整閉包の計算と判定法
整域 がその商体 において整閉であるかどうかは、環の代数的性質と対応する多様体の幾何学的性質の双方に深く関わります。整閉でない環に対してその整閉包を求める操作は正規化と呼ばれ、特異点の解消や因子理論の基盤をなしています。この記事では、整閉包の計算に用いられる具体的な手法と、整閉性を判定するための理論的な判定条件を解説します。
整閉包の定義
を整域、 をその商体とします。 の元 が 上整であるとは、ある首項係数 1 の多項式(モニック多項式)
が存在することをいいます。 上整な の元全体
を の( における)整閉包と呼びます。 は を含む の部分環であり、 自身は整閉です(整閉包の整閉包は自分自身に一致します)。 が成り立つとき、 は整閉であるといいます。
整閉包が環をなすこと、すなわち整な元の和と積が再び整であることは自明ではありません。これは が 上整であることと、 が有限生成 -加群であることの同値性から導かれます。
が 上整ならば は有限生成 -加群であり、その部分加群の元はすべて 上整となる。
具体的な計算例
整閉包の計算を具体例を通じて見ていきます。
最も基本的な例として、数値半群環 を考えます。これは と同型であり、尖点 の座標環にあたります。 の商体は であり、元 は に属しませんが、 を満たすので 上整です。実際に整閉包を求めると となります。 は PID なので整閉であり、 上整な元をこれ以上追加する余地はありません。
は整閉でない
が 上整だが に属さない
(多項式環は整閉)
もう少し複雑な例として、 を考えます。 の商体は です。元 は に属しませんが
を満たすので 上整です。整閉包は であり、これは の整数環(Eisenstein 整数環)です。この環は UFD ですが、もとの は UFD ではありません。たとえば という一意分解の破れが で生じますが、整閉包 ではこの問題が解消されます。
は特異曲線 の正規化に対応する。幾何学的には尖点を滑らかな点に置き換える操作。
の整閉包は のとき となり、 のとき 自身が整閉。判別式の偶奇が整閉性を左右する。
の正規化は 2 成分をもつ。尖点とは異なり、特異点で枝が「交差」している場合は正規化により成分が分離する。
導手による計算
整閉包の計算において中心的な役割を果たすのが導手(conductor)の概念です。 に対し、導手は
として定義されます。これは を の中に「押し戻す」最大のイデアルであり、 と の双方のイデアルになるという特別な性質をもっています。
導手が非零であるとき(たとえば がネーター整域で が 上有限生成加群であるとき)、 の計算を という有限的な対象の上の問題に帰着させることができます。
先の例 , に対し、導手は です。 以上の次数の多項式はすべて に属するため、 と の差異は次数 0 と 1 の部分にのみ現れます。このように導手は と が一致し始める場所を特定します。
導手のイデアルより「上」では と は同一であり、問題は導手より「下」の有限個の元の整性を調べることに帰着する。
Grauert-Remmert 型のアルゴリズム
整閉包を系統的に計算するための古典的な方法の一つが、導手とホム加群を用いた反復的な手法です。 を被約ネーター環とし、 を の導手(あるいは適切な非零因子を含むイデアル )とします。
の内部ホム を考えます。これは の部分環として
と実現できます。 が成り立ち、 であることと が に関して整閉であることが同値になります。
とし、各ステップで を計算する。ここで は のヤコビアンイデアルや導手から取る。 となった時点で が得られる。
がネーター整域で が 上有限生成であるならば、この反復は有限回で停止する。各ステップで が真に大きくなるか、 に到達するかのいずれかであり、 の有限性から停止が保証される。
この方法は計算代数幾何のソフトウェア(Singular、Macaulay2 など)に実装されており、具体的な環の整閉包を計算機を用いて求めることが可能です。
Serre の整閉性判定条件
整閉性を直接判定するための強力な理論的道具が、Serre の条件 と です。
