相似な行列とは|相似不変量と対角化との関係
正方行列 と が相似であるとは、正則行列 を選んで次の等式が成り立つことをいいます。
成分の並びはまったく違ってかまいません。相似な 2 つの行列は、同じ線形写像を別の基底で書き表したものにあたります。
だから基底の取り方に依存しない量は、相似変換で変わりません。固有値、固有多項式、トレース、行列式、階数がそうです。これらを相似不変量といいます。
<svg viewBox="0 0 460 210" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="30" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">座標を取り替えてから写像を施し、もとの座標に戻したものが B です</text>
<text x="95" y="74" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">Py</text>
<text x="365" y="74" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">APy</text>
<text x="95" y="170" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">y</text>
<text x="365" y="170" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">By</text>
<line x1="95" y1="155" x2="95" y2="90" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="91,90 95,82 99,90" fill="#1b81e0"></polygon>
<text x="108" y="126" font-size="12" fill="#1b81e0">P</text>
<line x1="125" y1="68" x2="330" y2="68" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="330,64 338,68 330,72" fill="#1b81e0"></polygon>
<text x="228" y="58" font-size="12" fill="#1b81e0" text-anchor="middle">A</text>
<line x1="365" y1="86" x2="365" y2="151" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="361,151 365,159 369,151" fill="#1b81e0"></polygon>
<text x="378" y="126" font-size="12" fill="#1b81e0">P<tspan font-size="9" dy="-4">-1</tspan></text>
<line x1="115" y1="165" x2="330" y2="165" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></line>
<polygon points="330,161 338,165 330,169" fill="#9a9a9a"></polygon>
<text x="228" y="185" font-size="12" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">B</text>
<text x="30" y="204" font-size="11" fill="#9a9a9a">遠回りした先と、下の矢印で直接進んだ先が一致します</text>
</svg>相似は同値関係である
相似の関係は反射律、対称律、推移律を満たします。行列の集まりが、互いに相似なものどうしの組にきれいに分かれるということです。
反射律は を取れば済みます。 なので、どの行列も自分自身と相似です。
対称律は を新しい に取り直すだけで出ます。 の両側から掛ければ となり、 と置けば の形になります。
推移律も同様です。 と から、 が得られます。 は正則なので条件を満たします。
基底を取り替えて同じ写像を見る
線形写像を行列で書くには、基底を決める必要があります。基底を変えれば成分は変わりますが、写像そのものは変わりません。
を基底の変換行列とすると、新しい基底での表現行列が になります。相似という関係は、この「見え方の違い」をそのまま定義にしたものです。
したがって相似不変量とは、写像そのものに属する量ということになります。成分を見ただけでは分かりにくい性質が、都合のよい基底を選ぶと見えてくるわけです。
固有多項式は変わらない
いちばん基本になる不変量が固有多項式です。証明は行列式の積の公式だけで済みます。
を使って、括弧の中をひとまとめにしました。あとは行列式を分けます。
なので、両端が打ち消し合います。固有多項式が同じなら、その根である固有値も重複度こみで一致します。
行列式・トレース・階数も変わらない
固有多項式が一致する時点で、行列式と固有値の情報は決まります。ただし個別に確かめても手間はかかりません。
行列式は積の公式そのものです。 となります。
