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整域が整閉かどうかは局所化だけで決まる

整域 について、次の 3 つは同値です[1]。

は整閉である。
どの素イデアル についても は整閉である。
どの極大イデアル についても は整閉である。

整閉かどうかは、環の各点を見て回れば決まる。しかも極大イデアルだけ調べれば足ります。

「局所的な性質」と呼ばれる型の主張で、可換環論ではこの型が繰り返し現れる。

整閉であるとは

整域 の分数体を と書きます。 が 上整であるとは、係数を にとった最高次係数 の多項式の根になることをいう[1,2]。

上整な の元をすべて集めたものが、 における の整閉包です。整閉包が 自身に一致するとき、 を整閉と呼びます[2]。

最高次係数が という条件が効いている。ここを外すと、 のどの元も の根になってしまい、区別がつかない。

例: 平方根の環は穴が空くことがある

は整閉ではありません[1]。分数体の元 が、次の式を満たすためです。

最高次係数は で、係数はすべて整数。それなのに は に入りません。

格子のまん中が抜けている、という絵になる。抜けを埋めた が整閉包です。

一般に が整閉になるのは、 が を法として と合同でないときに限ります[2]。合同なときの整閉包が になる。

例: 一意分解整域は整閉

一意分解整域はつねに整閉です[1,2]。証明は既約分数で書くだけで済む。

を既約分数とし、 が 上整だとします。 に を掛ける。

右辺は で割り切れるので、 は を割る。 と が互いに素なので、 は単元しかない。

つまり は の元です。単項イデアル整域も も も、この理由で整閉になる。

局所化で環を小分けにする

積閉集合 に対して、分母を からとった分数の環 が作れる[3]。素イデアル の補集合をとったものが です。

が整域なら、話が単純になる。 はすべて分数体 の部分環として実現でき、 が成り立つ。

は極大イデアルを一つしか持たない局所環です。素イデアルを一点と見て、その近くだけを拡大鏡で見る操作にあたる。

共通部分としての A

局所化を全部集めると、もとの環が復元できる。整域 について、 の中で次が成り立つ。

共通部分は、すべての極大イデアル にわたってとる。この等式が、 の要になる。

証明は分母のイデアルを使う。 をとり、次のイデアルを置く。

がどの極大イデアルにも含まれないことを見ます。もし とすると、 から 、 と書ける。

すると なので となり、 に反する。

真のイデアルは必ず極大イデアルに含まれるので、 は真のイデアルではありません。つまり で 、したがって です。

一点ずつの結果を集めると、全体の結果になる。局所的な性質とは、この向きの復元がきく性質のこと。

上から下へ: 局所化は整閉性を受けつぐ

は分母を払う議論です[4]。 を整閉、 を積閉集合とし、 が 上整だとします。

整方程式の係数は の形。分母をまとめて をとり、両辺に を掛けます。

すると が 上整な元になる。 が整閉なので 、したがって です。

素イデアルでも極大イデアルでも同じ議論が通る。 と が、これで済んだ。

下から上へ: 各点から全体へ

には共通部分の等式を使う。 が 上整だとします。

なので、 は各 上でも整です。仮定から は整閉なので になる。

これがすべての で成り立つので、 は共通部分に入る。共通部分は に一致するので です。

つまり の整閉包は 自身。3 つの条件が輪になってつながりました。

なぜ局所で決まるのか

背景にあるのは、局所化が完全関手であることです[3]。完全列を局所化しても完全列のまま。

いちばん基本の形は、加群 について次が成り立つことです[3]。

かどうかが局所で決まるので、写像の核や余核についても同じことが言える。単射性や全射性が局所で決まるのは、この帰結です。

ほかに局所で決まる性質

同じ型の主張がいくつも並ぶ[3]。

加群の列 が完全であること。
加群の準同型が単射であること、全射であること。
加群が平坦であること。
環が正則であること。すべての局所環が正則局所環になることと同値になる。

どれも「もとの環の性質で決まり、分母のとり方によらない」という形をしている。分母を付けても付けなくても、完全性は変わらない。

局所で決まらない性質もある

すべてが局所で決まるわけではありません。整域であることが、その例。

体 をとって と置きます。極大イデアルは と の つで、どちらで局所化しても になる。

は整域です。それなのに は という零因子を持ち、整域ではありません。

だから 3 条件の同値は、 が整域だという前提の上に立っている。この前提を落とすと、主張の形自体を変える必要が出る。

正規環へ広げる

整域という前提を外したいときは、正規環という言葉を使う[1]。すべての素イデアルでの局所化が整閉整域になる環のこと。

はこの意味で正規です。局所化がどちらも体になるため。

ネーター環では、セールの判定法が使える[1]。高さ 以下の素イデアルで局所環が正則になり、それより高いところで深さの条件が満たされれば正規になる、という形の判定です。

代数体の整数環

代数体 の中で、 の整閉包をとったものが の整数環です[5]。定義からして整閉になる。

ガウス整数環 やアイゼンシュタイン整数環が、この形で得られる[5]。円分体の整数環も同じ枠に入る。

整数環はデデキント環で、デデキント環は定義に整閉性を含みます[2]。素因数分解がイデアルの水準で復活するのは、この整閉性が効いているためです。

が整閉でなかったのは、 の整数環に届いていなかったから。整数環は のほうです。

よくある誤り

整閉性は分数体の中で測ります。どの体の中で閉じているかを言わないと意味が決まりません。
最高次係数が でない多項式を許すと、定義が空回りします。分数体のどの元も根になってしまいます。
をいつでも整数環だと思うと外します。 が を法として のときはずれます。
局所化を素イデアル全部で調べる必要はありません。極大イデアルだけで足ります。
局所化が整閉でも、整域でない環ではもとが整閉とは言えません。同値の主張は整域の前提つきです。
すべての性質が局所で決まるわけではありません。整域であることが反例になります。
一意分解整域でなければ整閉でない、とはなりません。整閉のほうが弱い条件です。

参考文献

Integrally closed domain(英語版 Wikipedia)
Anneau intégralement clos(フランス語版 Wikipedia)
Localization (commutative algebra)(英語版 Wikipedia)
Stacks Project, Lemma 10.37.5
Ganzheitsring(ドイツ語版 Wikipedia)
整域が整閉かどうかは、素イデアルごとの局所化を見れば決まります。極大イデアルだけ調べれば足りる、という形の同値を両向きから証明し、分母を払う議論と、環がすべての局所化の共通部分として復元される補題を書き下します。整閉でない例として平方根の環、整閉な例として一意分解整域を置き、局所で決まらない性質の反例、正規環とセールの判定法、代数体の整数環まで。