導来関手の基礎

導来関手はホモロジー代数における中心概念であり、Tor や Ext はその具体例である。射影分解や入射分解を通じて定義され、圏論的な枠組みで統一的に扱われる。

導来関手の動機

加法関手 が完全でないとき、短完全列 を適用しても完全列が保たれない。導来関手は、この「完全性の欠如」を系統的に測定する道具である。

例えば は一般に右完全だが左完全ではない。左導来関手 がこの欠陥を捉える。 は左完全だが右完全ではなく、右導来関手 が対応する。

左導来関手

射影分解を使って構成。右完全関手に適用。

右導来関手

入射分解を使って構成。左完全関手に適用。

射影分解と左導来関手

を右完全加法関手、 を加群とする。 の射影分解

を適用してチェイン複体

を得る。この複体の 次ホモロジーが 次左導来関手 である。

L₀F

。分解の取り方によらない。

LₙF(n ≥ 1)

が完全でないことによる「ずれ」を測る。

入射分解と右導来関手

を左完全加法関手、 を加群とする。 の入射分解

を適用してコチェイン複体を作り、そのコホモロジーが の右導来関手 である。

Ext は の右導来関手として、または の右導来関手として理解できる。

well-defined 性

導来関手が分解の取り方によらないことは、ホモロジー代数の基本定理による。異なる射影分解から得られる複体はチェインホモトピー同値であり、したがってホモロジーは一致する。

この不変性により、導来関手は加群そのものから決まる対象となる。計算には具体的な分解を選ぶが、結果は選び方に依存しない。

長完全列

導来関手の最も重要な性質は、短完全列から長完全列が誘導されることだ。 が完全なら

という長完全列が存在する。この列を追うことで、導来関手の値を計算したり、他の不変量と関連づけたりできる。

十分多くの射影対象・入射対象

導来関手を定義するには、圏が「十分多くの射影対象」または「十分多くの入射対象」をもつ必要がある。-加群の圏では両方が成り立ち、自由加群は射影的、除法加群は入射的である。

一般のアーベル圏では入射対象は存在するが、射影対象は存在しないことがある。層のコホモロジーなどではこの点が重要になる。