座標環の計算 - 代数曲線と代数曲面の可換環論
代数幾何では、幾何学的対象(代数多様体)を可換環(座標環)を通じて研究します。曲線や曲面の形状・特異点・交叉といった幾何学的性質が、座標環のイデアル構造や局所化に翻訳されます。ここでは具体的な計算を通じてその対応を見ていきます。
座標環の定義
体 上のアフィン多様体 に対して、 の座標環(coordinate ring)は
で定義されます。 は の定義イデアル、すなわち 上で恒等的に零となる多項式全体のなすイデアルです。座標環は 上の「多項式関数の環」であり、 の代数的な性質をすべて反映しています。
が代数閉体のとき、Hilbert の零点定理により の点と座標環の極大イデアルが一対一に対応します。点 に対応する極大イデアルは です。
平面曲線の座標環
最も単純な例として、 内の平面曲線 を考えます。座標環は です。
放物線 の場合、 です。 という関係式により が で表せるため、座標環は 1 変数多項式環に同型になります。これは放物線が直線 と同型であることの代数的な表現です。
楕円曲線 ( とする)の場合、 です。この環は とは同型にならず、曲線が とは本質的に異なる幾何を持つことを反映しています。
。UFD であり PID でもある。曲線は と同型。
。整域だが UFD ではない。曲線は と同型でない。
座標環から読み取れる性質
座標環の環論的性質と幾何学的性質の対応を整理します。
| 環論的性質 | 幾何学的性質 |
|---|---|
| 整域である | 多様体が既約である |
| 被約環である | 多様体が被約である |
| 体である | 多様体が 1 点である |
が整域であることは が既約多項式であることと同値です。例えば のとき は整域ではなく( だが 、)、対応する図形 は 2 本の直線の合併であり既約ではありません。
特異点の検出
曲線 上の点 が特異点であるとは、
がすべて成り立つことです。これを座標環の局所化で捉えられます。 に対応する極大イデアル での局所化 が正則局所環であるかどうかが、 が非特異かどうかに対応します。
結節点(node)の例として を考えます。原点 では が成り立ち、特異点です。局所環 の極大イデアルは で生成されますが、 という関係があり、 は局所環で単元なので ( は単元)です。埋め込み次元は 2 であり、曲線の局所環の次元は 1 なので、 となり正則ではありません。
結節点では曲線が局所的に 2 本の枝に分かれています。 において は原点の近傍で正なので、形式的には と 2 つの枝に分離します。これは局所環の整閉包が 2 つの離散付値環の直積になることに対応しています。
特異点の局所環の整閉包を見ることで、枝の本数がわかる。
尖点(cusp)の例として を考えます。原点が特異点であり、局所環は を で局所化したものに同型です。結節点と異なり、尖点では曲線は 1 本の枝しか持ちませんが、パラメータ付けに「隙間」があります。
局所的に 2 本の枝が交叉。整閉包は 2 つの DVR の直積。-不変量は 1。
1 本の枝だが折り返しがある。整閉包は 1 つの DVR。-不変量は 1。
曲面の座標環
内の代数曲面 の座標環は です。曲面の場合は Krull 次元が 2 になり、素イデアルの鎖 が存在します。ここで は曲面上の曲線に、 は点に対応します。
平面 の場合、 であり、これは 2 次元の正則環です。
2 次曲面 の座標環 は整域ですが UFD ではありません。 という関係式があり、 は既約元ですが素元ではないことが確認できます( は を割り切るが も も割り切らない)。
は正規整域であり UFD でない。因子類群は であり、この非自明性が UFD でないことを反映している。
この 2 次曲面は 2 つの直線族を持つ。各直線族に属する直線が Weil 因子として因子類群を生成し、 の生成元を与える。
座標環の次元と多様体の次元
座標環の Krull 次元は多様体の次元に一致します。
において が既約なら、Krull の標高定理(Hauptidealsatz)により の標高は 1 です。したがって であり、平面曲線の次元は 1 です。
同様に で が既約なら であり、空間曲面の次元は 2 です。
より一般に、 内の多様体 に対して
が成り立ちます。ここで は の標高であり、多様体を定める独立な方程式の本数に対応しています。
交叉の計算
2 つの曲線 と の交叉は、イデアルの和 に対応します。交叉の座標環は
であり、-ベクトル空間としての次元が交点数(重複度込み)を与えます。
(放物線)と (直線)の交叉を計算します。
-次元は 2 であり、交点は と の 2 つです。各交点での交叉重複度は 1 です。
接線の場合は異なります。 と ( 軸)の交叉は
です。-次元は 2 ですが、 は被約でない( だが )ため、これは原点で重複度 2 の接触をしていることを意味します。
| 交叉 | 座標環 | -次元 |
|---|---|---|
| 横断的(2 点) | 2 | |
| 接触(1 点、重複度 2) | 2 |
交叉の座標環が被約であるかどうかが、交叉が横断的かどうかを判定する基準になっています。被約であれば各交点の重複度は 1 であり、べき零元が現れると交点で接触が起きています。
正規化と座標環
曲線の特異点を解消する代数的な方法の一つが正規化(normalization)です。整域 の商体 における整閉包 を正規化と呼び、対応する射 が正規化射です。
尖点曲線 の座標環は (, )です。商体は であり、 は 上整です( を満たす)。整閉包は であり、正規化射は 、 に対応します。
特異曲線 の座標環
商体 内での整閉包 の計算
正規化射 の構成
特異点の解消と非特異モデル の取得
から への包含 は、 という「欠けていた」元を補うことで環を正則にする操作です。導手イデアル は であり、これが正規化で「修復される」場所(特異点の位置)を表しています。