加群の長さ|組成列とジョルダン・ヘルダーの定理
加群 の組成列とは、部分加群の列であって、隣り合う商がどれも単純加群になるものです[1,3]。
商 を組成因子と呼ぶ[1]。単純加群とは、 でなく、真の部分加群を持たない加群のこと。
この が の長さです[2]。ベクトル空間の次元を、加群まで広げた量にあたります。
これ以上は割れない、という刻み方
組成列は「もう細かくできないところまで刻んだ列」です[1]。 が の中で極大な部分加群になっている、と言いかえられる。
途中に部分加群を挟む余地があれば、それはまだ組成列ではない。挟めなくなった状態が単純な商として現れる。
単純加群は、極大イデアル を使って と同型になります[5]。長さがちょうど の加群、という言い方とも同値です[5]。
刻み方は一通りではない
加群 には、組成列が 通りあります[1]。どの道を通っても長さは で、出てくる組成因子の顔ぶれも変わりません。
左の道は 。
因子は下から 、、 と出ます。
まん中は を経由し、因子は 、、 の順に出ます。
右は から始まり、、、 の順に並ぶ。
順番は 通りに散らばるのに、集めてみれば が つと が つ。これは偶然ではありません。
長さが 1 の加群
長さが であることと、加群が単純であることは同じです[5]。さらに、ある極大イデアル について と同型になることとも同値になる[5]。
組成因子はすべてこの形をとります[5]。組成列とは、 を極大イデアルによる剰余体へ分解する手続きだと読めます。
どの剰余体が何回現れるかが、次の定理で決まる量です。
極大な鎖はどれも組成列になる
長さが有限のとき、部分加群の極大な鎖はどれも長さ を持ちます[5]。途中に挟み込む余地がなくなった時点で、その鎖はもう組成列になっている。
長さを「鎖の長さの上限」と定めても、「組成列の段数」と定めても、同じ値が出ます[2,5]。
ジョルダン・ヘルダーの定理
組成列を持つ加群では、どの つの組成列も同値になる[1,3,4]。長さが等しく、組成因子の多重集合も順序を除いて一致する、という主張です。
この定理があるおかげで、長さが加群の不変量として定まる[2]。刻み方を選んでも答えが動かない。
証明はシュライアーの細分定理を通す道が標準です[1]。 つの列に共通の細分をとり、そこから同値性を引き出す。
細分定理の土台はツァッセンハウスの補題です[1]。 つの部分加群から作った つの商が同型になる、という補題で、蝶の形の図から蝶の補題とも呼ばれます。
長さの加法性
の組成列と の組成列を継ぎ足せば、 の組成列ができる。段数はそのまま足された数になる。
と の一方でも長さが無限なら、 も無限になります[2]。有限性が つのあいだで連動する。
長さがベクトル空間の次元公式と同じ形をしているのは、この加法性のためです。
ベクトル空間では次元と一致
体 上のベクトル空間では、長さが次元に一致します[2]。単純な 加群は 自身しかないので、組成因子がすべて 次元になる。
代数の上の加群なら、長さは ベクトル空間としての次元を超えません[2]。長さは次元より粗い刻み方になる。
有限の長さと 2 つの鎖条件
加群が組成列を持つことと、アルティン加群かつネーター加群であることは同値です[1,2]。
上へ伸びる鎖も下へ伸びる鎖も止まる、という条件がそろってはじめて刻み切れる。片方だけでは足りない。
長さが有限なら、その加群は有限生成です[5]。生成元の本数は長さで抑えられる。
アルティン環が自分自身の上で有限の長さを持つのも、この同値から出ます[2]。
例: 12 で割った剰余群
の長さは です[2]。 の指数を足した数と一致する。
一般に の長さは、 の素因数を重複を込めて数えた個数になります[2]。
部分加群は の約数と一対一に対応します。組成列は、 から へ素数を つずつ掛けて登る道にあたる。
の順に掛けるか、 か、 か。 通りの登り方が、そのまま 通りの組成列です。
素因数分解と組成列が、そのまま対応している。ジョルダン・ヘルダーの一意性が、素因数分解の一意性に重なって見えます。
例: 変数の冪で割った環
を自分自身の上の加群と見ます。部分加群は の像だけで、鎖は 段で尽きる。
各段の商は と同型です。組成因子がすべて で、長さは になる。
上のベクトル空間としての次元も なので、 つの数が一致します。
例: 整数環には組成列がない
を自分自身の上の加群と見ると、組成列を持ちません[1]。
が止まらないので、アルティン加群になりません。刻もうとしても底に着かない。
長さは無限と定める[2]。ネーター加群ではあるので、片方だけでは組成列に届かないと分かります。
群の場合
同じ定義が群にもあります[3,4]。正規部分群の列で、商がすべて単純群になるものを組成列と呼ぶ。
有限群には必ず組成列があります[3]。ジョルダン・ヘルダーの定理から、単純群の重複を込めた並びが群ごとに決まる。
有限単純群の分類が重い意味を持つのは、この定理があるためです。組成因子まで下ろせば、単純群の話に帰着する。
が短い例です[4]。因子は と になる。