トレースには を使います。 と の積と見て順序を入れ替えると、次のように戻ります。
階数は、正則行列を左右どちらから掛けても変わりません。したがって です。
固有ベクトルは P で移り合う
固有ベクトルそのものは一致しません。対応する相手が決まっているだけです。
とします。 の両辺に を掛けると、次の計算が成り立ちます。
つまり の固有ベクトル に対して、 が の固有ベクトルになります。固有値は同じ のままです。
この対応は による写像なので、固有空間の間の同型を与えます。次元が保たれるので、幾何的重複度も相似不変量です。
例:相似な 2 つの行列で不変量を確かめる
次の と を取ります。
は右上の符号を変えたものです。順に掛けます。
は対称で成分がそろっているのに、 は下三角行列です。見た目は似ていません。
それでもトレースはどちらも 、行列式はどちらも です。固有多項式は で一致し、固有値は と になります。
逆行列・転置・べき乗との相性
相似の関係は、行列の基本的な操作をまたいで保たれます。 から出発して確かめられます。
べき乗では が途中で打ち消し合います。 となり、同じことを繰り返せば です。
多項式にも広がります。 を多項式とすると が成り立つので、 と は同値です。最小多項式が相似不変量になる理由がここにあります。
逆行列も同じです。 が正則なら となり、 と も相似になります。
転置では変換行列が入れ替わります。 なので、 と置けば と の相似が見えます。
例:相似を使って累乗を求める
対角行列と相似になる場合、べき乗の計算が軽くなります。先ほどの を別の で移します。
の列は の固有ベクトルです。相似変換の結果は対角行列になります。
対角行列の 乗は対角成分を 乗するだけです。 に戻すと、成分が閉じた式で書けます。
で確かめます。
を直接 乗した値と一致します。
<svg viewBox="0 0 460 200" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="30" y="22" font-size="11" fill="#1f1f1f">対角行列を経由すると、べき乗は対角成分の計算だけになります</text>
<path d="M 60 118 L 60 62 L 400 62 L 400 118" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></path>
<polygon points="396,118 400,126 404,118" fill="#9a9a9a"></polygon>
<text x="230" y="54" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">行列の積を k 回くり返す</text>
<text x="60" y="140" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">A</text>
<text x="173" y="140" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">D</text>
<text x="287" y="140" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">D<tspan font-size="9" dy="-4">k</tspan></text>
<text x="400" y="140" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">A<tspan font-size="9" dy="-4">k</tspan></text>
<line x1="76" y1="136" x2="150" y2="136" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="150,132 158,136 150,140" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="189" y1="136" x2="264" y2="136" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="264,132 272,136 264,140" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="303" y1="136" x2="377" y2="136" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="377,132 385,136 377,140" fill="#1b81e0"></polygon>
<text x="113" y="160" font-size="10" fill="#1b81e0" text-anchor="middle">P で移す</text>
<text x="226" y="160" font-size="10" fill="#1b81e0" text-anchor="middle">対角成分を k 乗</text>
<text x="340" y="160" font-size="10" fill="#1b81e0" text-anchor="middle">P で戻す</text>
