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完全性のずれを測る道具、導来関手と Tor・Ext のはじまり

短完全列 に関手を当てると、完全性がどこかで壊れます。壊れた先を測る道具が導来関手です[1]。

は右完全で、左端がつぶれる。 は左完全で、右端がつぶれる。つぶれ方に番号を付けて並べたものが と になります。

どこが壊れるか

、 とし、 に を当てます。

真ん中の写像は 倍なので零写像です。左端の単射性が消えました。核が だけ残っている。

この残りかすが です。捨てるのではなく、次の項として拾い上げる。

右完全な関手

の類。右端は保たれ、左端が壊れる。左導来関手で補う

左完全な関手

の類。左端は保たれ、右端が壊れる。右導来関手で補う

補う向きが逆になります。使う分解も、射影分解と入射分解で分かれる。

射影分解に当てる

を右完全な加法関手、 を対象とします。 の射影分解をとります[1]。

の部分を落とし、残りに を当てて複体を作ります。この複体の 次ホモロジーが です。

そのものを消してから当てる、という手順が要点です。 を残したままだと、ただ が出るだけで新しい情報が出ません。

分解の選び方によらない

射影分解は一意ではありません。それでも は同じものになります[1]。

2 つの分解 と をとると、恒等写像が複体の射に延びます。逆向きにも延びる。

2 つの合成は恒等写像とチェインホモトピックです。ホモトピックな射は同じホモロジーを誘導するので、両者は同型になります[1]。

計算のときは具体的な分解を選びます。結果はその選択に依存しない。

分解の非一意性が問題にならないのは、異なる分解どうしがチェインホモトピー同値になるためです。

ホモロジーはホモトピー同値で変わりません。この一点で全体が支えられています。

0 次はもとの関手に戻る

が右完全なので、 が完全です。だから になります[1]。

が射影対象なら、 で です。 自身を長さ の分解にとればよい。

高次の項が消えることを非輪状といいます。分解に使う対象は、この意味で「見えない」ものであってほしい。

なので、 次はもとの関手そのもの。
射影対象では の項がすべて消える。
が完全なら、どの対象でも の項が消える。
高次の項が残ることが、完全でないことの証拠になる。

長完全列が出る

いちばん効く性質がこれです。短完全列から、導来関手をつないだ長完全列が生まれます[1]。

まず馬蹄形補題を使い、、、 の射影分解を各次数で分裂完全になるようにそろえます。

を当てると、分裂しているので各次数で完全のまま。複体の短完全列ができるので、ホモロジーの長完全列が出ます[1]。

を接続準同型といいます。次数を 1 つ下げてつなぐ写像で、これがあるおかげで列が切れません。

関手としての性質

長完全列を持つ関手の族を 関手と呼びます。導来関手はその例です[4]。

さらに強いことが言えます。導来関手は普遍的な 関手になる[4]。同じ 次を持つ 関手があれば、そこへ一意な射が出ます。

だから導来関手は「 を延長する最良の方法」として特徴づけられます。分解を使って作ったものが、圏論の言葉で一意に決まる。

入射分解と右導来関手

を左完全な加法関手とします。今度は入射分解をとります。

を落として を当て、コホモロジーをとると です。 になります[4]。

に当てると が出ます。 の右導来関手として計算しても同じもの。

2 つの計算が一致することを、balanced であるといいます[3]。 でも同じで、どちらの変数を分解しても結果は変わりません。

例:

の射影分解は短くて済みます。

は自由なので、これで分解が終わります。長さが なので の項は消える。

を当てると です。 はこの写像の核になります。

を解くと、解は 個。したがって次が出ます[2]。

と が互いに素なら です。ねじれが噛み合わないと、 は何も検出しません。

例:

同じ分解に を当てます。 なので、 という複体になる。

はその余核です。

この群は、 を で延長する方法の全体と一致します[3]。 に対応するのが直和で、他の元がねじれた延長。

という名前が拡大から来ていることが、この対応に表れています。

射影対象が足りない圏

導来関手を作るには、圏が十分多くの射影対象か入射対象を持つ必要があります。

-加群の圏では両方そろいます。自由加群が射影的で、可除加群が入射的です。

ところが層の圏では射影対象が足りません。だから層コホモロジーは入射分解の側だけで作ります[4]。

代わりに、脆弱層のような非輪状な対象を使って計算します。分解に使えるのは射影対象や入射対象だけとは限らない、という点が効いてきます。

はどれですか。

__RESULT__

の分解 に を当てると、 倍写像 の核が答えです。 なので になります。

つまずきやすいところ

右完全な関手に入射分解を当てる。向きが合わず、意味のあるものが出ません。
分解のときに を残したまま関手を当てる。 次しか出てこなくなります。
を だと思う。 次はもとの関手そのものです。
の 2 つの変数で結果が変わると考える。どちらを分解しても一致します。
層の圏で射影分解を探す。射影対象が足りないので入射側を使います。

完全でない関手を捨てずに、ずれを次の項として並べる。 も も層コホモロジーも、同じ作り方から出てきます。

参考文献

Romyar Sharifi. *Homological Algebra*, §3.3. University of California, Los Angeles.
Clara Löh. *Kommutative Algebra*, §5.3. Universität Regensburg.
J. P. May. *Notes on Tor and Ext*. University of Chicago.
Right derived functors and injective resolutions, §13.20. The Stacks Project.
短完全列に $\otimes N$ を当てると左端が壊れます。壊れた残りを捨てずに次の項として拾うのが導来関手です。射影分解から $A$ を落として関手を当て、ホモロジーをとる。分解の選び方によらないのはチェインホモトピー同値のため。馬蹄形補題から長完全列が出て、普遍的な $\delta$ 関手として特徴づけられます。$\operatorname{Tor}_1(\mathbb{Z}/m, \mathbb{Z}/n) = \mathbb{Z}/\gcd(m, n)$ の計算まで追います。