クルルの交叉定理はイデアルの冪をどこまで削るのか
ネーター局所環 では、極大イデアルの冪をすべて交わらせると何も残りません[1]。
に深く沈んだ元は しかない、という主張です。ネーター性を外すと途端に崩れます。
主張の 3 つの形
いちばん使うのは局所環の形です。 を有限生成 -加群、 を真のイデアルとすると が成り立ちます[1]。
局所でない環でも、 が Jacobson 根基に含まれていれば同じ結論が出ます[3]。 の元が単元になることが効いています。
整域でもよい。ネーター整域なら、真のイデアル について です[4]。
。極大イデアルが 1 つなので、真のイデアルは自動的に根基に入る
。極大イデアルは複数あってよく、零因子がないことで代わりが利く
どちらの条件も落とすと成り立ちません。次の節でその例を見ます。
ネーター環でも局所でも整域でもないと崩れる
をとります。有限環なのでネーターです[4]。
とすると 、 なので 。冪を重ねても縮みません。
この環は局所でもなく整域でもない。 と という 2 つの極大イデアルを持ち、 という零因子があります。
冪等なイデアルがあると、そこで下降が止まります。ネーター性だけでは足りない、という例。
証明は 2 段で終わる
とおきます。Artin-Rees の補題から、ある について次が成り立ちます[4]。
なので左辺は そのものです。右辺は が掛かっているので、 とすれば になります。
逆の包含は明らかなので 。 がネーター加群なら も有限生成なので、中山の補題から が出ます[1]。
Artin-Rees でイデアルを 1 段外へ出し、中山で消す。この 2 段だけです。
交わりの正体を書き切る形
条件を何も置かずに書くと、交わりは とは限りません。ネーター環と有限生成加群だけを仮定すると、次の等式になります[2,3]。
右辺は の元で消される元の集まりです。 が根基に入っていればそれらは単元なので、右辺が に落ちます。
で確かめます。、 とすると 。確かに の形で、交わりに残る理由がそのまま見えます。
一般形のほうが情報量は多い。ただ、実際に使うのは根基の条件を付けた になる形です。
連続関数の芽では冪が縮まない
原点のまわりの連続関数の芽の全体を とします。 を となる芽の集まりとすると、 は局所環です[3]。
ここでは が成り立ちます。 に対して次のように分ければよい。
は連続で、原点で になります。符号を付けたほうも同じ。2 つとも に入るので です。
平方根をとる操作が、いくらでも「浅く」できてしまう。だから冪が縮まず、 になります[3]。

滑らかな関数の芽でも交わりは消えません。 は 階までの微分が原点で消える芽なので、交わりは無限位で平らな芽の全体になります。
を原点で と定めた関数がその例です。どの階数の微分も原点で消えるのに、関数そのものは ではありません。
多項式や収束冪級数の環ならこうはならない。テイラー係数がすべて なら関数も です。ネーター性の有無が、ここで分かれます。
位相で読み直す
を の基本近傍系にとると、 に位相が入ります。 進位相と呼ばれるものです。
この位相がハウスドルフになる条件が、そのまま です。交わりが でなければ、そこに入る元と が分離できません。
したがってネーター局所環では位相がハウスドルフになる。完備化への自然な写像 が単射になります[3]。
交叉定理は、完備化で情報が失われないことの保証になっています。
はもとの環より大きいのに、 の元どうしは の中でも区別されたままです。
例:形式的冪級数環と 進整数環
、 とします。 は で割り切れる級数の全体。
すべての で割り切れる級数は だけです。 が直接見えます。
も同じで、。どの桁まで見ても が続くなら、その数は です。
初等的な証明もある
Artin-Rees を使わずに済ませる道もあります。Perdry による証明では、Hilbert の基底定理だけを使います[4]。
、 と書きます。 なので、 となる 次の斉次多項式 がとれる。
という多項式環のイデアルの列を作ると、基底定理から昇鎖が止まります。 となる段が来る。
そこで を で書き直し、 を代入すると の形になります。 なので 。
すべての について掛け合わせると、 が交わり全体を消します。 です。
確かめかた
主張が正しいかどうかは、冪等なイデアルがあるかどうかで見当が付きます。
となる真のイデアルがあれば、その で交わりは のまま。 にはなりません。
ネーター局所環では、 から中山の補題で が出ます。だから真のイデアルには冪等なものがない。
、 とします。 はどれですか。
冪を重ねて縮むかどうか。それだけの話が、完備化の単射性まで支えています。










4×4=16=4 なので I2=I です。冪等なので冪を重ねても縮まず、交わりは (4) のままになります。Z/12Z は局所環でも整域でもないので、定理の条件から外れています。