<text x="30" y="186" font-size="11" fill="#9a9a9a">どちらの道を通っても同じ行列に着きます</text>
</svg>不変量が一致しても相似とは限らない
不変量は相似であるための必要条件にすぎません。すべてそろっていても、相似でない組は作れます。
この 2 つはトレースが 、行列式が 、階数が 、固有多項式が で、どれも一致します。
しかし相似ではありません。単位行列はどんな正則行列 でも となるため、相似な相手は自分自身しかいないからです。
同じ理由で、スカラー行列 も自分以外と相似になりません。相似類がただ 1 つの行列だけからなる例です。
区別は幾何的重複度に現れます。 の固有空間は平面全体で次元が 、 のほうは直線で次元が です。
例:階数を使って相似でないことを示す
不変量は、相似でないことを示す道具として働きます。値が 1 つでも食い違えば、そこで結論が出ます。
どちらも対角成分とその下がすべて です。固有多項式はともに で、トレースも行列式も になります。
ところが階数が違います。 は独立な行が 本あるので階数 、 は 本だけなので階数 です。
階数は相似不変量ですから、この つは相似ではありません。固有値をどれだけ丁寧に調べても、この違いは見つかりません。
例:対称行列に相似でも対称とは限らない
相似で保たれないものもあります。成分の対称性がその一つです。
は対角行列なので当然に対称です。ところが相似変換の結果は対称になりません。
トレースは 、行列式は で、不変量のほうはきちんと保たれています。対称性は基底の取り方に依存する性質だと分かります。
対角化との関係
対角化可能という言葉は、相似の言葉で言い換えられます。 が対角化可能であるとは、 が対角行列と相似であることです。
このとき対角成分は の固有値です。両辺の固有多項式が一致し、対角行列の固有多項式は対角成分から決まるからです。
並べ替えの自由度だけが残ります。 の列を入れ替えれば対角成分の順番も入れ替わるので、対角行列は順序を除いて定まります。
どの行列が対角化可能かという判定は、固有値の重複度を調べる話になります。判定条件そのものは行列の対角化の記事で扱います。
例:置換行列で対角成分を並べ替える
対角行列どうしでも、成分の順番が違うだけなら相似です。置換行列を使うと入れ替えられます。
は第 行と第 行を入れ替える行列で、 を満たします。左右から挟むと、行と列が同時に動きます。
と が場所を交換しました。対角化の結果が順序を除いてしか決まらないのは、この操作がいつでも使えるからです。
例:実数の範囲では対角行列と相似にならない
相似な仲間の中に対角行列がいるとは限りません。平面の回転を表す行列がその例です。
固有多項式は で、実数の範囲に根がありません。対角行列と相似なら対角成分がそのまま実数の固有値になるので、そのような は取れません。
複素数まで広げると話が変わります。固有値は と になり、 は と相似です。
実行列どうしの相似性は、複素数まで広げても変わりません。ここで比べた対角行列は実行列ではないので、その事実とは別の話になります。
対角化可能な行列どうしが相似になる条件
と がともに対角化可能なら、相似かどうかは固有値だけで決まります。重複度をこめて固有値が一致すること、それが必要十分条件です。
必要であることは固有多項式の不変性から出ます。逆に固有値がそろっていれば、それぞれの対角化を経由して相似が示せます。
が と、 が と相似だとします。 と は同じ数を同じ個数だけ並べたものなので、置換行列で移り合います。
相似は推移律を満たすので、 と も相似です。対角化できない行列を含めると、この判定は成り立ちません。
例:固有値がそろう 2 つの行列の変換行列を作る
前節の主張を具体的に確かめます。次の つはどちらも対角化でき、固有値は と です。
固有ベクトルを列に並べた行列をそれぞれ作ります。固有値 の列を先に置き、 側を 、 側を と書きます。
どちらも に移ります。そこで と置くと、 と を直接つなぐ行列が手に入ります。
計算すると が成り立ちます。対角行列を中継点にすれば、変換行列はこの手順でいつでも作れます。
相似・合同・行同値の違い
正則行列を掛ける形の関係はいくつもあります。掛け方が違えば保たれる情報も変わるので、区別が要ります。
行基本変形でつながる関係は で、左からだけ掛けます。左右から掛ける の形は同値と呼ばれ、階数が一致することと同じ意味になります。
の形。同じ写像を別の基底で見たもので、固有値やトレースが保たれる
の形。同じ二次形式を別の基底で見たもので、対称性と符号の情報が保たれる
相似ならば同値ですが、逆は成り立ちません。単位行列と先ほどの はどちらも階数 なので同値ですが、相似ではありませんでした。
が直交行列のときは なので、相似と合同が同時に成り立ちます。対称行列を直交行列で対角化する場面が、その重なりにあたります。
他の話題とのつながり
複素数の範囲では、ジョルダン標準形が相似の完全な目印になります。2 つの行列が相似であることと、ブロックの並べ替えを除いて同じジョルダン標準形を持つことは同値です。
固有多項式と幾何的重複度をそろえても、まだ足りない場合があります。どの大きさのブロックがいくつあるかまで一致して、はじめて相似になります。
体を広げても相似かどうかは変わりません。実行列の組が複素数の範囲で相似なら、実数の範囲でも相似になります。
行列の指数関数とも相性がよく、 が成り立ちます。対角化を経由して指数関数を計算できるのは、この等式のおかげです。












