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テンソルしてから完全性を判定する|忠実平坦性と降下

平坦な加群は完全列を完全列のまま運びます。忠実平坦な加群は、運んだ先が完全なら、もとも完全だったと言い切れます[2]。

運ぶだけか、判定にも使えるか。この差が忠実平坦性です。

検出する性質として定義する

が忠実平坦であるとは、-加群の複体 について、次が同値になることをいいます[2]。

が完全である。
が完全である。

片方の向きが平坦性です。もう片方の向きが加わって忠実平坦になります。

でない自由加群は忠実平坦です[3]。 なら で、成分ごとに完全性が見えます。

同値な言いかえ

が平坦のとき、忠実平坦であることは次のどれとも同値です[1]。

でない -加群 について、つねに になる。
すべての素イデアル について になる。
すべての極大イデアル について になる。

最後の条件がいちばん使いやすい。極大イデアルを 1 つずつ当てて、消えないかどうかを見るだけです[1]。

は の上のファイバーにあたります。どの点の上にも何か乗っているか、という条件になっている。

平坦

完全性を上へ運ぶ。ファイバーが空の点があってもよい

忠実平坦

上の完全性から下の完全性が戻る。どの点の上にもファイバーが残る

例: は平坦だが忠実平坦でない

、 をとります。局所化なので平坦です。

ところが になります。 でない加群がつぶれた。

極大イデアル で見ると です。閉点の上のファイバーが空になっている。

の上で計算しても、ねじれの情報は何も見えません。判定には使えない、ということです。

環準同型としての忠実平坦

が忠実平坦とは、 が -加群として忠実平坦なこと。このとき次が成り立ちます[2]。

は単射である。
-加群 について は単射になる。
イデアル について が成り立つ。

3 つ目が使いどころの多い形です。 へ広げたイデアルを へ引き戻すと、もとに戻る。

情報が失われないので、 の中で計算して の結論を出せます。

の全射性

平坦な環準同型については、忠実平坦であることと が全射であることが同値です[1]。

さらに、閉点がすべて像に入っていれば全射になります[1]。極大イデアルだけを確かめれば足りる。

で見ると、 は 1 点で、 の生成点にしか写りません。閉点が全部落ちています。

局所環どうしなら自動で忠実平坦

を局所環準同型とします。 という条件が付いている。

が 上平坦なら、これだけで忠実平坦になります。

理由は短い。 なので 。極大イデアルは しかないので、判定条件を満たします[1]。

局所環の完備化 がこの形です。平坦であることが分かれば、忠実平坦まで自動的に付いてきます。

平坦性は局所的な性質

が平坦であることは、すべての素イデアルで が 上平坦であることと同値です[4]。極大イデアルだけ見ても同じ[4]。

だから平坦性の判定は点ごとに落とせます。忠実平坦性のほうは、そこに「どの点も空でない」という大域の条件が乗る。

局所化 は平坦ですが、忠実平坦とは限りません。 が開集合にしかならないためです。

いっぽう が単位イデアルを生むとき、 は 上忠実平坦になります[2]。開被覆を全部集めれば覆い切れる。

局所化を 1 つとるだけでは足りず、被覆になるようにいくつか集めると忠実平坦になります。

幾何で「開被覆をとる」という操作が、代数では忠実平坦な拡大に対応します。

降下という使い方

忠実平坦な をとります。 上の加群に、貼り合わせの条件が付いたものを考える。

そういうデータから 上の加群が一意に復元できます[2]。これを忠実平坦降下といいます。

道具になるのが Amitsur 複体です[2]。、、 と並べた複体で、忠実平坦なら完全になります。

体の Galois 拡大に当てると、Galois 降下が出ます[2]。 が有限 Galois なら、 上の対象に Galois 作用を付けたものが 上の対象に対応する。

例:体の拡大と完備化

を体の拡大とします。 は 上の でない自由加群なので、忠実平坦です[3]。

だから 上の主張を 上で確かめる、という道が使えます。代数閉包まで広げてから議論する手法がこれです。

ネーター局所環の完備化 も忠実平坦です。 の中で計算して の結論を戻せます。

では冪級数が使えるので、もとの環より計算がしやすい。忠実平坦性がその結果を持ち帰る保証になります。

とします。次のうち忠実平坦な -加群はどれですか。

__RESULT__

は忠実平坦で、 は平坦です。平坦なものと忠実平坦なものの直和は忠実平坦になります。 単独では をつぶすので判定に使えず、 はそもそも平坦ではありません。

つまずきやすいところ

平坦なら忠実平坦だと思う。 が 上の反例です。
局所化がつねに忠実平坦だと考える。開集合しか覆いません。
忠実平坦性を素イデアルごとの条件だけで判定する。どの点も空でないという大域の条件が要ります。
で満足する。等号まで言えるのが忠実平坦のときです。
忠実という語を単射と同じ意味だと考える。単射は結論のひとつで、定義ではありません。

上へ運ぶだけでなく、下へ戻せる。この往復ができるから、広げた先で計算してよいことになります。

参考文献

Faithfully flat modules, Lemma 10.39.15. The Stacks Project.
Akhil Mathew. *Flatness revisited*, §1 と §3. University of Chicago.
Wolfgang Soergel. *Kommutative Algebra und Geometrie*, 2.5.12. Universität Freiburg.
Nicolas Perrin. *Algèbre commutative*, §3.3. Université de Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines.
平坦な加群は完全列を運びます。忠実平坦な加群は、運んだ先が完全なら、もとも完全だったと言い切れる。判定に使えるかどうかが差です。$\mathbb{Q}$ は $\mathbb{Z}$ 上平坦ですが、$\mathbb{Z}/n$ をつぶすので忠実平坦ではありません。$\operatorname{Spec}$ の全射性、$IS \cap R = I$、局所環準同型なら平坦だけで足りること、開被覆が忠実平坦な拡大に対応することまで見ます。