ネーター整域 が整閉であるための必要十分条件は、 が条件 と を同時に満たすことです。
高さ 1 以下のすべての素イデアル に対し、局所環 が正則であること。直観的には「余次元 1 での滑らかさ」を要求する条件。
すべての素イデアル に対し が成り立つこと。代数的には「十分な正則列の存在」を要求し、幾何学的には「余次元 2 以上の部分集合を越えて関数が延長できる」ことに対応する。
この判定法の威力を示す典型的な応用は、Cohen-Macaulay 環に対するものです。Cohen-Macaulay 環はすべての 条件を自動的に満たすため、整閉性の判定が の確認だけに帰着します。すなわち、Cohen-Macaulay 整域が整閉であるためには、高さ 1 の素イデアルにおける局所環がすべて正則(離散付値環)であることを確かめれば十分です。
ヤコビアン判定法
具体的な環の整閉性を判定する実践的な手法として、ヤコビアン判定法があります。 がアフィン多様体 の座標環であるとき、 の非特異性(したがって座標環の正則性・整閉性)をヤコビ行列のランクによって判定できます。
とし、ヤコビ行列を
とします。 の点 において が成り立つとき、 は非特異点です。 のすべての点で非特異であれば は滑らかであり、 は正則環なので特に整閉です。
ヤコビアン判定法は非特異性の判定には強力ですが、整閉性は非特異性より弱い条件であることに注意が必要です。特異点をもつ多様体であっても、特異点の余次元が 2 以上であり Serre の条件を満たせば座標環は整閉になりえます。たとえば は原点に特異点をもちますが整閉です。
で定義される 2 次曲面(二次錐)は原点で特異だが、特異点は孤立しており、余次元が 2 なので Serre の条件 を満たす。
判別式と整閉性
整数論的な文脈では、判別式が整閉性の判定に使われます。 を代数体とし、 の最小多項式の判別式を とします。 が の整数環 に一致するかどうかは、 と の判別式 の関係から判定できます。
であれば が成り立ちます。 であれば であり、 という指数公式が整閉包の「大きさ」を定量的に測ります。
の最小多項式は 、判別式は 。一方 なので であり、 は整閉でない。指数は で、整閉包は 。
の最小多項式は 、判別式は 。したがって 自身がガウス整数環 であり、整閉。
の判別式は 、。指数 2 で 。黄金比 が整数環の生成元として現れる。
計算代数システムでの実装
現代の計算代数システムでは、整閉包の計算が標準機能として実装されています。代表的なアルゴリズムとしては、先述の de Jong のアルゴリズムのほかに、Stolzenberg のアルゴリズムや、Leonard-Pellikaan のアルゴリズムなどが知られています。
たとえば Macaulay2 では、integralClosure 関数を用いて整閉包を直接計算できます。
# SageMath での整閉包の計算例
# 曲線 y^2 = x^3 の座標環の整閉包
R.<x, y> = QQ[]
I = R.ideal(y^2 - x^3)
S = R.quotient(I)
# 数体の整数環の計算
K.<a> = NumberField(x^2 + 3)
print(K.ring_of_integers())
# Order in Number Field in a
# with defining polynomial x^2 + 3
# 出力: ZZ[(1+a)/2] すなわち Z[(1+sqrt(-3))/2]
計算量の観点からは、整閉包の計算は一般に困難な問題です。入力の環がネーター整域であっても、整閉包が有限生成とは限らない場合(非ネーター的な場合)には計算が停止しない可能性があります。ただし、体上有限生成な整域(アフィン環)に対しては整閉包は常に有限生成であり、アルゴリズムの停止が保証されます。
整閉包の計算と判定は、可換環論の抽象的な理論と具体的な計算が最も密接に交わる領域の一つです。Serre の条件のような理論的判定法、導手やヤコビアンを用いた実践的計算法、そして計算代数システムによるアルゴリズム的手法が相互に補完し合い、特異点論・整数論・代数幾何の具体的な問題に対する道具立てを提供しています。