | |
| 全体 |
体を 個並べれば 個です。イデアルの個数が成分の数で決まる、という形になる。
素イデアルは片方が全体になる
の形で両方が真のイデアルだと、素にはなれません。 がこの中に入るのに、 も も入らないため。
、 なので、どちらの元も外にいる。
だから素イデアルは片方の成分が環全体になる形に限られます。
剰余環を計算すると で、確かに整域です。
の形。両方の成分が独立に動く
片方の成分が環全体になる。 か のどちらか
Spec は 2 つに離れる
素イデアルが片方の成分に寄るので、 は 2 つの部分に分かれる。
分かれ目は です。 を含む素イデアルの全体と、 を含む素イデアルの全体。この 2 つはどちらも閉集合で、たがいに補集合になっています。
閉集合の補集合が閉なので、どちらも開かつ閉。位相空間としては非連結になる。

逆に が非連結なら、 は自明でない直積に分解します。環の分解と空間の連結成分が、そのまま対応している。
いつ直積に分解できるか
(どちらも零環でない)と書けるための条件は、 に でも でもない冪等元があることです。
をみたす元を冪等元という。 では がそれにあたる。
逆に が自明でない冪等元なら、 も冪等元で になり、 と分解します[1]。 の単位元は 、 の単位元は 。
例:多項式環を 2 つに切る
を体、標数は でないとします。 で、この 2 つは互いに素になる。差が で、標数が でなければ単元だから。
中国剰余定理から次の同型になります。
の像は 。2 つの根を成分に振り分けた形になります。
いっぽう は分解しない。 なので、冪等の条件は と 。
なら 、 でも から です。冪等元は と だけになり、切る場所がない。
同じ 2 次式の剰余でも、重根かどうかで結果が分かれます。
例: を局所環に分ける
。中国剰余定理から になります。
対応する冪等元は と 。、 で、、 です。
をかけて得られる が の側、 をかけて得られる が の側になる。
成分の は体ではありません。極大イデアル をただ 1 つ持つ局所環。
アルティン環はいつでも、極大イデアルでの局所化の有限直積になります[2]。 はその最小の例のひとつ。
極大イデアルが有限個しかない
どの素イデアルも極大になる
極大イデアルごとに局所化して直積にする
連結な環
冪等元が と しかない環を連結といいます。 が連結であることと同じ条件になる。
なら で、整域だから か 。 や が該当します。
自明でない冪等元は単元でも零でもない元になりますが、局所環でそれを と の両方について立てられません。 が該当します。
と が冪等元です。、 で、。
では が冪等元。成分が 2 つ以上ある直積は、いつでも非連結になります。
無限個の直積と直和
無限族 でも直積 は定義でき、成分ごとの演算で可換環になります。
直和 のほうは環にならない。有限個の成分を除いて という条件があるため、単位元 が入らないからです。
成分が有限個なら、この差は消える。直積と直和が同じ集合になるためです。
は環になる。直積と直和は同じもの
は環になるが、 は単位元を持たない。加群としては意味が残る
無限直積のスペクトルは、有限直積のような簡明な形にならない。各成分が体のときでさえ、極大イデアルは添字集合 上の超フィルターと対応します[3]。
の各点から決まる素イデアルのほかに、主でない超フィルターから決まる素イデアルが並ぶ。有限直積で成り立っていた「成分ごとに読める」が、ここで崩れる。
を体とするとき、 のイデアルはいくつありますか。
- 3 個
- 6 個
- 8 個
- 無限個
次のうち、自明でない直積に分解できない環はどれですか。標数は でないとします。
は局所環で、冪等元が と しかありません。 は が異なる 2 つの因数に分かれるので 、 は に分解します。重根かどうかが分かれ目になる。
成分ごとに読めるかどうか。単元も零因子もイデアルも素イデアルも、有限直積ではこの一言で片づきます。











イデアルは成分ごとに決まり、各成分では 0 と k の 2 通りです。3 成分あるので 23=8 個になります。3 個や 6 個は、成分そのものの個数と取り違えた形。