Hilbert基底定理
Hilbert 基底定理は、ネーター環の多項式環がふたたびネーター環になることを保証する。可換環論と代数幾何学の基礎を支える定理の一つだ。
定理の主張
がネーター環ならば、多項式環 もネーター環である。
帰納的に適用すれば、 がネーター環のとき もネーター環となる。特に、体 上の多項式環 はネーター環である。
体のイデアルは と全体のみ。自明にネーター。
Hilbert 基底定理により、体上の任意有限変数多項式環はネーター環。
証明の方針
のイデアル が有限生成であることを示す。基本的なアイデアは、 の元を次数で分類し、最高次係数を集めてくることにある。
に属する多項式の最高次係数全体を集めると、 のイデアル が得られる。 がネーター環なので は有限生成であり、 と書ける。各 を最高次係数としてもつ の元 を選ぶ。
次数が 未満の部分については帰納法を用いる。これにより、 全体が と低次数の有限個の元で生成されることが示される。
代数幾何学との関係
Hilbert 基底定理は代数幾何学において本質的な役割を果たす。アフィン多様体のイデアルが有限生成であること、つまり有限個の多項式方程式で定義できることを保証するからだ。
のイデアル に対し、 として定まる集合。
が有限生成なので、 は有限個の方程式 で定義できる。
冪級数環への拡張
類似の結果として、 がネーター環ならば形式的冪級数環 もネーター環である。証明は多項式環の場合と同様の議論による。
一方、無限変数の多項式環 はネーター環にならない。イデアル が有限生成でないためだ。Hilbert 基底定理が有限変数に限定されることの本質がここにある。
歴史的背景
この定理は David Hilbert が 1888 年に不変式論の研究の中で証明した。当時は存在証明のみで具体的な生成元の構成を与えなかったため、「神学であって数学ではない」と批判されたという逸話がある。しかし現代では、この抽象的アプローチこそが可換環論と代数幾何学の発展を導いたと評価されている。