可換環のイデアル演算 - 和・積・交叉・商イデアルの基本

可換環 のイデアルに対しては、和・積・交叉・商という 4 つの基本的な演算が定義されます。これらの演算はイデアルの集合に豊かな構造を与え、環論の議論の土台となっています。

イデアルの和

の 2 つのイデアル に対して、その和 は次のように定義されます。

これは の両方を含む最小のイデアルです。例として を考えます。 のとき、

となります。これは であることに対応しており、一般に では が成り立ちます。

和の演算は有限個のイデアルだけでなく、任意個のイデアルに対しても拡張できます。イデアルの族 に対して、 は各 の元の有限和全体の集合として定義されます。

無限個のイデアルの和であっても、各元は有限個の からの寄与しか持たない。

イデアルの積

2 つのイデアル の積 は、 なる積 の有限和全体として定義されます。

単なる元ごとの積 ではイデアルにならない場合があるため、有限和をとる点に注意が必要です。

再び で考えると、 のとき、

です。一般に では が成り立ちます。

イデアルの積と交叉の間には常に包含関係

が成り立ちます。等号が成り立つとは限りませんが、(互いに素)のときは となります。これは中国剰余定理と深く関わる性質です。

イデアルの交叉

2 つのイデアル の交叉 は集合論的な共通部分そのものです。

のとき、

となります。これは に対応しており、一般に では です。

和とgcd

において 。2 つのイデアルを含む最小のイデアルを作る操作。

交叉とlcm

において 。2 つのイデアルに共通する元を集める操作。

多項式環 は体)での例も見てみます。 のとき、

です。 なら でも でも割り切れるため、 で割り切れることからこれが従います。この場合 であり、 なので互いに素でなくても等号が成り立つ例になっています。

商イデアル(イデアル商)

イデアル に対して、商イデアル(コロンイデアルとも呼ばれる) は次のように定義されます。

これは「 を掛けて に入る元の全体」であり、 を含む最大のイデアル を満たすものです。

のとき、

です。 すなわち の倍数になる条件は の倍数であることと同値だからです。

商イデアルが特に重要になるのは、イデアルの構造を調べるときです。例えば、 が素イデアルのとき、 の形の商イデアルは随伴素イデアルの理論で中心的な役割を果たします。

零化イデアルとの関係

加群 の元 の零化イデアルは と表せます。商イデアルは零化イデアルの一般化と見なせる側面を持っています。

準素分解との関係

イデアルの準素分解を求める際、商イデアルの計算が基本的な道具になります。 の形のイデアルを繰り返し計算することで、 の準素成分を分離できます。

4 つの演算の関係

これらの演算の間にはいくつかの基本的な関係式が成り立ちます。

ならば (互いに素なイデアル)
(一般には等号不成立)

特に 5 番目と 6 番目の式は、商イデアルが交叉や和と整合的に振る舞うことを示しています。商イデアルの計算を交叉や和に帰着させたり、その逆を行ったりする際に頻繁に使われます。

多項式環での具体例

として各演算を計算してみます。

で生成されますが、 なので です。したがって、

の生成元と の生成元の積で生成されます。

ここで かつ なので、整理すると です。

の計算はやや技巧的です。 なので ではなく と因数分解でき、

が得られます。実際、 であり、 かつ なので ですが です。これは となる具体例です。

商イデアルについては、

と分解できます。 ならば )であり、 を満たす の全体で、 です。よって、

演算結果

この例からわかるように、多項式環におけるイデアル演算は生成元の組み合わせだけでは決まらず、環の構造を反映した非自明な計算が必要になります。Gröbner 基底を用いた体系的な計算法については別の記事で扱います。